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願いを叶える薬

第54話 船旅、ロアナとモアナ

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 リオス一家と夕食を共にした翌朝、酔い止めを飲み遅れないようにと夜明けとともにチェックアウトし港に向かった。

 港の入口にはリオスさんがすでにいた。

「おや、早いねみんな来るまでまだ時間かかるだろうから船に乗ってっていいよ」

 どの船だろうかと思っていると、

「あぁ、そうだ、船まで案内するよ」

 そう言うと桟橋に停泊している船まで案内してくれた。大きい船ではなく中型か小型かな?

「カッコいい船ですね」
「そうだろ~2本マストのスクーナ型なんだよ、そういえば昨日釣りしていたよね、釣りして待ってていいよ」
「見てたんですか?」
「あぁ見てたよ、ユキ君の幻影を使った面白い釣りをしているなと思ってね」

 見られてたのか、ユキが釣り糸の垂らしている辺りに群れを追い込みエサに喰いついた魚を釣る。それをひたすら繰り返すだけの入れ食いで釣れる楽しさだけを追い求めるなら効率的なやり方だった。

「はぁ、それじゃあ待ってる間釣りさせてもらいますね」
「あぁ」

 リオスさんはそう言うと、また港の入口の方に戻っていった。

 日本から持ち込んでいるイクラを針につけて海に垂らし朝食を確保することにした。

 日も高くなったころ、ロアナ姉妹とリオスさんと他のハイエルフの男女が10人近く乗り込んできたので自己紹介を済ませ、いよいよ出航することとなった。

 自分もロープを張ったりと出来ることを手伝った。

「よっし出航だ!錨を上げろ~」

 リオスさんがそう言うと

 1人の男が錨をあげ船はゆっくりと動き始めた。

 甲板の端の床に座りユキを撫でていると。

「何もなければ10日位で到着するから好きにしてていいと思うよ」

 いつの間にかロアナが横に来ていた。10日間か~ちょっと長いな、そうだ、快適に船旅をする為にネズミ討伐をユキにしてもらうか。

「よっし、ユキネズミ討伐だ、ネズミを狩って死体をここに持ってきて。持ってきた分だけビーフジャーキーあげる!」

 手にビーフジャーキー数枚出してユキにみせた。

「キュ♪」

 とだけ鳴くと一目散に下の階層に続く入口である床の中に消えて言った。

「へぇ~なにその塊」

 ロアナがビーフジャーキーに興味を持っていた。

「自分が居た世界の動物の肉を干した奴かな」
「あぁなるほど、1枚貰ってもいいかな?」
「どうぞ」

 1枚ロアナさんに手渡すとモアナも興味深そうに見ていたので1枚渡した。

「ん~硬い!味が濃くてしょっぱい!」
「まぁ塩で水抜きして塩コショウで味付けしてますからね~」
「胡椒!?ぜいたく品!?」

 ロアナが咥えていたビーフジャーキーを落としそうになっていた。

「いやいやいや、一般的な調味料ですよ……」
「君が居た世界はそうなんだね、だけど私達にとっては手の出ない贅沢品なんだよ」

 大航海時代に胡椒が高級品だと言うのは知っていたけど、この世界でもなのか?

「そうなんだ、乾燥した黒胡椒の実でいいならいっぱいありますけどいります?」
「いやいやいや、さっきの話聞いてた?」
「聞いてたけど、それこそ銀貨2~3枚でこれくらい買えるんですよ」

 そういって、詰め替え用の乾燥させた黒胡椒の実の袋を出した。

「えぇ~それだけで金貨数枚位すると思うよ……」

 もしかして他の調味料も高いのかな?

 岩塩は王都マバダザでも売ってたのは知っているけどちょっと高かった記憶がある。唐辛子とかはどうなんだろう?

「唐辛子はどうなんですかね?」
「唐辛子?」

 見たことないのかな?
 
 実のままの奴が無いな、仕方ない既に粉末状になっているレッドペッパーをだした。

「ちょっと手を出してくれる?」
「うん?」

 ロアナの手の平に少量のレッドペッパーを出した。

「これだけ?」
「とりあえずそれだけで……先に言うけど辛いからね?」
「誠明、私にも頂戴」

 モアナは子どもだし唐辛子は早くないかなと内心思いながら、モアナの手にも少し出した。

「何度も言うけど辛いからね?」
「モアナ、一緒に食べようか」
「うん」
「いっせのせっ」

 モアナちゃんは手のひらに乗っていたレッドペッパーを口に放り込んだが、一方ロアナさんは一瞬だけ動いただけでモアナちゃんの動向を見ていた。

「からっ!辛い!」

 咳き込み涙目になるモアナちゃんを見て、ロアナさんがほっと胸を下ろしていたのを見逃さなかった。

 ペットボトルの水を紙コップに注ぎモアナちゃんに渡した。

「ロアナさんは結局口にしないんですね」
「いや~モアナの様子見てからでいいかなぁと……」

 ロアナさんの手のひらに残っているレッドペッパーを見たモアナが不機嫌な表情を見せた。

「お姉ちゃん!ずるい!」

 自分もそう思う、いっせいのせって声掛けしておいて自分は食べないとか……。

「いや~」
「早くお姉ちゃんも食べて!誠明、お姉ちゃんの量増やして!」

 モアナちゃんは怒り心頭な様子だった。

 仕方ない、ここはモアナちゃんの機嫌を治すためにフルーツ味の飴ちゃんをあげるか。

「モアナちゃん、手を出して、今度は辛く無くて甘い奴だから」
「ほんとに?」
「うん」
 
 アイテムボックスからフルーツの飴をだした。

「何色がいい?」
「ん~ピンク」

 ピーチ味か、ピンクの飴玉をモアナちゃんの手のひらに出し、自分もグレープ味の飴を手に出した。

「かみ砕かないで舐めると良いよ」

 と言いつつ、自分の手のひらにあるグレープ味の飴を口に含んだ。

「からくない?」

 まだ疑われてるのか。

「大丈夫だよ」

 そう言うとようやくモアナちゃんはもも味の飴玉を口に含んだ。

「あまい~これ砂糖の塊?」

 まぁそんなもんかな。

「そうだね」
「砂糖も高級品なんだよ~」
「あ~そうなんだ……」

 昔砂糖も高級品だったっけ?なんて思った。

「ねね、私にもそれ頂戴?」

 手のひらにレッドペッパーが残ったままのロアナが言って来た。

「お姉ちゃんは赤いの食べてからだね!誠明、辛いのと甘いの使った料理作って」

 辛い料理と甘い料理ってなんだ……?
 ふと頭に浮かぶのは砂糖と鷹の爪を使う料理、ピリ辛肉じゃがだった。鷹の爪はないけど代用できるものはあるし他の材料はあるから作ってみるか、肉はユキが狩ったマウントディアの肉が残っている。

「いいよ、みんなの分作らないとだよね?」
「うん~楽しみ~♪」

 と嬉しそうにしているモアナちゃんと、レッドペッパーと睨めっこしているロアナがいた。

 2人を見ていると、反対側の太ももに何か押し当てられる感触があり、そちらを見るとユキがいつもの撫でてと言わんばかりに、頭をグリグリと押し当てていた。ユキとフィル君が10匹以上のネズミの死骸をため込んでいた。

「忘れてた……、よく頑張ったね、5枚5枚でいいかな?」
「キュィ~♪」「クィッ」

 2匹の目の前にビーフジャーキーを5枚ずつ置いてやると2匹ともカジカジタイムに入った。

「うわぁ、いつの間にこんなに侵入してきてるんだろ……」
「奴らは泳ぎが上手らしいからね」
「そっか~、ほらお姉ちゃん早く食べて!」

 ロアナはまだレッドペッパーの睨めっこしていた。

 さて、モアナちゃんの要望に応えるとして、寸動鍋で肉じゃが作るか。

 手のひらのレッドペッパーと終わらない睨めっこをしているロアナをよそに、モアナちゃんに船の厨房に案内してもらい肉じゃが料理を作り始めた。

 肉じゃがが出来た後もまだレッドペッパーと睨めっこをしていた。

 捨てるという選択肢は取らないんだなぁと思いながら見ていた。
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