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第十四章 Gospelzeit
Merry Christmas. Thank you for loving me.
しおりを挟む「そうね、恋人か……改めて言われると何だか照れちゃうけど、はい判りました。透。そう呼ばせて頂きますね」
「俺も今から彩香って呼ぶよ、彩ってだけ呼ぶ時もあるかな。それでいいよね?」
「勿論よ、透……きゃっ本当に何だろう。とてもこう、こそばゆい。男の人を呼び捨てにするのって弟くらいなものだから妙な気分がするの。嬉しいのだけれど、いけない事をしている様な気もして。不自然な感じ?慣れるのかしら」
「駄目。もう、さん付けはしないで。それに敬語も無し。余所余所しくていけない。もしもこれを破った時には許さない」
「許さないって……どうなさる気?」
微妙な顔付きで僕を見上げる彼女を見て、ハッとした。
(前の悪い男を思い出させてしまったかな)
「今、わざと敬語を使ったな。どうしようか。こうしよう」
僕は彩香の肩を引き寄せ脇をこそぶった。
彼女は嬌声を挙げながら体を攀よじって抵抗する。
紙袋の中の天使もカタカタ躍る。
彼女の笑顔はイルミネーションに映え、少女がツリーの下ではしゃいでいる様に見える。
(可愛い貴女を怖がらせたりはしないよ。その笑顔を僕は居るのだから)
華奢な背中に廻り、僕は肩越しに襟元に軽く口づけて、その後きつく抱き竦すくめた。
「離さないよ。いつも一緒に居るから、もう見失うことも決して無いんだ」
「見失う?」
「ん、失わないって言ったのさ。彩香を失いたくは無いって。愛してもいいだろ?」
「嬉しいよ……透」
雪が降り始めていた。
今年初めての雪だ。
「ホワイトクリスマスだわ。Merry Christmas 透」
「ああ忘れてたね。最高の演出をしてくれた神にも感謝だ。そして君にも――Merry Christmas 彩香」
巻いていたマフラーを彼女に頭から掛け、顔を近付けてキスをした。
「彩香とこうしてると。とても暖かいよ」
「ねぇねぇママ、あそこのお兄ちゃん達。何してるの?」
「きっと『サンタさんにプレゼントは何をお願いしようか』ってお話してるのよ。だから邪魔しないようにしなきゃね」
小さな女の子の声と、その母親の声が聞こえた。
(そうだよ、僕はプレゼントを貰えたよ、ずっと欲しいと願ってきた女神をね)
雪はやさしく街を包む。
鐘が鳴り始めた 。
福音をしらせる鐘の音だ。
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