空を翔ける鷲医者の異世界行診録

川原源明

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第5章 新たな場所へ

第24話 カローネ沖の決戦

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 黒羽同盟の船団は、港まであと数百メートルという危険な距離で戦術的に一斉に帆をたたみ、代わりに訓練された船員たちが櫂を力強くこぎ始めた。海面を激しく叩く櫂の音が規則正しいリズムを刻み、白い波しぶきとともに進むその速度は、まるで嵐の中の突風のように鋭く激しく、確実に俺たちとの距離を詰めてくる。船首には鋭い衝角が取り付けられており、港の施設を破壊する気満々だった。

「敵の先頭は武装小舟四隻、機動力重視の編成。後方に中型船三隻、重装備で毒物を大量搭載。その中央の黒い帆船が刺青の男の旗艦だな」

 俺は高度を上げながら、鷲の優れた視力で敵船団の詳細な配置と装備を分析し、声を張って仲間に戦況を伝える。

「バルグ、港の防衛線を何としても死守しろ。リィナ、毒物の海への投入を最優先で阻止してくれ」

「任せておけ!」

 バルグは港の頑丈な石造りの防波堤上に戦略的に陣取り、愛用の重い戦斧を肩に担いだまま、迫りくる敵船を鋭い目で睨み据える。その立ち姿はまるで不動の要塞のようで、数十年の戦闘経験から来る威圧感が全身から発せられている。

 リィナは港の端の安全な位置に薬草袋を効率的に広げ、弓矢に特殊な中和用薬草粉を慎重に仕込んでいた。毒物が海面に広がって被害が拡大する前に、化学的に無力化するための準備だった。その手際は薬師としての豊富な経験と知識に裏打ちされており、一分の隙もない。



 先頭の武装小舟が港へ突入しようとした決定的な瞬間、俺は翼を畳んで一気に急降下し、船首の上に軽やかに舞い降りて、鋭い嘴で船の操舵に不可欠な舵縄を正確に断ち切る。小舟は瞬時に操舵不能となり、慌てて回避しようとした仲間の船と激しく衝突して速度を大幅に失速した。

 しかし、黒羽同盟の船員たちは訓練されており、別の小舟がすぐさま巧妙に進路を変更し、準備していた毒物の樽を計算されたタイミングで海へ投下する。

「やらせるか!」

 リィナの放った矢が一直線に美しい弧を描いて飛び、樽に仕込まれた木製の封を正確に破壊する。中の粉末毒が海水に拡散する前に、仕込まれていた中和剤が反応して青白い煙を上げ、毒性が完全に無害化された。

 港の中央の防波堤では、バルグが敵兵二人を同時に斬り払い、豪快に海へ叩き落とす。海面が血で赤く染まるが、歴戦の戦士である彼は躊躇することなく、すぐさま次の敵へ向かって突進した。戦斧が風を切る音が港に響き渡る。



 だが、敵の真の指揮官である刺青の男は、まだ本格的に動かない。

 旗艦の甲板中央で両腕を組み、冷静にこちらの戦い方を詳細に観察し、弱点を探っているようだった。まるで獲物を品定めする肉食獣のような、計算高い視線を向けている。

 次の瞬間――彼の鋭い号令で後方に控えていた中型船三隻の帆が戦術的に一斉に開かれた。

 それらの船の甲板から、これまで隠されていた巨大な投石器のような攻城兵器がゆっくりとせり上がってくる。その威容は圧倒的で、明らかに長期間準備されていた本格的な軍事装備だった。

 投石器は海岸の村へ向けて狙いを定め、三つの大きな木箱を高い弧を描いて同時に射出する。木箱は空中で設計通りに弾け飛び、中から大量の粉末毒が霧状となって広がり、海風に乗って村全体へ向かって確実に流れ始めた。

「高度を取って風上から一気に潰す!」

 俺は翼を全開にして急上昇し、上空から毒の霧の発生源に向かって、持参していた中和粉を大量に叩き込む。紫色の煙が広範囲に広がり、化学反応によって毒の拡散が辛うじて阻止された。

 だが、その一瞬の隙を突いて、刺青の男が自らの旗艦を港へ一気に直進させてきた。船首の鋭い衝角が水を切り裂く音が不気味に響く。

 船首が防波堤に激しくぶつかると同時に、奴は驚異的な身体能力で高く跳躍し、バルグの目前に音もなく着地する。その動きは人間の域を超えており、まるで猛獣のような俊敏さだった。

「また会ったな、港の鷲の仲間ども」

 長大な曲刀が朝日を反射してぎらりと不吉に光る。その刃は異常なほど鋭く研がれており、一振りで数人を同時に斬り倒せそうな威力を秘めている。

「今回は――絶対に逃がさん」

 俺は全速力で空から急降下し、これまでで最も激しくなることが予想される三度目の直接対決が、ついに始まった。

 海風が激しく吹き荒れる中、刺青の男とバルグが対峙し、俺が上空から支援する形で戦闘が開始される。港には剣戟の音が響き渡り、リィナが毒物の無力化を続ける中、カローネ村の運命を賭けた最終決戦が本格的に幕を開けた。

 この戦いの結果が、この地域全体の未来を決定することになるだろう――。
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