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第5章 新たな場所へ
第23話 沿岸村決戦編 ― 前夜
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灯台での激しい攻防から二日後、俺たちは黒羽同盟の次なる標的とされる沿岸の小さな漁村《カローネ》に到着した。
村は美しい小高い丘と切り立った岩場に自然に囲まれ、絶え間なく吹く潮風の香りが漂う本来なら静かで平和な場所だった。しかし、港には本来なら数多く停泊しているはずの漁船の姿が異常に少なく、砂浜には漁網や釣り竿などの漁具が使われることなく放置されている。村人たちの表情は一様に硬く緊張しており、よそ者である俺たちを見る視線には明らかな警戒心と不信感が突き刺さるように感じられた。
「……既に黒羽同盟の脅威についての噂が村全体に広がってるな」
バルグが歴戦の戦士らしい鋭い洞察力で村の雰囲気を読み取り、低く呟く。
リィナは薬師として敏感に、村を歩き回る子供たちの軽い咳き込みや、大人たちの微妙な体調不良に気づき、心配そうに眉をひそめた。
「海風に混じって微量の粉末毒の成分が検出される……もう前哨的な毒物散布が始まってるかもしれない」
俺は大きく翼を広げて高度を上げ、上空から村全体と周辺海域を詳細に俯瞰する。鷲の優れた視力で海の彼方まで観察すると、沖合に不自然に動きを完全に止めた小型船が一隻、怪しく浮かんでいる。船体の船尾付近に、見慣れた黒羽同盟の金色の紋章がはっきりと刻まれているのが確認できた。荷物を下ろしたり、漁業を行ったりする気配は全くないが、甲板の上では数人の人影が何やら不穏な準備作業を行っているのが見える。
◆
村の中心部にある古い木造の村長宅に案内されると、七十代の白髪の老人が深いため息をつきながら、憂鬱そうに現在の状況を詳しく話してくれた。
「三日前から港の外れに見慣れない怪しい船が居座っておる。昼間は沖で待機しているが、夜になると小舟を出して岸近くまで来て、何か得体の知れないものを海に流し込んでおるようじゃ。だが漁師たちは皆恐れおののいて、とても近づこうとしない」
村長の話から、黒羽同盟が段階的に村への攻撃を開始していることが明確になった。
俺たちは即座に組織的な警戒網を村全体に張ることを決めた。バルグは港の物理的防衛と警備の指揮を、リィナは村人の体調管理を行う治療拠点の設営と、緊急時の避難経路の確保を、そして俺は夜間の偵察活動と上空からの監視を担当する。
敵は三日後に本格的な大規模攻撃を開始する予定だが、前哨的な毒物散布工作は既に始まっている可能性が非常に高い。
◆
その夜、月明かりがきらめく海面の下で、恐れていた通りの事態が展開された。
黒い小舟が音もなくゆっくりと港へ近づいてくる。船上の黒衣の男が重そうな木箱を慎重に抱え上げ、計算されたタイミングで海面に投げ入れる。箱は海水に触れると割れて、中から例の粉末毒が雲のように広がり、潮流に乗って確実に村の港へ向かって流れ始める。
俺は翼を畳んで急降下し、海面近くで箱を鋭い爪で掴み取り、村の安全な海辺に投げ上げた。待ち構えていたリィナが即座に中和用の薬草粉を効率的に振りかける。
粉末は化学反応を起こして青白い煙を上げ、毒性が完全に中和されて消えていく。
敵は俺たちの存在に気づくと、慌てて舵を切って沖合へ急いで逃走した。
「……これはまだ前哨戦に過ぎないな。本当の戦いは三日後、もっと大規模で組織的な攻撃が来るはずだ」
バルグが愛用の戦斧を丁寧に磨きながら、戦士としての経験に基づいて低く言う。
◆
運命の三日後の朝、ついにその時が来た。
朝日が水平線から昇る頃、沖合に十隻近い船影が威圧的な陣形で現れた。中型の武装貨物船、機動力の高い武装小舟、そして――陣形の中央には見覚えのある不吉な黒い帆船が堂々と浮かんでいる。その船の甲板の上には、例の恐ろしい刺青の男が両腕を組んで立っているのが確認できた。
その冷酷な視線は、まるで俺たちを直接見据えているかのように感じられ、背筋に寒気が走る。
「今度こそ、絶対に逃がさん」
俺は決意を込めて翼を大きく広げ、海風を力強く切って青い空へ舞い上がった。
美しい沿岸の漁村を舞台に、黒羽同盟との運命を賭けた本格的な海上決戦が、ついに幕を開けようとしていた――。
村人たちは安全な高台に避難し、バルグは港で戦斧を構え、リィナは治療の準備を整える。そして俺は空中から全体を指揮し、仲間たちと共にこの最後の戦いに挑む覚悟を固めた。
海風が激しく吹く中、黒羽同盟の船団がゆっくりと港に向かって進んでくる。その先頭に立つ刺青の男の不敵な笑みが、朝日に照らされて不気味に輝いていた。
村は美しい小高い丘と切り立った岩場に自然に囲まれ、絶え間なく吹く潮風の香りが漂う本来なら静かで平和な場所だった。しかし、港には本来なら数多く停泊しているはずの漁船の姿が異常に少なく、砂浜には漁網や釣り竿などの漁具が使われることなく放置されている。村人たちの表情は一様に硬く緊張しており、よそ者である俺たちを見る視線には明らかな警戒心と不信感が突き刺さるように感じられた。
「……既に黒羽同盟の脅威についての噂が村全体に広がってるな」
バルグが歴戦の戦士らしい鋭い洞察力で村の雰囲気を読み取り、低く呟く。
リィナは薬師として敏感に、村を歩き回る子供たちの軽い咳き込みや、大人たちの微妙な体調不良に気づき、心配そうに眉をひそめた。
「海風に混じって微量の粉末毒の成分が検出される……もう前哨的な毒物散布が始まってるかもしれない」
俺は大きく翼を広げて高度を上げ、上空から村全体と周辺海域を詳細に俯瞰する。鷲の優れた視力で海の彼方まで観察すると、沖合に不自然に動きを完全に止めた小型船が一隻、怪しく浮かんでいる。船体の船尾付近に、見慣れた黒羽同盟の金色の紋章がはっきりと刻まれているのが確認できた。荷物を下ろしたり、漁業を行ったりする気配は全くないが、甲板の上では数人の人影が何やら不穏な準備作業を行っているのが見える。
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村の中心部にある古い木造の村長宅に案内されると、七十代の白髪の老人が深いため息をつきながら、憂鬱そうに現在の状況を詳しく話してくれた。
「三日前から港の外れに見慣れない怪しい船が居座っておる。昼間は沖で待機しているが、夜になると小舟を出して岸近くまで来て、何か得体の知れないものを海に流し込んでおるようじゃ。だが漁師たちは皆恐れおののいて、とても近づこうとしない」
村長の話から、黒羽同盟が段階的に村への攻撃を開始していることが明確になった。
俺たちは即座に組織的な警戒網を村全体に張ることを決めた。バルグは港の物理的防衛と警備の指揮を、リィナは村人の体調管理を行う治療拠点の設営と、緊急時の避難経路の確保を、そして俺は夜間の偵察活動と上空からの監視を担当する。
敵は三日後に本格的な大規模攻撃を開始する予定だが、前哨的な毒物散布工作は既に始まっている可能性が非常に高い。
◆
その夜、月明かりがきらめく海面の下で、恐れていた通りの事態が展開された。
黒い小舟が音もなくゆっくりと港へ近づいてくる。船上の黒衣の男が重そうな木箱を慎重に抱え上げ、計算されたタイミングで海面に投げ入れる。箱は海水に触れると割れて、中から例の粉末毒が雲のように広がり、潮流に乗って確実に村の港へ向かって流れ始める。
俺は翼を畳んで急降下し、海面近くで箱を鋭い爪で掴み取り、村の安全な海辺に投げ上げた。待ち構えていたリィナが即座に中和用の薬草粉を効率的に振りかける。
粉末は化学反応を起こして青白い煙を上げ、毒性が完全に中和されて消えていく。
敵は俺たちの存在に気づくと、慌てて舵を切って沖合へ急いで逃走した。
「……これはまだ前哨戦に過ぎないな。本当の戦いは三日後、もっと大規模で組織的な攻撃が来るはずだ」
バルグが愛用の戦斧を丁寧に磨きながら、戦士としての経験に基づいて低く言う。
◆
運命の三日後の朝、ついにその時が来た。
朝日が水平線から昇る頃、沖合に十隻近い船影が威圧的な陣形で現れた。中型の武装貨物船、機動力の高い武装小舟、そして――陣形の中央には見覚えのある不吉な黒い帆船が堂々と浮かんでいる。その船の甲板の上には、例の恐ろしい刺青の男が両腕を組んで立っているのが確認できた。
その冷酷な視線は、まるで俺たちを直接見据えているかのように感じられ、背筋に寒気が走る。
「今度こそ、絶対に逃がさん」
俺は決意を込めて翼を大きく広げ、海風を力強く切って青い空へ舞い上がった。
美しい沿岸の漁村を舞台に、黒羽同盟との運命を賭けた本格的な海上決戦が、ついに幕を開けようとしていた――。
村人たちは安全な高台に避難し、バルグは港で戦斧を構え、リィナは治療の準備を整える。そして俺は空中から全体を指揮し、仲間たちと共にこの最後の戦いに挑む覚悟を固めた。
海風が激しく吹く中、黒羽同盟の船団がゆっくりと港に向かって進んでくる。その先頭に立つ刺青の男の不敵な笑みが、朝日に照らされて不気味に輝いていた。
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