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第7章
第65話 残響と影
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夜明けの安堵が、港町を包んでいた。
朝日が海面を金色に染め、住民たちは昨夜の恐怖から解放されつつある。子供たちの笑い声が響き、市場には活気が戻り始めている。しかし、表面的な平和とは裏腹に、だが俺の胸の奥では、まだ冷たい棘が抜けずに残っている。
戦士としての直感が、まだ危険が去っていないことを告げている。
黒槍の狩人が沈んだあの瞬間――重装甲ごと深く沈んでいく姿を見たはずなのに、なぜか死を確信できなかった。
海に沈む姿を確認したにも関わらず、心の奥底で何かが引っかかっている。まるで「また会う」と告げるような、あの鋭い眼光が忘れられない。
死の瞬間まで諦めることのなかった戦士の意志が、俺の記憶に深く刻まれている。
そんな嫌な予感を振り払うように、俺は港の外れに置かれた壊れた木箱へ翼を伸ばした。
気分転換も兼ねて、証拠品の調査を継続することにした。箱の中には昨夜押収された樽が一つ、蓋をこじ開けられた状態で転がっている。
衛兵たちが中身を確認した後、そのまま放置されていたようだ。
(……残ってやがったか)
触れた瞬間、脳裏に膨大な情報が流れ込む。
鷲の身体に宿った医者としての知識と経験が、汚染物質の詳細な分析を可能にしている。揮発性の毒性成分、濃度、保存温度、混ぜられた鉱物の比率――まるで瞬間的に検査室で分析したかのように、すべてが鮮明に把握できた。
人間だった頃の医学知識に、鷲の鋭敏な感覚が組み合わさることで、通常では不可能な精密分析が実現している。
そしてもう一つ、混入物に含まれていた植物繊維の特徴から、製造地の候補が浮かび上がる。
わずかな手がかりから、重要な情報を読み取ることができた。それはこの町から数百キロ離れた、北方の寒冷地でしか採取できない特殊な水草だった。
その水草は特定の気候条件でしか育たず、生育地は非常に限定されている。
(つまり……この汚染液は、まだ別の工場で生産されている)
昨夜の戦いで一つの施設を破壊したが、それで終わりではなかった。胸の奥の棘がさらに深く刺さったような感覚がする。
昨夜壊した施設はやはり氷山の一角にすぎなかった。
黒羽同盟の計画は、俺たちが想像していた以上に大規模で複雑なものだったのだ。
◆
広場の一角では、バルグが押収品の確認をしていた。
戦利品や証拠品を整理し、今後の対策に役立てようとしている。俺は飛び降りて、その場に集まっている衛兵たちへ短く告げる。
「この樽、北方の港から来ている可能性が高い。製造地はまだ稼働中だ」
重要な情報を簡潔に伝え、迅速な対応を促す。
衛兵たちの顔が強張る。バルグも腕を組み、唸った。
昨夜の勝利で一安心していた彼らにとって、この情報は衝撃的だった。
「北方……あそこは山脈に囲まれてるから、攻め込むのも一苦労だぞ」
バルグの地理知識が、新たな困難を浮き彫りにする。北方の地域は険しい地形で知られており、軍事作戦を実行するには多大な困難が予想される。
リィナが地図を広げ、赤い印をつける。
彼女の薬学知識と分析能力が、汚染の拡散パターンを明確に示している。彼女の顔も険しい。汚染液の拡散経路が一本ではなく、複数あることが地図上ではっきり見えてしまったのだ。
「この印が、被害が報告されている港町。……ほら、もう線が繋がってきてる」
地図上の赤い印を線で結ぶと、組織的な汚染拡散のパターンが浮かび上がる。線は内陸部にも伸びており、すでに港町だけの問題ではなくなっていた。
黒羽同盟の計画は、単発的なものではなく、長期的で戦略的なものだった。
◆
そんな中、港の見張り台から声が上がった。
「北の沖に……船影!」
見張りの衛兵の声が、朝の静寂を破って響く。
双眼鏡を構えた衛兵が青ざめて振り返る。
「黒い外套の旗です! 複数!」
昨夜の敗北にも関わらず、黒羽同盟は諦めていなかった。一瞬で広場の空気が緊迫に変わった。
住民たちの表情が再び不安に染まり、せっかく戻った平和な雰囲気が一変する。まだ夜明けの安堵が残る港町に、再び黒羽同盟の影が迫っている。
バルグが斧を肩に担ぎ、ニヤリと笑う。
「やっぱりな……あいつら、やり返しに来やがった」
彼の表情には、新たな戦いへの期待すら感じられる。戦士として、強敵との再戦を楽しんでいるようだった。
俺は翼を広げ、海風の匂いを嗅ぐ。
鷲の鋭敏な嗅覚が、遠方の情報をキャッチしている。血と鉄の匂い――そして、かすかに昨夜の汚染液と同じ刺激臭。
敵は新たな汚染兵器を携えて、報復に来ているのかもしれない。
(来る……!)
戦闘への準備を整え、俺は空への飛行体勢を取った。
黒羽同盟との戦いは、まだ終わっていなかった。
昨夜の勝利は一つの戦いに勝っただけで、戦争そのものは継続している。そして、この戦いを終わらせるための道筋が、今ようやく見え始めた。
北方の製造拠点を叩き、汚染の根源を断つ。それが真の勝利への道だった。
リィナとバルグも戦闘準備を整え、三人は再び肩を並べて戦いに臨む。仲間と共になら、どんな困難も乗り越えられる。
港町の平和を守るために、俺たちの戦いは続いていく。今度こそ、黒羽同盟の野望を完全に打ち砕いてみせる。
朝日を背に受けながら、俺たちは新たな戦いへと向かった。終わりなき戦いの中で、真の平和を掴むために。
朝日が海面を金色に染め、住民たちは昨夜の恐怖から解放されつつある。子供たちの笑い声が響き、市場には活気が戻り始めている。しかし、表面的な平和とは裏腹に、だが俺の胸の奥では、まだ冷たい棘が抜けずに残っている。
戦士としての直感が、まだ危険が去っていないことを告げている。
黒槍の狩人が沈んだあの瞬間――重装甲ごと深く沈んでいく姿を見たはずなのに、なぜか死を確信できなかった。
海に沈む姿を確認したにも関わらず、心の奥底で何かが引っかかっている。まるで「また会う」と告げるような、あの鋭い眼光が忘れられない。
死の瞬間まで諦めることのなかった戦士の意志が、俺の記憶に深く刻まれている。
そんな嫌な予感を振り払うように、俺は港の外れに置かれた壊れた木箱へ翼を伸ばした。
気分転換も兼ねて、証拠品の調査を継続することにした。箱の中には昨夜押収された樽が一つ、蓋をこじ開けられた状態で転がっている。
衛兵たちが中身を確認した後、そのまま放置されていたようだ。
(……残ってやがったか)
触れた瞬間、脳裏に膨大な情報が流れ込む。
鷲の身体に宿った医者としての知識と経験が、汚染物質の詳細な分析を可能にしている。揮発性の毒性成分、濃度、保存温度、混ぜられた鉱物の比率――まるで瞬間的に検査室で分析したかのように、すべてが鮮明に把握できた。
人間だった頃の医学知識に、鷲の鋭敏な感覚が組み合わさることで、通常では不可能な精密分析が実現している。
そしてもう一つ、混入物に含まれていた植物繊維の特徴から、製造地の候補が浮かび上がる。
わずかな手がかりから、重要な情報を読み取ることができた。それはこの町から数百キロ離れた、北方の寒冷地でしか採取できない特殊な水草だった。
その水草は特定の気候条件でしか育たず、生育地は非常に限定されている。
(つまり……この汚染液は、まだ別の工場で生産されている)
昨夜の戦いで一つの施設を破壊したが、それで終わりではなかった。胸の奥の棘がさらに深く刺さったような感覚がする。
昨夜壊した施設はやはり氷山の一角にすぎなかった。
黒羽同盟の計画は、俺たちが想像していた以上に大規模で複雑なものだったのだ。
◆
広場の一角では、バルグが押収品の確認をしていた。
戦利品や証拠品を整理し、今後の対策に役立てようとしている。俺は飛び降りて、その場に集まっている衛兵たちへ短く告げる。
「この樽、北方の港から来ている可能性が高い。製造地はまだ稼働中だ」
重要な情報を簡潔に伝え、迅速な対応を促す。
衛兵たちの顔が強張る。バルグも腕を組み、唸った。
昨夜の勝利で一安心していた彼らにとって、この情報は衝撃的だった。
「北方……あそこは山脈に囲まれてるから、攻め込むのも一苦労だぞ」
バルグの地理知識が、新たな困難を浮き彫りにする。北方の地域は険しい地形で知られており、軍事作戦を実行するには多大な困難が予想される。
リィナが地図を広げ、赤い印をつける。
彼女の薬学知識と分析能力が、汚染の拡散パターンを明確に示している。彼女の顔も険しい。汚染液の拡散経路が一本ではなく、複数あることが地図上ではっきり見えてしまったのだ。
「この印が、被害が報告されている港町。……ほら、もう線が繋がってきてる」
地図上の赤い印を線で結ぶと、組織的な汚染拡散のパターンが浮かび上がる。線は内陸部にも伸びており、すでに港町だけの問題ではなくなっていた。
黒羽同盟の計画は、単発的なものではなく、長期的で戦略的なものだった。
◆
そんな中、港の見張り台から声が上がった。
「北の沖に……船影!」
見張りの衛兵の声が、朝の静寂を破って響く。
双眼鏡を構えた衛兵が青ざめて振り返る。
「黒い外套の旗です! 複数!」
昨夜の敗北にも関わらず、黒羽同盟は諦めていなかった。一瞬で広場の空気が緊迫に変わった。
住民たちの表情が再び不安に染まり、せっかく戻った平和な雰囲気が一変する。まだ夜明けの安堵が残る港町に、再び黒羽同盟の影が迫っている。
バルグが斧を肩に担ぎ、ニヤリと笑う。
「やっぱりな……あいつら、やり返しに来やがった」
彼の表情には、新たな戦いへの期待すら感じられる。戦士として、強敵との再戦を楽しんでいるようだった。
俺は翼を広げ、海風の匂いを嗅ぐ。
鷲の鋭敏な嗅覚が、遠方の情報をキャッチしている。血と鉄の匂い――そして、かすかに昨夜の汚染液と同じ刺激臭。
敵は新たな汚染兵器を携えて、報復に来ているのかもしれない。
(来る……!)
戦闘への準備を整え、俺は空への飛行体勢を取った。
黒羽同盟との戦いは、まだ終わっていなかった。
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北方の製造拠点を叩き、汚染の根源を断つ。それが真の勝利への道だった。
リィナとバルグも戦闘準備を整え、三人は再び肩を並べて戦いに臨む。仲間と共になら、どんな困難も乗り越えられる。
港町の平和を守るために、俺たちの戦いは続いていく。今度こそ、黒羽同盟の野望を完全に打ち砕いてみせる。
朝日を背に受けながら、俺たちは新たな戦いへと向かった。終わりなき戦いの中で、真の平和を掴むために。
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