不殺の暗殺者と呼ばれた男 ~スキル:タコは思っていた以上に高性能でした~

 ブラック企業を退職し、自由を満喫しようとしていた35歳の元サラリーマン・海野海斗(カイト)。気まぐれで訪れた伊豆諸島で、不思議な声に導かれ、彼は異世界《ヴェリディア》へと召喚される。出迎えたのは、少し抜けていて可愛らしいが、れっきとした“新人女神”ラメール。彼女に選ばれたカイトは、“使徒”としてこの世界を生きる道を選ぶ。

 授けられたスキルは、なんと《タコ》。 食材のような名前に一瞬戸惑うも、その能力は超多機能。カモフラージュ、軟体化、再生能力、超音波定位、毒生成に霧の展開まで、多彩な特性を持つ“進化型ユニークスキル”だった。

 異世界での冒険者生活をスタートさせたカイトは、最初の依頼で盗賊団の潜む洞窟に潜入。潜入・救出・戦闘と全てを一人でこなし、悪魔族を討伐。さらに女性たちを救い出し、盗賊をしていた村人たちと被害者の和解を成し遂げる。

 カイトは悪人にも何か事情が存在すること、人を“殺す”ということに強い葛藤を抱いていた。どんなに理由があっても、“手を下す”ことへの抵抗感は拭えずにいた。

 やがて冒険者として活動しはじめたそんな中、王都でのある依頼をきっかけに、物語は大きく動き出す。
 突如現れた異常な強さを持つ魔物たち、揺れる戦況、そして混乱の中で訪れる決断の瞬間——。

 そして、戦いの後、カイトに接触してきたのは、この世界の裏側を動かす“影の組織”だった。
 暗殺、潜入、情報収集。その活動は、表に出ることのない“もう一つの正義”。光の届かぬ場所で、確かにこの世界を支えていた。

 彼らは、カイトに“その一員にならないか”と声をかけたのだった。

 人を殺すことに抵抗を感じたカイトはその場での回答を保留し、ある女性のもとを訪ねる。

 王都の裏通りでBarを営む、一風変わった元医師の女性——クラリス。

「殺さなきゃいいじゃない?」

 そう語る彼女は、カイトの葛藤に寄り添いながら、“殺さずに敵を無力化する”という道を語る。
 変化させる毒、記憶に干渉する薬理、そして——新たな未来を与えるという選択。

 ——不殺という信念を掲げ、“暗殺者”として影の世界に足を踏み入れる男の物語が、今、静かに動き出す。
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