タブー的幻想録

ももいろ珊瑚

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第十七章 無間地獄と天上世界

歓びに卒倒する

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 晋人くにひとさんと会い、絶望の淵に立たされ手を振った日から、ふた月が経とうとしていた秋晴れの日。 届いた手紙に書かれた知らせに喜び驚き、心身共に切羽詰まっていた私は、過剰な興奮状態に陥おちいり卒倒してしまい、救急に運ばれた先の病院にて、そのまま数日入院することと為った。

 『家の者が知ると、唯の貧血が大きな騒ぎになって、寮と学校にかえってご迷惑を掛けることと為るので、どうか内密に』と寮母に殊更頼み込み、何とか口止めする事が出来た。
 私と同じく寮にいる同級生の中、特に親しくしていた友人に願って、部屋から下着等の必要な物に加え、倒れる原因と為ったあの手紙を持ってきて貰い、ベッドの上でこっそりと読めるよう、枕元の聖書にそれを挟んで於おいた。
 この衰弱していた身体に生気を吹き込むのは、点滴では無く唯一、この手紙に書かれてある一文でなのだ。



 『……お話していたフランスへの神道留学が、本日故郷の教会より許可されました。貴女の卒業が決まるのを待っての実行を、と考えておりました婚約の申し出を、早急ですが、来る生神女進堂祭しょうしんじょしんどうさいに繰り上げます。私と一緒にフランスへ参りましょう。……』



 何故『婚約』という方法を執るのか、その日を生神女進堂祭しょうしんじょしんどうさいにする理由は、それが《父》に何故受け入れられる方法なのか、留学迄と留学後に私は何をすれば良いのか、中途に為る学業については、等々を簡潔に書かれていた。
 晋人くにひとさんが、どうやって私を救い出そうとしていたのかを、詳しく聞くのはこれが初めてであった。




 〖 生神女進堂祭しょうしんじょしんどうさい〗は11月21日に祝われる正教会の祭日で、十二大祭のひとつ。――――マリヤが三歳のとき、両親イオアキムとアンナは、彼女が生まれる前の誓いに従い、エルサレム神殿にマリヤを献じた。大祭司ザハリヤは彼女を受けて、本来は女性が立ち入ることを許されない聖所へと彼女を導き、彼女はその後成人まで聖所に養われた。――――聖人伝には、この祭の教訓として、親たちに子どもを教会に伴い神の教えを聞くことの大切さを銘記させるものだとするものがある。

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