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第十五章 金子祐子の憂鬱
青天の霹靂
しおりを挟む「…………大丈夫ですか?顔色が冴えない様にお見受けしますが。」
藍澤いう弁護士がテーブル越しに身を乗り出し言った。
「いえご心配には及びません、少し目眩がしただけで。最近眠れていませんので。」
「この続きは後日に致しましょうか。急ぐ事では有りません、今日は書類をお渡ししますので、次までに目を通してどうなさるかゆっくりお考え頂ければ宜しいのです。」
父親の死を聞かされるも眉一つ動かさなかった者の急変に、何某かを慮ったのかもしれない。 実際、衝撃のあまり血の気を失った。
自覚は無いけれど私はそれを相当量、面に出してしまっている様だ。 この者の思考を意図しない方向へ導いてしまう前に、この場、早々に片をつけねば。 収拾しなくてはいけない事がいま私に、降って湧いたのだから。
「このまま家に帰りましても私の考えは変わりません。あの人の遺産を受け取るのはご辞退申し上げます。私が、全てを捨てあの家を出た。その分を透に廻して頂ければ何ら異存を申すことは御座いません。それに、透のこれからに関係することですから結論は急いで出さねば為らない。あの子が高等教育を終える迄あと半年足らず……その間に養子縁組をと考えていました……今は早まらなくて良かったと思っています。」
そう、あと半年しか時間が無い。 それ以上は一緒に居られないと云うことなのよ……透。
「知りたいのは。主を失った今、あの家がどうなっているのか?透が帰る場所で有り得るのか?それを知りたいのです。でなければ、別に住む家を用意してやって頂きたい。大学に通い学位を修める間の仮住まいとしてでも結構ですので。これを私とあの子の相続を担当させている藍澤様に、御配慮願えましょうか?何卒宜しく。」
「勿論です、御二人のことは私が責任をもって。確かに本家には……まあ色々と、問題が山積しておりますね。分かりました。諸事万端お任せ頂きたい。」
藍澤はやっと職責が果たせるかと、端から人の良げなのが一層朗らかな顔つきになる。
「ところで祐子様。お父様の遺された物は大変なものですし、預金の一部だけでも相続されては如何です。それならば待って頂くことなくお渡し出来るかと。それだけの事をお嬢様は、この三年間されて来た。」
「お金欲しさにあの子を引き取った訳ではありません。」
事も無げな言い様に、弁護士は続ける言葉を探せず悄然とした面持ちで口を詰むで、辛うじて気の毒そうな目線を私に向けるのだった。
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