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第十八章 生神女進堂祭
唯一、遡り訂正したい最後の機会
しおりを挟む「私のことは良いです。今まで黒田さんはもとより、この家の皆さんに大変良くして頂いております。これ以上の物を欲しがるのは、己の分を超えた我が儘だと考えています。去る者……いつかはそう為るであろう私には何も要りません。父が遺すものは全て父に尽くして下さっている方々へと、思っているのです。何なら産まれてくる子が受け継げば良い、と。その子を私が祝してあげられない分、黒田さん、代わって下さいませんか?」
「なんて優しいお人柄なんでしょう! 祐子お嬢様は本当に出来た方です。分かりました、私が代わって致します……ですから御安心召されて。お嬢様も旦那様も私がお守りしますからね。多恵とその子など断固……」
その時、置き時計が一斉に正午を告げた。
言いたかった事を勘違いされたと思ったが、騒然と鳴り響く音が晋人さんと約束した時刻が迫っていることを思い起こさせた。 用意した品を急いで各々の紙袋へと分け入れ、この場を片付ける事に集中しなければ為らない。
自分の仕事に気付いた彼女も、慌ただしく部屋のドアを開け出ていってしまった。
誤解を解き、二人には優しくしてくれるよう言い含められる最後の機会であった。 この機を逃した事を後で気付き、私は悔やむ。
そうしていれば、彼女が黒い噂をたてることはしなかったのではないか。 もしも願えば、去った私に代わり、生まれてきた赤子を擁護する側に回ってくれやしなかったか。
透が母親から引き離されることを何とか止めに動いてはくれなかったか、と。
そうすれば、女である私と違い男児である透は、ここで幸福な少年時代を味わせてあげられただろう。 透と巡り逢う幸が私に起こら無くなったとしても。 今ある私が消えて無くなろうとも、願わくばその時に戻ってやれるべきことを行使したい。
それをして過去を変えたとしても、まだ見ぬ弟とその母に、私と私の母の身代わりをさせたままでこの家を去った私に、姉と名乗ることは赦されることでは無い。
况てや変わることの無い現状では、知らずにも間違って愛し、身も心も汚し傷付けてしまった女が唯一の血縁者だなどとは、墓場まで持って逝かねば……。
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SparkNorkxさん
感想とお気に入り登録までいただき、大変感謝しております(•'-'•)
私の方からも、SparkNorkxさんの作品をお気に入り登録させて頂きました!
どうぞ宜しくお願い致します( ⁎ᴗ_ᴗ⁎)ペコッ
全ての作品お気に入り登録させてもらいました。陰ながら応援してます(^^)/
花雨さん、感想をくださり、ありがとうございます。
初めて貰えた感想なので、嬉しさのあまりパニクってしまいアタマ真っ白状態に(T▽T)アハハ
僭越ながら私も、作品含め花雨さんのことを応援させて頂きます!
大賞の投票は明後日からですね。頑張って下さい❤