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第7章
第56話 黒槍の狩人
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崖上の重装甲兵――その名を、後に俺は「黒槍の狩人」と呼ぶことになる。
その男の威圧感は異常で、他の黒羽同盟の戦士たちとは明らかに格が違う。長大な槍の穂先からは黒い霧のような魔力が滲み、周囲の空気が重くなる。
槍は通常の武器の倍以上の長さがあり、魔術的に強化されているのは一目で分かる。黒い魔力が刃先から立ち上り、触れるものすべてを蝕むような禍々しいオーラを放っている。
狩人はゆっくりと槍を構え、俺を射抜くように見据えた。
その視線には殺意と共に、獲物を狩る猟師特有の冷静さがある。これまでの敵とは一線を画す、プロフェッショナルな戦士だった。
そして次の瞬間、地面を蹴った――いや、跳躍したというより、爆ぜたような加速だった。
(速い――!)
崖上から一気に空へ飛び出し、俺との高度差を数秒で詰めてくる。
重装甲にも関わらず、その機動力は驚異的だ。魔術的な身体強化を施しているのだろう。その動きは猛禽類の急襲に似ており、回避を一瞬でも遅らせれば串刺し必至だ。
俺は翼をひねり、かすめるように回避。
間一髪で槍の軌道から逃れたが、黒槍の穂先が羽根をかすめた瞬間、鋭い痛みと共に感覚が鈍る。
ただの物理的な傷ではない。どうやら、槍には魔術的な麻痺効果が付与されているらしい。わずかな接触でも神経に影響を与える、恐ろしい武器だった。
「飛ぶ獲物は、一撃で落とす主義だ」
低く響く声が、夕暮れの空で不気味にこだまする。
その声には絶対的な自信が込められており、これまで多くの飛行生物を狩ってきた経験を物語っている。俺も、彼にとっては単なる獲物の一つに過ぎないのだろう。
◆
一方、洞窟内部――
リィナは樽の封印作業を続けていたが、順調に進んでいた作業に異変が生じた。不意に耳障りな音が響いた。
ゴウン……ゴウン……
奥の倉庫区画で、何かが内側から叩かれている。規則的でありながら不気味な音で、明らかに人間が作り出すものではない。
衛兵が警戒して扉を開けると――
中から、樽が自ら転がり出てきた。
いや、それは樽の形をした"何か"だ。魔術的に変形し、内部の液体が意思を持つかのように蠢いている。樽の表面が波打ち、中身が勝手に動き回っているのが分かる。
「……最悪、暴発型よ!」
リィナの表情が青ざめる。これは予想していなかった事態だった。
液体が飛び散れば、この洞窟全体が汚染される危険がある。しかも、魔術的に活性化された汚染物質は、通常の何倍もの危険性を持っている。
リィナは即座に薬剤瓶を投げつけ、化学反応で液体を凝固させるが、数が多すぎる。
一つ二つなら対処できるが、暴発している樽は十個以上もある。封印と同時に戦闘を強いられる、最悪の展開となった。
衛兵たちも必死に応戦するが、相手は通常の敵ではない。魔術的に変質した物質との戦いは、武器だけでは対処が困難だった。
◆
排出口側――
水車を破壊したバルグは勝ち誇った笑みを浮かべていたが、その足元に影が落ちた。
作戦の第一段階は成功したが、敵も反撃に出てきた。崖上から降下してきた数名の黒外套が、鎖付きの鉤爪を振り回しながら迫る。
彼らの装備は特殊で、崖での戦闘に特化している。鎖付きの武器は狭い岩場での戦闘に適しており、バルグの大振りな戦斧には不利な相手だった。
「排出口を壊した奴はお前か……上から命令があってな。生きたまま連れてこいとよ」
「へっ、生け捕りの予定が、骨ごと粉砕に変わらねぇといいがな!」
バルグは斧を肩に担ぎ、全身で迎え撃つ。
数的不利な状況だが、彼の戦闘能力は一人で数人を相手にできるレベルだ。狭い岩場での乱戦が始まり、海風と潮飛沫の中で金属音が響き渡った。
鎖と斧がぶつかり合う音が、波音に混じって不気味な響きを作り出している。
◆
空では、黒槍の狩人との死闘が続いていた。
狩人は翼もないのに、魔術的な踏み台を空中に次々と作り出し、地上からの制約を無視して距離を詰めてくる。
空中に現れる光の足場を利用して、まるで階段を駆け上がるように俺に迫ってくる。これは高度な魔術技術で、相当な実力者でなければ使えない技だ。
一撃ごとに空気が震え、槍の穂先が残光を描くたび、背筋が冷たくなる。
攻撃の威力も尋常ではなく、直撃すれば致命傷は免れない。しかも、魔術的な効果で傷の治癒も困難になるだろう。
(こいつ……本当に空戦に慣れてやがる)
飛行生物との戦闘経験が豊富で、俺の動きを完全に読んでいる。これまでの敵とは明らかに次元が違う相手だった。
俺は海面すれすれまで急降下し、狩人を崖から遠ざけるように誘導した。
地形を利用して有利な戦況を作ろうとするが、狩人の魔術的な機動力の前では効果は限定的だ。波飛沫が羽根を濡らし、塩気が鼻を刺す。だが、それでも構わない――
仲間の時間を稼ぐためなら、何度でもやる。
俺の役割は陽動であり、リィナとバルグが作業を完了するまで敵を引きつけ続けることだ。
「……逃がすと思うか」
狩人が穂先を突き出した瞬間、海面に黒い衝撃波が走り、水柱が天へと立ち上った。
遠距離攻撃まで可能な相手で、俺の逃げ道を封じようとしている。衝撃波の余波で身体が揺さぶられる。
翼のバランスを崩しかけるが、必死に持ち直した。この高度で墜落すれば、海面への激突は避けられない。
上空では、夕陽が沈みきろうとしている。
美しい夕焼けの空だが、戦況は刻々と厳しくなっている。俺たちの作戦――そして命運を分ける時間は、刻一刻と減っていた。
三方向での戦いはそれぞれが困難を極めており、予想以上に敵の抵抗は激しい。しかし、ここで諦めるわけにはいかない。
港町の平和を守るために、俺たちは最後まで戦い抜かなければならない。仲間を信じ、自分の役割を全うすることが、勝利への唯一の道だった。
黒槍の狩人との戦いは激化し、俺の体力も限界に近づいている。しかし、まだ倒れるわけにはいかない。仲間のために、そして港町のために、俺は戦い続ける。
その男の威圧感は異常で、他の黒羽同盟の戦士たちとは明らかに格が違う。長大な槍の穂先からは黒い霧のような魔力が滲み、周囲の空気が重くなる。
槍は通常の武器の倍以上の長さがあり、魔術的に強化されているのは一目で分かる。黒い魔力が刃先から立ち上り、触れるものすべてを蝕むような禍々しいオーラを放っている。
狩人はゆっくりと槍を構え、俺を射抜くように見据えた。
その視線には殺意と共に、獲物を狩る猟師特有の冷静さがある。これまでの敵とは一線を画す、プロフェッショナルな戦士だった。
そして次の瞬間、地面を蹴った――いや、跳躍したというより、爆ぜたような加速だった。
(速い――!)
崖上から一気に空へ飛び出し、俺との高度差を数秒で詰めてくる。
重装甲にも関わらず、その機動力は驚異的だ。魔術的な身体強化を施しているのだろう。その動きは猛禽類の急襲に似ており、回避を一瞬でも遅らせれば串刺し必至だ。
俺は翼をひねり、かすめるように回避。
間一髪で槍の軌道から逃れたが、黒槍の穂先が羽根をかすめた瞬間、鋭い痛みと共に感覚が鈍る。
ただの物理的な傷ではない。どうやら、槍には魔術的な麻痺効果が付与されているらしい。わずかな接触でも神経に影響を与える、恐ろしい武器だった。
「飛ぶ獲物は、一撃で落とす主義だ」
低く響く声が、夕暮れの空で不気味にこだまする。
その声には絶対的な自信が込められており、これまで多くの飛行生物を狩ってきた経験を物語っている。俺も、彼にとっては単なる獲物の一つに過ぎないのだろう。
◆
一方、洞窟内部――
リィナは樽の封印作業を続けていたが、順調に進んでいた作業に異変が生じた。不意に耳障りな音が響いた。
ゴウン……ゴウン……
奥の倉庫区画で、何かが内側から叩かれている。規則的でありながら不気味な音で、明らかに人間が作り出すものではない。
衛兵が警戒して扉を開けると――
中から、樽が自ら転がり出てきた。
いや、それは樽の形をした"何か"だ。魔術的に変形し、内部の液体が意思を持つかのように蠢いている。樽の表面が波打ち、中身が勝手に動き回っているのが分かる。
「……最悪、暴発型よ!」
リィナの表情が青ざめる。これは予想していなかった事態だった。
液体が飛び散れば、この洞窟全体が汚染される危険がある。しかも、魔術的に活性化された汚染物質は、通常の何倍もの危険性を持っている。
リィナは即座に薬剤瓶を投げつけ、化学反応で液体を凝固させるが、数が多すぎる。
一つ二つなら対処できるが、暴発している樽は十個以上もある。封印と同時に戦闘を強いられる、最悪の展開となった。
衛兵たちも必死に応戦するが、相手は通常の敵ではない。魔術的に変質した物質との戦いは、武器だけでは対処が困難だった。
◆
排出口側――
水車を破壊したバルグは勝ち誇った笑みを浮かべていたが、その足元に影が落ちた。
作戦の第一段階は成功したが、敵も反撃に出てきた。崖上から降下してきた数名の黒外套が、鎖付きの鉤爪を振り回しながら迫る。
彼らの装備は特殊で、崖での戦闘に特化している。鎖付きの武器は狭い岩場での戦闘に適しており、バルグの大振りな戦斧には不利な相手だった。
「排出口を壊した奴はお前か……上から命令があってな。生きたまま連れてこいとよ」
「へっ、生け捕りの予定が、骨ごと粉砕に変わらねぇといいがな!」
バルグは斧を肩に担ぎ、全身で迎え撃つ。
数的不利な状況だが、彼の戦闘能力は一人で数人を相手にできるレベルだ。狭い岩場での乱戦が始まり、海風と潮飛沫の中で金属音が響き渡った。
鎖と斧がぶつかり合う音が、波音に混じって不気味な響きを作り出している。
◆
空では、黒槍の狩人との死闘が続いていた。
狩人は翼もないのに、魔術的な踏み台を空中に次々と作り出し、地上からの制約を無視して距離を詰めてくる。
空中に現れる光の足場を利用して、まるで階段を駆け上がるように俺に迫ってくる。これは高度な魔術技術で、相当な実力者でなければ使えない技だ。
一撃ごとに空気が震え、槍の穂先が残光を描くたび、背筋が冷たくなる。
攻撃の威力も尋常ではなく、直撃すれば致命傷は免れない。しかも、魔術的な効果で傷の治癒も困難になるだろう。
(こいつ……本当に空戦に慣れてやがる)
飛行生物との戦闘経験が豊富で、俺の動きを完全に読んでいる。これまでの敵とは明らかに次元が違う相手だった。
俺は海面すれすれまで急降下し、狩人を崖から遠ざけるように誘導した。
地形を利用して有利な戦況を作ろうとするが、狩人の魔術的な機動力の前では効果は限定的だ。波飛沫が羽根を濡らし、塩気が鼻を刺す。だが、それでも構わない――
仲間の時間を稼ぐためなら、何度でもやる。
俺の役割は陽動であり、リィナとバルグが作業を完了するまで敵を引きつけ続けることだ。
「……逃がすと思うか」
狩人が穂先を突き出した瞬間、海面に黒い衝撃波が走り、水柱が天へと立ち上った。
遠距離攻撃まで可能な相手で、俺の逃げ道を封じようとしている。衝撃波の余波で身体が揺さぶられる。
翼のバランスを崩しかけるが、必死に持ち直した。この高度で墜落すれば、海面への激突は避けられない。
上空では、夕陽が沈みきろうとしている。
美しい夕焼けの空だが、戦況は刻々と厳しくなっている。俺たちの作戦――そして命運を分ける時間は、刻一刻と減っていた。
三方向での戦いはそれぞれが困難を極めており、予想以上に敵の抵抗は激しい。しかし、ここで諦めるわけにはいかない。
港町の平和を守るために、俺たちは最後まで戦い抜かなければならない。仲間を信じ、自分の役割を全うすることが、勝利への唯一の道だった。
黒槍の狩人との戦いは激化し、俺の体力も限界に近づいている。しかし、まだ倒れるわけにはいかない。仲間のために、そして港町のために、俺は戦い続ける。
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