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第5章 新たな場所へ
第21話 リューベン村、黒煙の中で
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倒れていた商人に俺が詳細な診断を行い、リィナが応急処置を施してから、近くの風通しの良い岩陰に安全に寝かせた。商人の容態は安定しており、適切な治療を受ければ完全回復が見込める状態だった。それを確認してから、俺たちは急ぎ足で険しい山道を駆け上がった。
前方に立ち上る黒い煙は時間が経つにつれて刻一刻と濃くなり、鼻腔を激しく刺す毒物の臭いは、もはや呼吸するのも困難なほど強烈になっている。風向きの関係で、毒性のある煙が谷間に滞留しているのだ。視界の先に、瓦屋根と白い漆喰壁の家々が美しく連なる山間の村の全景が見えてきたが――その牧歌的な風景とは対照的に、村の中心部からは、まるで地獄の業火のように濛々と黒煙が絶え間なく立ち上っていた。
村の入口付近には、避難途中で力尽きた住民たちが十数人、苦しそうに激しく咳き込みながら道端に座り込んでいる。中には幼い子供を必死に抱えた若い母親や、年老いて背中を丸めた老人の姿もあった。全員が毒煙による呼吸困難で顔色が悪く、一刻も早い治療が必要な状態だった。
俺は翼を畳んで地面に降り立ち、最も症状が重そうな八歳ほどの少年に嘴を軽く触れて詳細な診断を行った。
(……毒性粉末の吸引による急性中毒症状。呼吸器系への広範囲な炎症と全身倦怠感、血中毒素濃度は危険域ギリギリ。毒素の成分は例の金属箱の粉末毒と完全に一致。だが適切な解毒処置を施せば、まだ十分に回復可能だ)
「リィナ、この子の治療を最優先で任せる。バルグ、火元まで安全な道を切り開いてくれ」
「了解だ!」
バルグが愛用の重い戦斧で、煙にまかれて燃え落ちた木製の柵を豪快に払いのけて道を確保する。リィナは即座に薬草袋から解毒用の薬草を取り出し、携帯用の小鍋で煎じ薬を作り始める。その手際は見事で、薬師としての豊富な経験が窺える。
俺は次々と村人に触れて状態を確認し、症状の重さに応じて治療の優先順位を的確に決めていく。まるで戦場の野戦病院のような慌ただしさだが、三人の連携は長い旅路で培われており、無駄な動きは一切ない。
◆
村の石畳の中心部に足を踏み入れると、毒煙の発生源がはっきりと確認できた。
美しい石造りの広場の中央に、黒羽同盟の者たちによって意図的に置かれた三つの大樽が激しく燃やされており、その炎が黒羽同盟の金色の紋章を不気味に照らし出している。炎と煙の奥、崩れた石の瓦礫の上に堂々と立つ一人の巨大な人影――間違いなく、あの恐ろしい刺青の男だった。
「ようやく来たか、港の鷲よ」
低く威圧的に響く声が煙の中で不気味に反響する。相変わらず余裕に満ちた態度で、まるで俺たちの到着を楽しみに待っていたかのようだ。
「村人の解毒なんかしている暇があるなら、ここまで来て俺を止めてみろ」
挑発的な言葉と同時に、奴の背後から新たに数名の黒衣の兵士が現れ、煙の向こうに避難しようとする村人たちを組織的に追い立て始める。完全にこちらの戦力を分散させ、救助活動と戦闘を同時に強要する巧妙な作戦だった。
「……リィナ、村人の治療はこの場で続けて。俺が行く」
「無茶はしないでよ! 一人で突っ込むなんて危険すぎる!」
リィナの心配の声を背に、俺は大きく翼を広げて毒煙の上を一気に飛び越える。上空からの俯瞰で敵陣の配置を正確に把握し、刺青の男と部下たちの位置関係を瞬時に分析する。最優先目標は黒煙の発生源である、激しく燃え盛る毒物の樽だ。
◆
俺は風を切って急降下し、鋭い嘴で樽の木製の継ぎ目部分を正確に破壊する。同時にバルグが地面から豪快に突進してきて、破損した樽を力任せに蹴り飛ばした。
破れた樽から毒性の粉末が宙に舞い上がるが、俺は素早く持参していた中和用の薬草粉末を広範囲に散布し、化学反応によって毒成分を効率的に沈静化させる。紫色の煙が一瞬立ち上がった後、村を覆っていた黒煙がみるみるうちに薄くなっていった。
「チッ……小賢しい真似を」
刺青の男が舌打ちすると、懐から特製の煙幕玉を取り出して足元に勢いよく叩きつけ、瞬時に視界を遮る濃い煙を発生させる。そして前回と同様に、混乱に乗じて跡形もなく姿を消してしまった。
煙が晴れた後、その場に残されたのは気絶して倒れた黒衣の部下数名と、半ば焼けて判読困難になった地図の切れ端だけだった。
◆
激しい戦闘の後、村人たちはまだ不安そうな表情でこちらを見つめていた。見知らぬ旅人たちへの警戒心と、救ってもらったことへの感謝の気持ちが入り混じった複雑な視線だった。
だが、リィナが丁寧な治療によって完全に回復した子供を安堵で涙ぐむ母親に返すと、村全体の重苦しい空気が少しずつ和らいでいくのが感じられた。
俺たちは残された地図の切れ端を慎重に合わせて復元を試みた。すると、元の地図には記載されていなかった赤い印が新たに二つも増えていることが判明した。黒羽同盟の攻撃対象は予想以上のペースで拡大している――しかも、その新たな標的の一つは、俺たちが全く予想していなかった意外な場所だった。
「……次の標的は、海沿いの町か」
俺は復元された地図を見つめながら、不安を込めて小さく呟いた。山間部から海岸部へと活動範囲を広げる黒羽同盟の真の目的が、ようやく見えてきたような気がした。
前方に立ち上る黒い煙は時間が経つにつれて刻一刻と濃くなり、鼻腔を激しく刺す毒物の臭いは、もはや呼吸するのも困難なほど強烈になっている。風向きの関係で、毒性のある煙が谷間に滞留しているのだ。視界の先に、瓦屋根と白い漆喰壁の家々が美しく連なる山間の村の全景が見えてきたが――その牧歌的な風景とは対照的に、村の中心部からは、まるで地獄の業火のように濛々と黒煙が絶え間なく立ち上っていた。
村の入口付近には、避難途中で力尽きた住民たちが十数人、苦しそうに激しく咳き込みながら道端に座り込んでいる。中には幼い子供を必死に抱えた若い母親や、年老いて背中を丸めた老人の姿もあった。全員が毒煙による呼吸困難で顔色が悪く、一刻も早い治療が必要な状態だった。
俺は翼を畳んで地面に降り立ち、最も症状が重そうな八歳ほどの少年に嘴を軽く触れて詳細な診断を行った。
(……毒性粉末の吸引による急性中毒症状。呼吸器系への広範囲な炎症と全身倦怠感、血中毒素濃度は危険域ギリギリ。毒素の成分は例の金属箱の粉末毒と完全に一致。だが適切な解毒処置を施せば、まだ十分に回復可能だ)
「リィナ、この子の治療を最優先で任せる。バルグ、火元まで安全な道を切り開いてくれ」
「了解だ!」
バルグが愛用の重い戦斧で、煙にまかれて燃え落ちた木製の柵を豪快に払いのけて道を確保する。リィナは即座に薬草袋から解毒用の薬草を取り出し、携帯用の小鍋で煎じ薬を作り始める。その手際は見事で、薬師としての豊富な経験が窺える。
俺は次々と村人に触れて状態を確認し、症状の重さに応じて治療の優先順位を的確に決めていく。まるで戦場の野戦病院のような慌ただしさだが、三人の連携は長い旅路で培われており、無駄な動きは一切ない。
◆
村の石畳の中心部に足を踏み入れると、毒煙の発生源がはっきりと確認できた。
美しい石造りの広場の中央に、黒羽同盟の者たちによって意図的に置かれた三つの大樽が激しく燃やされており、その炎が黒羽同盟の金色の紋章を不気味に照らし出している。炎と煙の奥、崩れた石の瓦礫の上に堂々と立つ一人の巨大な人影――間違いなく、あの恐ろしい刺青の男だった。
「ようやく来たか、港の鷲よ」
低く威圧的に響く声が煙の中で不気味に反響する。相変わらず余裕に満ちた態度で、まるで俺たちの到着を楽しみに待っていたかのようだ。
「村人の解毒なんかしている暇があるなら、ここまで来て俺を止めてみろ」
挑発的な言葉と同時に、奴の背後から新たに数名の黒衣の兵士が現れ、煙の向こうに避難しようとする村人たちを組織的に追い立て始める。完全にこちらの戦力を分散させ、救助活動と戦闘を同時に強要する巧妙な作戦だった。
「……リィナ、村人の治療はこの場で続けて。俺が行く」
「無茶はしないでよ! 一人で突っ込むなんて危険すぎる!」
リィナの心配の声を背に、俺は大きく翼を広げて毒煙の上を一気に飛び越える。上空からの俯瞰で敵陣の配置を正確に把握し、刺青の男と部下たちの位置関係を瞬時に分析する。最優先目標は黒煙の発生源である、激しく燃え盛る毒物の樽だ。
◆
俺は風を切って急降下し、鋭い嘴で樽の木製の継ぎ目部分を正確に破壊する。同時にバルグが地面から豪快に突進してきて、破損した樽を力任せに蹴り飛ばした。
破れた樽から毒性の粉末が宙に舞い上がるが、俺は素早く持参していた中和用の薬草粉末を広範囲に散布し、化学反応によって毒成分を効率的に沈静化させる。紫色の煙が一瞬立ち上がった後、村を覆っていた黒煙がみるみるうちに薄くなっていった。
「チッ……小賢しい真似を」
刺青の男が舌打ちすると、懐から特製の煙幕玉を取り出して足元に勢いよく叩きつけ、瞬時に視界を遮る濃い煙を発生させる。そして前回と同様に、混乱に乗じて跡形もなく姿を消してしまった。
煙が晴れた後、その場に残されたのは気絶して倒れた黒衣の部下数名と、半ば焼けて判読困難になった地図の切れ端だけだった。
◆
激しい戦闘の後、村人たちはまだ不安そうな表情でこちらを見つめていた。見知らぬ旅人たちへの警戒心と、救ってもらったことへの感謝の気持ちが入り混じった複雑な視線だった。
だが、リィナが丁寧な治療によって完全に回復した子供を安堵で涙ぐむ母親に返すと、村全体の重苦しい空気が少しずつ和らいでいくのが感じられた。
俺たちは残された地図の切れ端を慎重に合わせて復元を試みた。すると、元の地図には記載されていなかった赤い印が新たに二つも増えていることが判明した。黒羽同盟の攻撃対象は予想以上のペースで拡大している――しかも、その新たな標的の一つは、俺たちが全く予想していなかった意外な場所だった。
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