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第7章
第64話 夜明けと診察と、ときどき黒羽
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夜明けの港町は、戦いの疲れと安堵が入り混じった空気に包まれていた。
朝日が街並みを金色に染め、新しい一日の始まりを告げている。しかし、昨夜の激戦の痕跡はまだあちこちに残されていた。瓦礫の中から回収された負傷者は広場に並べられ、リィナと数人の薬師が忙しなく動き回っている。
戦いの勝利にもかかわらず、医療現場は緊急事態の対応に追われていた。
「次っ! 包帯、もっと清潔なの持ってきて!」
「うわっ、この人は……骨折だな、動かすな!」
リィナの指示が飛び交い、医療チームが負傷者の治療に全力で当たっている。負傷者の数は予想以上に多く、医師や薬師の数が足りていない状況だった。
俺はというと、広場の隅で負傷者の間を巡り、症状をざっと確認しては指示を飛ばしていた。
翼を持つ身であることを活かし、全体を俯瞰しながら効率的に患者の状態を把握している。
「この人は脈が弱い、暖かい毛布を二枚。あと、こっちは左の肋骨にヒビ、息を深くさせないように」
「は、はいっ! ……って、ワシが診断してる!?」
衛兵が二度見してきたが、気にしている暇はない。
確かに鷲が医療指示を出すのは異様な光景だが、緊急時にそんなことを気にしている余裕はない。俺の生前の経験――医者としての知識が、こういうときこそ役に立つ。手は使えないが、目と経験と口はまだ現役だ。
人間だった頃の医学知識と臨床経験が、今この瞬間に活かされている。
バルグが腕を組んで、ニヤリと笑う。
「おい、診察してるときの顔、戦ってるときより怖ぇぞ」
「うるさい。命がかかってるんだ、真剣にもなる」
医療に向き合う時の俺は、確かに戦闘時とは違った緊張感を持っている。どちらも命に関わる重要な仕事だが、医療は戦闘とは異なる種類の責任感が必要だった。
……まぁ、今の俺がやってるのは、診察というより"飛び回るカルテ係"だが。
手足がない状況では直接的な治療はできないが、経験に基づく判断と指示は十分に有効だった。
◆
診察と応急処置が一段落した頃、港の方から慌ただしい足音が近づいてきた。
朝の穏やかな雰囲気を破るように、緊急事態を告げる足音が響いてくる。
「領都から伝令! 急ぎの報告だ!」
現れた若い兵士の顔は真っ青だ。
明らかに重大な情報を携えており、その表情からは事態の深刻さが伝わってくる。長距離を急いで移動してきたようで、息も荒い。
「港町だけじゃない……他の港でも、同じ汚染液による被害が出始めています! しかも、町の外でも……」
伝令の言葉に、広場の空気が一気に凍りつく。
昨夜の勝利で一安心していた住民たちの表情が、再び不安に染まっていく。黒羽同盟の施設を壊したばかりだというのに、もう別の場所で被害が出ている――つまり、ここだけの問題じゃなかったということだ。
俺たちが阻止したのは、巨大な計画の一部に過ぎなかった可能性が高い。
リィナが険しい表情で俺を見る。
「……やっぱり、あの施設は氷山の一角だったってことね」
俺も黙って頷いた。胸の奥に残っていた"嫌な予感"が、形を持ち始めた。
戦いの直後から感じていた不安が、現実のものとなって表れたのだ。黒羽同盟の計画は、俺たちが想像していた以上に大規模で組織的なものだったのだろう。
バルグが腕を鳴らす。
「じゃあ次は、その氷山ごとぶっ壊しに行くってわけだな」
彼の言葉には、新たな戦いへの覚悟が込められている。昨夜の勝利に満足することなく、より大きな脅威に立ち向かう意志を示していた。
……やれやれ、休む間もないらしい。
束の間の平和を楽しむ間もなく、再び戦いの準備を始めなければならない。しかし、それが俺たちの宿命なのかもしれない。
◆
夜が明け、町の人々が朝の光の中で笑顔を取り戻していく。
住民たちは昨夜の恐怖から解放され、いつもの日常を取り戻そうとしている。市場には活気が戻り、子供たちの笑い声も聞こえてくる。しかしその背後で、俺たちは新しい地図を広げ、これから向かう場所に赤い印をつけていた。
平和な日常の裏で、新たな戦いの準備が静かに進められている。
地図上には複数の港町や都市が記され、それぞれで汚染の被害が報告されている地点が赤く印されていた。その範囲は予想以上に広く、国境を越えて拡散している可能性もある。
黒羽同盟との戦いは確かに一区切りついた。だが、今度はもっと厄介で、もっと広い敵――世界規模で広がりつつある感染症との戦いが始まろうとしていた。
これまでの戦いは序章に過ぎず、真の試練はこれから始まるのかもしれない。
(また飛び回る日々か……まぁ、医者としては本望かもしれないけどな)
医者だった頃の使命感が蘇り、困難な状況にも関わらず心の奥で闘志が燃えている。海から吹く朝の風が、疲れた翼を優しく撫でた。
新しい風が、新しい冒険の始まりを告げているかのようだった。そして俺たちは、再び飛び立つ準備を始めたのだった。
港町を守った俺たちの戦いは、より大きな世界を救う戦いの第一歩だったのだ。リィナとバルグと共に、俺は新たな使命に向かって歩み始めた。
どれほど困難な道のりが待っていようとも、仲間と共になら乗り越えられる。昨夜の勝利がその証拠だった。
朝日を背に受けながら、俺たちは次の戦場へ向かう準備を整えた。世界を救う旅が、今始まろうとしている。
朝日が街並みを金色に染め、新しい一日の始まりを告げている。しかし、昨夜の激戦の痕跡はまだあちこちに残されていた。瓦礫の中から回収された負傷者は広場に並べられ、リィナと数人の薬師が忙しなく動き回っている。
戦いの勝利にもかかわらず、医療現場は緊急事態の対応に追われていた。
「次っ! 包帯、もっと清潔なの持ってきて!」
「うわっ、この人は……骨折だな、動かすな!」
リィナの指示が飛び交い、医療チームが負傷者の治療に全力で当たっている。負傷者の数は予想以上に多く、医師や薬師の数が足りていない状況だった。
俺はというと、広場の隅で負傷者の間を巡り、症状をざっと確認しては指示を飛ばしていた。
翼を持つ身であることを活かし、全体を俯瞰しながら効率的に患者の状態を把握している。
「この人は脈が弱い、暖かい毛布を二枚。あと、こっちは左の肋骨にヒビ、息を深くさせないように」
「は、はいっ! ……って、ワシが診断してる!?」
衛兵が二度見してきたが、気にしている暇はない。
確かに鷲が医療指示を出すのは異様な光景だが、緊急時にそんなことを気にしている余裕はない。俺の生前の経験――医者としての知識が、こういうときこそ役に立つ。手は使えないが、目と経験と口はまだ現役だ。
人間だった頃の医学知識と臨床経験が、今この瞬間に活かされている。
バルグが腕を組んで、ニヤリと笑う。
「おい、診察してるときの顔、戦ってるときより怖ぇぞ」
「うるさい。命がかかってるんだ、真剣にもなる」
医療に向き合う時の俺は、確かに戦闘時とは違った緊張感を持っている。どちらも命に関わる重要な仕事だが、医療は戦闘とは異なる種類の責任感が必要だった。
……まぁ、今の俺がやってるのは、診察というより"飛び回るカルテ係"だが。
手足がない状況では直接的な治療はできないが、経験に基づく判断と指示は十分に有効だった。
◆
診察と応急処置が一段落した頃、港の方から慌ただしい足音が近づいてきた。
朝の穏やかな雰囲気を破るように、緊急事態を告げる足音が響いてくる。
「領都から伝令! 急ぎの報告だ!」
現れた若い兵士の顔は真っ青だ。
明らかに重大な情報を携えており、その表情からは事態の深刻さが伝わってくる。長距離を急いで移動してきたようで、息も荒い。
「港町だけじゃない……他の港でも、同じ汚染液による被害が出始めています! しかも、町の外でも……」
伝令の言葉に、広場の空気が一気に凍りつく。
昨夜の勝利で一安心していた住民たちの表情が、再び不安に染まっていく。黒羽同盟の施設を壊したばかりだというのに、もう別の場所で被害が出ている――つまり、ここだけの問題じゃなかったということだ。
俺たちが阻止したのは、巨大な計画の一部に過ぎなかった可能性が高い。
リィナが険しい表情で俺を見る。
「……やっぱり、あの施設は氷山の一角だったってことね」
俺も黙って頷いた。胸の奥に残っていた"嫌な予感"が、形を持ち始めた。
戦いの直後から感じていた不安が、現実のものとなって表れたのだ。黒羽同盟の計画は、俺たちが想像していた以上に大規模で組織的なものだったのだろう。
バルグが腕を鳴らす。
「じゃあ次は、その氷山ごとぶっ壊しに行くってわけだな」
彼の言葉には、新たな戦いへの覚悟が込められている。昨夜の勝利に満足することなく、より大きな脅威に立ち向かう意志を示していた。
……やれやれ、休む間もないらしい。
束の間の平和を楽しむ間もなく、再び戦いの準備を始めなければならない。しかし、それが俺たちの宿命なのかもしれない。
◆
夜が明け、町の人々が朝の光の中で笑顔を取り戻していく。
住民たちは昨夜の恐怖から解放され、いつもの日常を取り戻そうとしている。市場には活気が戻り、子供たちの笑い声も聞こえてくる。しかしその背後で、俺たちは新しい地図を広げ、これから向かう場所に赤い印をつけていた。
平和な日常の裏で、新たな戦いの準備が静かに進められている。
地図上には複数の港町や都市が記され、それぞれで汚染の被害が報告されている地点が赤く印されていた。その範囲は予想以上に広く、国境を越えて拡散している可能性もある。
黒羽同盟との戦いは確かに一区切りついた。だが、今度はもっと厄介で、もっと広い敵――世界規模で広がりつつある感染症との戦いが始まろうとしていた。
これまでの戦いは序章に過ぎず、真の試練はこれから始まるのかもしれない。
(また飛び回る日々か……まぁ、医者としては本望かもしれないけどな)
医者だった頃の使命感が蘇り、困難な状況にも関わらず心の奥で闘志が燃えている。海から吹く朝の風が、疲れた翼を優しく撫でた。
新しい風が、新しい冒険の始まりを告げているかのようだった。そして俺たちは、再び飛び立つ準備を始めたのだった。
港町を守った俺たちの戦いは、より大きな世界を救う戦いの第一歩だったのだ。リィナとバルグと共に、俺は新たな使命に向かって歩み始めた。
どれほど困難な道のりが待っていようとも、仲間と共になら乗り越えられる。昨夜の勝利がその証拠だった。
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