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第5章 新たな場所へ
第22話 海港での毒物汚染と灯台の攻防
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険しい山道を下り、久しぶりに潮の香りが海風に乗って鼻をかすめる頃、視界の先に美しい青い海と港町が牧歌的な姿を現した。
港の沖合には大小様々な船が数多く浮かんでおり、白い帆を下ろして静かに停泊している。遠洋漁業船、沿岸貿易船、小型の漁船まで、本来なら活気に満ちているはずの光景だった。しかし、実際に見えるのは不自然なほどの静寂で、埠頭で荷役作業に従事する人の数は明らかに平常時より少ない。船の甲板から手を振って挨拶する漁師の姿もなく、港全体がどこか不安げで重苦しい沈黙に深く包まれていた。
「……ここの空気、グランツの町より重苦しいな」
バルグが歴戦の戦士らしく鋭い直感で周囲の異常を察知し、太い鼻を鳴らしながら言う。
「潮風に混じって、微かに金属粉のような人工的な匂いがする」
リィナが薬師として訓練された繊細な嗅覚を働かせながら低く呟いた。彼女の嗅覚は俺以上に鋭敏で、わずかな化学物質の存在も見逃さない。
俺は翼を大きく広げて高度を上げ、上空から港全体を詳細に俯瞰する。鷲の優れた視力で港の隅々まで観察すると、貨物倉庫が数棟、公的に封鎖されており、警備兵の数も普段より明らかに多い。そして港の西端、古い石造りの波止場に黒羽同盟の不吉な黒い旗を掲げた小型船が堂々と停泊しているのが確認できた。
◆
港の中心部にある古い石造りの宿屋で地元の人々から情報を収集すると、最近この町では深刻な異常事態が発生していることが判明した。
「漁網に正体不明の黒い粉末が大量に付着して、海で獲れる魚が原因不明の大量死を起こしている」という前代未聞の現象が続いているという。しかも、その謎の黒い粉末に直接触れた漁師たちが、高熱と激しい嘔吐に襲われて次々と倒れる深刻な事例が相次いでいるのだ。
海への組織的な毒物投棄――つまり黒羽同盟は、港を物理的に軍事支配する前に、この地域の経済基盤である漁業と海上貿易を完全に壊滅させようとしているのだ。極めて巧妙で悪質な戦略だった。
さらに宿の主人から聞いた話では、港の安全航行にとって生命線である古い灯台が、一週間前から突然封鎖されているとの不穏な噂もあった。灯台はこの港に入港する全ての船にとって、夜間の危険な岩礁を避けて安全に港に導く唯一無二の目印だ。封鎖されたままでは船は夜間入港できず、港町は外界から完全に孤立してしまう。
俺の頭の中で、あの地図に記された赤い印の意味と、この港の現在の深刻な状況がぴたりと一致した。
「……あの刺青の男、ここで一気に海上交通路を完全に断つつもりだな」
◆
夜が深まると、俺たちは決死の覚悟で封鎖された灯台へ向かった。
断崖絶壁の上に威厳を持ってそびえ立つ白い石造りの塔は、月光を浴びて幻想的だが不気味に光っている。数百年の歴史を持つ立派な建造物だが、今や邪悪な目的に利用されている。近づいてみると、重厚な木の扉の前を二人の黒羽同盟の兵士が、剣と槍を手に厳重に見張っていた。
作戦は前回の成功パターンを応用したものだった。バルグが正面から堂々と現れて警備兵の注意を引きつけ、リィナは断崖下の人目につかない小道から音もなく接近する。俺は上空から灯台の小さな窓を通して内部の状況を詳細に偵察した。
内部を覗き込むと、予想以上に深刻な状況が展開されていた。灯台の内部には大量の毒物の樽と不気味な木箱が整然と並び、その中央で例の刺青の男が何やら複雑な作業に集中していた。例の金属製の箱も数個置かれているが、その中身は単純な粉末毒だけではなかった――火薬と化学的に混合された「爆発性毒粉」だった。
これを港の周辺海域に大量にばら撒けば、海水だけでなく沿岸部の大気まで広範囲に汚染できる。港町は数日以内に完全な死の町になってしまうだろう。
◆
俺たちは綿密に計画したタイミングで一斉に突入した。
バルグが全身の力を込めて灯台の重厚な扉を豪快に破壊し、リィナが準備していた毒物の中和粉を建物内部に効率的に投げ入れ、俺は刺青の男に向かって全速力で急降下する。三人の連携は完璧だった。
しかし、あの男は俺たちの動きを完全に先読みしていた。まるで予知能力でもあるかのように、背後の石壁を強力に蹴って一気に高所に飛び上がり、異様に長い曲刀で天井から垂れ下がっているロープを一瞬で断ち切る。
天井に吊り下げられていた爆発性の木箱が重力に従って落下し、灯台の石の床で激しく火花を散らす――爆発までの猶予時間はわずか数秒しかない。
「バルグ、その箱を外へ投げ捨てろ!」
俺の緊急指示に従って、歴戦の戦士は全身の筋力を総動員して重い木箱を力強く抱え上げ、灯台の窓から遠く海へと豪快に放り投げる。海面に巨大な水柱が立ち上がり、爆発による被害は辛うじて回避された。
だが、その混乱と爆発音に紛れて、刺青の男は再び神出鬼没の技で姿を完全に消してしまう。まるで最初からそこにいなかったかのように、跡形もなく消失した。
灯台の床には、黒い封蝋が厳重に施された古い巻物だけが意味深に残されていた。
俺たちが巻物を慎重に開いてみると、そこには海沿いの村々の非常に詳細な航路図と、恐ろしい次の襲撃予定日が正確に記されていた。
「三日後……奴らの動きが予想以上に早すぎる」
俺たちは深刻な表情で顔を見合わせ、一刻の猶予もないことを痛感して、すぐさま次の行動を決意した。黒羽同盟の巨大な陰謀を阻止するため、時間との勝負が始まっていた。
港の沖合には大小様々な船が数多く浮かんでおり、白い帆を下ろして静かに停泊している。遠洋漁業船、沿岸貿易船、小型の漁船まで、本来なら活気に満ちているはずの光景だった。しかし、実際に見えるのは不自然なほどの静寂で、埠頭で荷役作業に従事する人の数は明らかに平常時より少ない。船の甲板から手を振って挨拶する漁師の姿もなく、港全体がどこか不安げで重苦しい沈黙に深く包まれていた。
「……ここの空気、グランツの町より重苦しいな」
バルグが歴戦の戦士らしく鋭い直感で周囲の異常を察知し、太い鼻を鳴らしながら言う。
「潮風に混じって、微かに金属粉のような人工的な匂いがする」
リィナが薬師として訓練された繊細な嗅覚を働かせながら低く呟いた。彼女の嗅覚は俺以上に鋭敏で、わずかな化学物質の存在も見逃さない。
俺は翼を大きく広げて高度を上げ、上空から港全体を詳細に俯瞰する。鷲の優れた視力で港の隅々まで観察すると、貨物倉庫が数棟、公的に封鎖されており、警備兵の数も普段より明らかに多い。そして港の西端、古い石造りの波止場に黒羽同盟の不吉な黒い旗を掲げた小型船が堂々と停泊しているのが確認できた。
◆
港の中心部にある古い石造りの宿屋で地元の人々から情報を収集すると、最近この町では深刻な異常事態が発生していることが判明した。
「漁網に正体不明の黒い粉末が大量に付着して、海で獲れる魚が原因不明の大量死を起こしている」という前代未聞の現象が続いているという。しかも、その謎の黒い粉末に直接触れた漁師たちが、高熱と激しい嘔吐に襲われて次々と倒れる深刻な事例が相次いでいるのだ。
海への組織的な毒物投棄――つまり黒羽同盟は、港を物理的に軍事支配する前に、この地域の経済基盤である漁業と海上貿易を完全に壊滅させようとしているのだ。極めて巧妙で悪質な戦略だった。
さらに宿の主人から聞いた話では、港の安全航行にとって生命線である古い灯台が、一週間前から突然封鎖されているとの不穏な噂もあった。灯台はこの港に入港する全ての船にとって、夜間の危険な岩礁を避けて安全に港に導く唯一無二の目印だ。封鎖されたままでは船は夜間入港できず、港町は外界から完全に孤立してしまう。
俺の頭の中で、あの地図に記された赤い印の意味と、この港の現在の深刻な状況がぴたりと一致した。
「……あの刺青の男、ここで一気に海上交通路を完全に断つつもりだな」
◆
夜が深まると、俺たちは決死の覚悟で封鎖された灯台へ向かった。
断崖絶壁の上に威厳を持ってそびえ立つ白い石造りの塔は、月光を浴びて幻想的だが不気味に光っている。数百年の歴史を持つ立派な建造物だが、今や邪悪な目的に利用されている。近づいてみると、重厚な木の扉の前を二人の黒羽同盟の兵士が、剣と槍を手に厳重に見張っていた。
作戦は前回の成功パターンを応用したものだった。バルグが正面から堂々と現れて警備兵の注意を引きつけ、リィナは断崖下の人目につかない小道から音もなく接近する。俺は上空から灯台の小さな窓を通して内部の状況を詳細に偵察した。
内部を覗き込むと、予想以上に深刻な状況が展開されていた。灯台の内部には大量の毒物の樽と不気味な木箱が整然と並び、その中央で例の刺青の男が何やら複雑な作業に集中していた。例の金属製の箱も数個置かれているが、その中身は単純な粉末毒だけではなかった――火薬と化学的に混合された「爆発性毒粉」だった。
これを港の周辺海域に大量にばら撒けば、海水だけでなく沿岸部の大気まで広範囲に汚染できる。港町は数日以内に完全な死の町になってしまうだろう。
◆
俺たちは綿密に計画したタイミングで一斉に突入した。
バルグが全身の力を込めて灯台の重厚な扉を豪快に破壊し、リィナが準備していた毒物の中和粉を建物内部に効率的に投げ入れ、俺は刺青の男に向かって全速力で急降下する。三人の連携は完璧だった。
しかし、あの男は俺たちの動きを完全に先読みしていた。まるで予知能力でもあるかのように、背後の石壁を強力に蹴って一気に高所に飛び上がり、異様に長い曲刀で天井から垂れ下がっているロープを一瞬で断ち切る。
天井に吊り下げられていた爆発性の木箱が重力に従って落下し、灯台の石の床で激しく火花を散らす――爆発までの猶予時間はわずか数秒しかない。
「バルグ、その箱を外へ投げ捨てろ!」
俺の緊急指示に従って、歴戦の戦士は全身の筋力を総動員して重い木箱を力強く抱え上げ、灯台の窓から遠く海へと豪快に放り投げる。海面に巨大な水柱が立ち上がり、爆発による被害は辛うじて回避された。
だが、その混乱と爆発音に紛れて、刺青の男は再び神出鬼没の技で姿を完全に消してしまう。まるで最初からそこにいなかったかのように、跡形もなく消失した。
灯台の床には、黒い封蝋が厳重に施された古い巻物だけが意味深に残されていた。
俺たちが巻物を慎重に開いてみると、そこには海沿いの村々の非常に詳細な航路図と、恐ろしい次の襲撃予定日が正確に記されていた。
「三日後……奴らの動きが予想以上に早すぎる」
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