タブー的幻想録

ももいろ珊瑚

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第十五章 金子祐子の憂鬱

狷介な私を緩ませた無二の友

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 晋人くにひとさんとは、父に連れ立って主日に行く実家そばの教会で出会った。
 父が手厚く庇護するそこで執事。所謂いわゆる、牧師見習いをする青年であった。

 敬虔な物言いや顔立ちに対し、スターン越しにも分かる鍛え上げられ屈強そうな筋骨。 戒律的な空間の中にあって聖職者を思わせない、或る意味、異端な肉感的体躯たいくをもつ人、と云うのが彼への第一印象だ。

「それはね。元は韓国籍で兵役を終えて日本こちらにナチュラリゼーションしたからさ。確かに此処の他の神父方とは違うかな、ハハハ……」

 と彼が、日に焼けた顔に人懐っこい笑みを浮かべて後に話してくれた。


 狭まった世界に身を置き生きてきた筈なのに、見識が広く思考も柔軟で、その常に他者の事を気遣う人柄からも周りの誰からもよく彼は好かれた。 そして誰にでも自らが話し掛けていた。 その姿勢は懐疑的眼差しでミサに居た私にも同様だった。
 中学の頃より美術の世界を目指す私に、世界の絵画や著名な画家の人生観、時代背景についてをよく話して聞かせてくれていた。 ひと回りも下の私を子供扱いなどせず、敬いを持ち接するのは、結婚しのちに離れ、海を隔て暮らす今に至るまで終始変わる事はない。

 彼はいつしか私の無二の親友に成っていた。 しかし、そんな彼にも明かせない悩みを私は抱えていた。


 誰にも云えない罪を犯し神の門は潜れない自らと、そう追いやった父を、母を憎み、いつかこの家を出た時には死のうとすら考えていた。
 これこそ罪深きことである。
 だが私に残された唯一の救い、と当時は考えていた。

 彼は覚さとってはいた様だが敢えて尋ねては来ない。
 彼であるからの優しさだ。 憎めないひと。
 気付かぬ振りをして、自立する手立てを一緒になり考えてくれた。



 そんな彼に淡い恋心を抱いている自分に、ふと気付く。
 隣の県に在る大学に入学し、生家から女子寮に移り住み、つかの間の自由を手にした頃である。

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