83 / 102
第7章
第83話 山間戦闘と緊急帰還
しおりを挟む
霧を切り裂くように、敵が一斉に駆け出した。訓練された兵士の動きで、統制の取れた攻撃隊形を維持している。散布装置の先端から、液体が今にも噴き出そうとしているのが見える。金属筒の内部で液体が渦巻き、圧力が高まっているのが分かった。
もし一滴でも町へ届けば、これまでの努力が水泡に帰す。患者たちの治療も、薬の開発も、全てが無意味になってしまう。絶対に阻止しなければならない。
俺は翼を大きく広げ、最大限の力で突風を巻き起こす。鷲としての身体能力を限界まで使い、強烈な風圧を生成した。砂と枯葉が宙を舞い、敵の視界を奪う。突然の砂嵐に敵兵たちが目を細め、一瞬動きが止まった。
その間にバルグが右から回り込み、一人の腕を斧の柄で叩き折った。骨の折れる鈍い音と共に、敵兵が悲鳴を上げる。金属製の筒が地面に落ち、中身の液体が少量こぼれて草を枯らしていく。
「一本確保!」
彼の豪快な声と同時に、別の敵が俺の懐に飛び込んできた。素早い動きで距離を詰め、鋭い短剣が胸を狙う。刃の輝きが朝日に反射し、殺意を込めた一撃だった。
俺は翼で刃を受け流し、相手の顎に膝を叩き込む。鳥類の脚力を活かした攻撃により、敵兵は意識を失って倒れた。しかし、まだ複数の敵が残っている。
散布装置の噴出口が何度もこちらを向きかけるが、そのたびに俺は風で軌道をずらす。液体の散布を防ぐため、敵の狙いを定めさせないよう妨害を続ける。しかし全員を相手にするのは厳しい。
残った二人が、丘の下へと走り出した。その方向――港町だ。もし彼らが町に到達すれば、住民たちが直接的な危険にさらされる。
「バルグ! あれを止めろ!」
「任せとけ!」
巨体が唸りを上げて突進する。バルグの重量感ある走りは、まるで巨大な岩が斜面を転がり落ちるかのような迫力だった。重い足音と共に、敵が次々と吹き飛ばされていく。
彼の戦闘スタイルは豪快だが、同時に計算されている。敵の動きを先読みし、最小限の動作で最大の効果を上げていた。長年の戦闘経験が、この緊急事態でも威力を発揮している。
やがて霧が晴れ、丘の斜面に散らばった黒ずくめの影が、動かなくなった。戦闘は短時間で終結し、敵の散布作戦は完全に阻止された。
俺は周囲を確認し、落ちていた散布装置を慎重に回収する。内部にはまだ汚染液が残っており、取り扱いには最大限の注意が必要だ。この液体は研究用の貴重なサンプルにもなるが、取り扱いを誤れば即死に至る毒物でもある。
特殊能力で装置を触診すると、内部構造の詳細が把握できた。圧力機構、噴射システム、そして液体の組成まで、全てが精密に設計されている。敵の技術力の高さを改めて思い知らされる。
「……こいつら、完全に破壊工作だな」
バルグが息を整えながら呟く。彼の分析も俺と同じ結論に達していた。これは単なる偶発的な遭遇ではなく、計画的な妨害工作だった。
採集班の仲間たちが駆け寄ってきた。戦闘の音に驚いていたが、皆無事だった。背中の籠には薬草が詰められており、採集作業は順調に進んでいたようだ。
「目当ての薬草は全部揃いました!」
その報告に胸を撫で下ろすが、すぐに別の不安が頭をよぎる。今回の作戦は成功したが、何かが引っかかっている。
敵の人数にしては、動きがやけに限定的だった。まるで時間稼ぎのためだけに動いていたような印象がある。本気で汚染液を散布するつもりなら、もっと大規模な部隊を投入するはずだ。
その時、山道を駆け上がってきた斥候が息を切らして叫んだ。
「北の森に別動隊! 港のほうへ向かっています!」
その報告を聞いた瞬間、全ての謎が解けた。俺とバルグは視線を交わし、互いの考えが一致したことを確認する。
つまり、この散布班は囮――本命は港町への奇襲だ。俺たちを山間部に引き付けている間に、本隊が港町を攻撃する作戦だったのだ。
敵の戦術は想像以上に巧妙で、俺たちは完全に策略にはまってしまった。重要な薬草採集という任務を利用し、守備の手薄になった港町を狙う周到な計画だった。
薬草と汚染液のサンプルを背負い直し、俺は短く息を吐く。成果は得られたが、代償も大きい。港町の安全が脅かされている状況で、のんびりしている時間はない。
「全員、全速で戻るぞ!」
俺の指示に、採集班全員が即座に行動を開始した。薬草の価値は理解しているが、それ以上に港町の人々の安全が重要だ。
朝霧の中、俺たちは山を駆け下りた。足場の悪い山道を、可能な限りの速度で下っていく。背後では、倒れた敵の通信筒が、低く不気味な音を響かせていた。
その音は、仲間への合図なのか、それとも作戦成功の報告なのか。いずれにしても、良い知らせではないだろう。
俺は空中に舞い上がり、港町の方角を見渡した。遠くに煙が上がっているのが見える。既に戦闘が始まっている可能性が高い。
(間に合ってくれ……)
心の中で祈りながら、俺は最大速度で港町へ向かった。翼を激しく羽ばたかせ、風を切って飛んでいく。仲間たちとリィナの安全、そして患者たちの命が気がかりだった。
山間部での戦闘は勝利したが、真の戦いはこれからだ。敵の本隊との決戦が、港町で始まろうとしている。俺たちの帰還が、戦況を左右する鍵となるかもしれない。
風が強まり、雲が流れていく。その向こうに見える港町が、いつもより小さく、か細く見えた。大切な人々が待つ故郷を守るため、俺は全力で飛び続けた。
もし一滴でも町へ届けば、これまでの努力が水泡に帰す。患者たちの治療も、薬の開発も、全てが無意味になってしまう。絶対に阻止しなければならない。
俺は翼を大きく広げ、最大限の力で突風を巻き起こす。鷲としての身体能力を限界まで使い、強烈な風圧を生成した。砂と枯葉が宙を舞い、敵の視界を奪う。突然の砂嵐に敵兵たちが目を細め、一瞬動きが止まった。
その間にバルグが右から回り込み、一人の腕を斧の柄で叩き折った。骨の折れる鈍い音と共に、敵兵が悲鳴を上げる。金属製の筒が地面に落ち、中身の液体が少量こぼれて草を枯らしていく。
「一本確保!」
彼の豪快な声と同時に、別の敵が俺の懐に飛び込んできた。素早い動きで距離を詰め、鋭い短剣が胸を狙う。刃の輝きが朝日に反射し、殺意を込めた一撃だった。
俺は翼で刃を受け流し、相手の顎に膝を叩き込む。鳥類の脚力を活かした攻撃により、敵兵は意識を失って倒れた。しかし、まだ複数の敵が残っている。
散布装置の噴出口が何度もこちらを向きかけるが、そのたびに俺は風で軌道をずらす。液体の散布を防ぐため、敵の狙いを定めさせないよう妨害を続ける。しかし全員を相手にするのは厳しい。
残った二人が、丘の下へと走り出した。その方向――港町だ。もし彼らが町に到達すれば、住民たちが直接的な危険にさらされる。
「バルグ! あれを止めろ!」
「任せとけ!」
巨体が唸りを上げて突進する。バルグの重量感ある走りは、まるで巨大な岩が斜面を転がり落ちるかのような迫力だった。重い足音と共に、敵が次々と吹き飛ばされていく。
彼の戦闘スタイルは豪快だが、同時に計算されている。敵の動きを先読みし、最小限の動作で最大の効果を上げていた。長年の戦闘経験が、この緊急事態でも威力を発揮している。
やがて霧が晴れ、丘の斜面に散らばった黒ずくめの影が、動かなくなった。戦闘は短時間で終結し、敵の散布作戦は完全に阻止された。
俺は周囲を確認し、落ちていた散布装置を慎重に回収する。内部にはまだ汚染液が残っており、取り扱いには最大限の注意が必要だ。この液体は研究用の貴重なサンプルにもなるが、取り扱いを誤れば即死に至る毒物でもある。
特殊能力で装置を触診すると、内部構造の詳細が把握できた。圧力機構、噴射システム、そして液体の組成まで、全てが精密に設計されている。敵の技術力の高さを改めて思い知らされる。
「……こいつら、完全に破壊工作だな」
バルグが息を整えながら呟く。彼の分析も俺と同じ結論に達していた。これは単なる偶発的な遭遇ではなく、計画的な妨害工作だった。
採集班の仲間たちが駆け寄ってきた。戦闘の音に驚いていたが、皆無事だった。背中の籠には薬草が詰められており、採集作業は順調に進んでいたようだ。
「目当ての薬草は全部揃いました!」
その報告に胸を撫で下ろすが、すぐに別の不安が頭をよぎる。今回の作戦は成功したが、何かが引っかかっている。
敵の人数にしては、動きがやけに限定的だった。まるで時間稼ぎのためだけに動いていたような印象がある。本気で汚染液を散布するつもりなら、もっと大規模な部隊を投入するはずだ。
その時、山道を駆け上がってきた斥候が息を切らして叫んだ。
「北の森に別動隊! 港のほうへ向かっています!」
その報告を聞いた瞬間、全ての謎が解けた。俺とバルグは視線を交わし、互いの考えが一致したことを確認する。
つまり、この散布班は囮――本命は港町への奇襲だ。俺たちを山間部に引き付けている間に、本隊が港町を攻撃する作戦だったのだ。
敵の戦術は想像以上に巧妙で、俺たちは完全に策略にはまってしまった。重要な薬草採集という任務を利用し、守備の手薄になった港町を狙う周到な計画だった。
薬草と汚染液のサンプルを背負い直し、俺は短く息を吐く。成果は得られたが、代償も大きい。港町の安全が脅かされている状況で、のんびりしている時間はない。
「全員、全速で戻るぞ!」
俺の指示に、採集班全員が即座に行動を開始した。薬草の価値は理解しているが、それ以上に港町の人々の安全が重要だ。
朝霧の中、俺たちは山を駆け下りた。足場の悪い山道を、可能な限りの速度で下っていく。背後では、倒れた敵の通信筒が、低く不気味な音を響かせていた。
その音は、仲間への合図なのか、それとも作戦成功の報告なのか。いずれにしても、良い知らせではないだろう。
俺は空中に舞い上がり、港町の方角を見渡した。遠くに煙が上がっているのが見える。既に戦闘が始まっている可能性が高い。
(間に合ってくれ……)
心の中で祈りながら、俺は最大速度で港町へ向かった。翼を激しく羽ばたかせ、風を切って飛んでいく。仲間たちとリィナの安全、そして患者たちの命が気がかりだった。
山間部での戦闘は勝利したが、真の戦いはこれからだ。敵の本隊との決戦が、港町で始まろうとしている。俺たちの帰還が、戦況を左右する鍵となるかもしれない。
風が強まり、雲が流れていく。その向こうに見える港町が、いつもより小さく、か細く見えた。大切な人々が待つ故郷を守るため、俺は全力で飛び続けた。
1
あなたにおすすめの小説
異世界亜人熟女ハーレム製作者
†真・筋坊主 しんなるきんちゃん†
ファンタジー
異世界転生して亜人の熟女ハーレムを作る話です
【注意】この作品は全てフィクションであり実在、歴史上の人物、場所、概念とは異なります。
【完結】487222760年間女神様に仕えてきた俺は、そろそろ普通の異世界転生をしてもいいと思う
こすもすさんど(元:ムメイザクラ)
ファンタジー
異世界転生の女神様に四億年近くも仕えてきた、名も無きオリ主。
億千の異世界転生を繰り返してきた彼は、女神様に"休暇"と称して『普通の異世界転生がしたい』とお願いする。
彼の願いを聞き入れた女神様は、彼を無難な異世界へと送り出す。
四億年の経験知識と共に異世界へ降り立ったオリ主――『アヤト』は、自由気ままな転生者生活を満喫しようとするのだが、そんなぶっ壊れチートを持ったなろう系オリ主が平穏無事な"普通の異世界転生"など出来るはずもなく……?
道行く美少女ヒロイン達をスパルタ特訓で徹底的に鍛え上げ、邪魔する奴はただのパンチで滅殺抹殺一撃必殺、それも全ては"普通の異世界転生"をするために!
気が付けばヒロインが増え、気が付けば厄介事に巻き込まれる、テメーの頭はハッピーセットな、なろう系最強チーレム無双オリ主の明日はどっちだ!?
※小説家になろう、エブリスタ、ノベルアップ+にも掲載しております。
能力値カンストで異世界転生したので…のんびり生きちゃダメですか?
火産霊神
ファンタジー
私の異世界転生、思ってたのとちょっと違う…?
24歳OLの立花由芽は、ある日異世界転生し「ユメ」という名前の16歳の魔女として生きることに。その世界は魔王の脅威に怯え…ているわけでもなく、レベルアップは…能力値がカンストしているのでする必要もなく、能力を持て余した彼女はスローライフをおくることに。そう決めた矢先から何やらイベントが発生し…!?
異世界転生雑学無双譚 〜転生したのにスキルとか貰えなかったのですが〜
芍薬甘草湯
ファンタジー
エドガーはマルディア王国王都の五爵家の三男坊。幼い頃から神童天才と評されていたが七歳で前世の知識に目覚め、図書館に引き篭もる事に。
そして時は流れて十二歳になったエドガー。祝福の儀にてスキルを得られなかったエドガーは流刑者の村へ追放となるのだった。
【カクヨムにも投稿してます】
異世界転生したので森の中で静かに暮らしたい
ボナペティ鈴木
ファンタジー
異世界に転生することになったが勇者や賢者、チート能力なんて必要ない。
強靭な肉体さえあれば生きていくことができるはず。
ただただ森の中で静かに暮らしていきたい。
外れスキルは、レベル1!~異世界転生したのに、外れスキルでした!
武蔵野純平
ファンタジー
異世界転生したユウトは、十三歳になり成人の儀式を受け神様からスキルを授かった。
しかし、授かったスキルは『レベル1』という聞いたこともないスキルだった。
『ハズレスキルだ!』
同世代の仲間からバカにされるが、ユウトが冒険者として活動を始めると『レベル1』はとんでもないチートスキルだった。ユウトは仲間と一緒にダンジョンを探索し成り上がっていく。
そんなユウトたちに一人の少女た頼み事をする。『お父さんを助けて!』
知識スキルで異世界らいふ
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
他の異世界の神様のやらかしで死んだ俺は、その神様の紹介で別の異世界に転生する事になった。地球の神様からもらった知識スキルを駆使して、異世界ライフ
異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~
宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。
転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。
良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。
例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。
けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。
同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。
彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!?
※小説家になろう様にも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる