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第十七章 無間地獄と天上世界
気力が失せ思考が停止して
しおりを挟むその日から私は食べ物を受け付けなく為ってしまった。
常に怠く気も重く、匂いは感じているのだが風邪を拗らせたときの様に、何を口にしても味がしない。 咽のどを通ってゆかなくて噛み続けて唾を出し、汁物で流し込むことで、辛うじて胃の中に押し込んだ。
生活態度を変えると、親元へ連絡がいってしまい、寮から呼び戻されてしまう。 それだから、人前では陽気に振る舞った。
日常の全てが疲弊させる要因でありはしたが、努めてそうした。
部屋へ戻り独りになれば、それ等からは解放されるが、胸の空洞を思い知らされ、尚も辛くなった。
「矢張り私は生まれながらにして神に罰っせられる人間なのだ。」
何かの呪文を唱える様に、何度も繰り返し口から溢れ出た。
人として、死ぬことも生きることも叶わない、この様な人生に何の意味が有るのか?
私の存在を誰も喜ばない。
救いとした人も、もういない。
誰にも縋ってはいけないのだ、神にも……。
心の依り処としたかった人への気持ちは、伝えられない侭で。 伝える前にして、届かぬものと言い渡された。 前進も後退も出来ない、永遠にこの場所で立ち続けるしかない……自然に死が訪れる迄。
涙も出なく為ってしまった。 畏れも感じない。 それすらも赦されない気がした。 愛してくれる人はこの世にも、その先にも現れない……自分には絶望しかない。
未だ人生の何たるかを知らない小娘が、心を寄せる男の有り得ない事実を知ったのだから、仕方ない精神状態ではあったが、哀しいことには、そういった努力の類いは少しも身には付いてくれないのもので、肉は簡単に削げていき、笑ってしまう程に痩せてゆく。
しかし辛くとも、休まず大学へ通った。
『兎に角にも学校は卒業しなさい』とあの日の最後に彼は言った。
そして再々送ってくれた手紙にも『けじめを付ける等という事ではありませんが、学業が出来るのは多分今のうちだけと思われます。私が考えている計画を実行する前に、将来ご自分で身を立てる大切な準備の一つと考えて下さい。』としたためて下さっていた為である。
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