不殺の暗殺者と呼ばれた男 ~スキル:タコは思っていた以上に高性能でした~

川原源明

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第3章 冒険者活動スタート!

第18話 地の底より、王たち現る

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 朝のギルドには、張り詰めた空気が漂っていた。

 冒険者たちのざわめき、足早に動く職員、掲示板を囲む視線——
 昨日の“廃屋での戦闘報告”が、ギルド全体を動かしたのだと、嫌でもわかった。

 【緊急依頼:B+等級】
 《王都南方・廃屋地下における魔物異常繁殖調査任務》
 対象:Bランク以上のパーティーおよび特別推薦者
 ※討伐報酬および成果に応じた加算あり

「三桁クラスで確認されたって……マジかよ」

 俺の報告を受けて、ギルドが改めて偵察を出したのかもしれない。
 もしそうでなければ、俺の見た光景だけでは、ここまでの騒ぎにはなっていないはずだ。

「どうせ小型ばっかだろ? ……いや、昨日の報告じゃ上位種も混ざってたって話だ」
「撤退した奴ら、よく生きて帰ったよな」

 冒険者たちの会話が耳に入る。

 俺は昨日の現場の“第一発見者”として、今日の調査にも同行するよう任命されていた。

「来たわね。体調は?」

 セリカがいつもの調子で声をかけてきた。無駄のない黒革の装備に、長くまとめた銀髪。凛としたその立ち姿に、初めて顔を合わせたときの冷静で静かな目つきが脳裏をよぎる。

「「昨日の疲れは……問題ありません」
「そう、ならいいわ」

 それだけ言って、彼女は静かに視線を前へ向けた。

 今回の調査戦闘には三つのパーティーが招集されていた。

 ・《アイアンクロウ》:王都でも腕利きと評される剣士中心の前衛パーティー
 ・《トワイライトキャロット》:広域魔法を得意とする四人組の魔導士隊
 ・《グレイウィード》:回復・防御に特化した補助支援班。戦場の要を担う縁の下の力持ちだ

 俺とセリカは“補佐枠”として、俺は案内、セリカは全体指揮と戦況管理を兼ねる形で合流する。

 

 午前九時。廃屋に到着。

 昨日よりも明らかに荒れた様子の建物。扉は吹き飛び、内部には地割れのような亀裂が走っていた。

「確認できた範囲では、地下構造は自然崩落由来のものだと推測されるが……」

 現場のギルド員がそう呟く横で、すでに剣を抜いた《アイアンクロウ》のベルドが号令を飛ばす。

「警戒態勢で入る! 魔法班、援護準備!」

 探索開始から、わずか五分。

 裂けた床の下から、腐臭とともに影が這い上がってきた。

「っ、出るぞ! オーク群!」

 見えた数だけでも二十、三十と膨れ上がっていく。
 全体で三桁という話は、決して誇張ではなかった。

 《アイアンクロウ》が前列を張り、鋼の盾と剣で押し留める。
 《トワイライトキャロット》はすでに陣形を取り、火炎と氷結の術で敵を削っていく。

 《グレイウィード》の術士が、負傷兵へ素早く《ヒールライト》をかけ、戦線を維持させた。

 俺とセリカは中央後方、崩れた柱の陰から戦況を監視していた。

「流れは悪くない。でも……これだけで終わるとは思えないわ」

 セリカが低く言った直後——

 地下から、異様な“気圧”が立ち上がる。

 ズン……と空気が震えた次の瞬間。
 奥の岩盤が爆ぜるように砕け、三体の巨大な影が姿を現した。

 一体は重装備を思わせる筋骨隆々の“オークロード”
 一体は魔力の揺らぎを纏い、髪が触手のように揺れる“オーククイーン”
 そして最後に現れたのは、全身が金属のような硬質で覆われた“オークキング”

「っ……三体……!」
「前衛後退! 広域防御展開! 魔法陣形崩すな!」

 セリカの怒号が飛ぶ。だが混乱はすぐに全体を飲み込んだ。

 《アイアンクロウ》の盾兵がロードの棍棒で吹き飛ばされ、ラインが崩れる。
 クイーンの魔力干渉で《トワイライトキャロット》の詠唱が遮断され、火力が減退。

 《グレイウィード》が《ガードウォール》で守りながら前線の回復に奔走するも、押し寄せるオークたちの猛攻は止まらない。

 そして——オークキング。

 ただ一歩踏み出すだけで、地面が震える。
 セリカが前に出る。

「あれを止めなきゃ、ラインが崩壊する。あなたはここにいなさい」
「わかりました」
「止められるのは、今この中では私しかいない」

 それだけ言って、彼女は小さく跳躍した。
 次の瞬間、オークキングの喉元に、一筋の斬撃が走る。

 だが——硬い。裂けてはいるが、深くはない。セリカはすぐに距離を取り、冷静に次の一手を見極める。

(あの動き、反応速度、……やっぱりただの“熟練者”じゃない)

 俺は心の中でそう思ったが、口には出さなかった。

 セリカは確かに強い。だがそれでも、今の戦況は厳しすぎる。

「限界だ、退避しろ!」
「後衛は下がれ! 障壁展開もう限界だ!」

 《グレイウィード》の支援術士が、限界の中で魔法陣を維持している。
 ここで誰かが囮にならなければ、全滅は避けられない。

 セリカが振り返ったそのとき、俺はすでに前に出ていた。

(俺にはまだ、“切り札”がある)

 ラメールから与えられた力。
 スキル《タコ》。
 それを、まだ一度も戦場で“本気で”使ったことがない。

(ここで出さずに、いつ出す)

 右手に短剣を構え、刃を舐め毒を塗る。

 口の中で舌を走らせる。……唾液に、毒素がにじみ出る。

(やるしかない)

 目の前の闇の奥へ、俺は一歩踏み出した。
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