あなたが読むかぎり

川原源明

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第1章 Whispr ―語られすぎた物語―

第2話 事件現場付近?

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週末
 朝から件の駅に来ていた。

 来練駅は、見た目にも何の変哲もない、地方によくある無人駅だった。

 改札はIC専用、切符売り場すらない。構内にコンビニはなく、自販機が一台。ベンチには誰も座っていない。

 だが──

「……電車のアナウンス、してないね」

 ひなたがふとつぶやいた。

 電車の接近を知らせる音は、ホームに立っていれば聞こえるはずだった。だが、今は何も聞こえない。ただ、風の音と遠くの踏切の電子音が、かすかに響いているだけ。

「ま、今は間の時間だろ」

 理久はスマホの時刻表を確認し、肩をすくめる。

「ほら、次の電車まで二十分ある。乗るならそのあとだ」

「……じゃあ、それまでちょっと、散策しよっか」

「どこにだよ」

「“ユイ”が降りたって投稿してたの、17:05でしょ。位置情報的にはこの辺で降りたってことになる。あのとき見た景色、どっかに残ってるかもしれないじゃん」

 理久はひなたを一瞥したあと、ため息をついて歩き出した。

「ったく……。付き合ってらんねぇな」

 でも、歩き出す。
 ひなたは思わず笑って、その背中を追いかけた。

 駅の裏手には、雑木林のような土地が広がっていた。

 舗装されていない細道が一本だけ、林の奥へと伸びている。フェンスもなく、看板もない。ただ、空き地のようにぽっかりと開けていた。

「……こんなとこに、ほんとに道、あったんだ……」

 ひなたがつぶやく。

 理久は足を止めて、木々の奥を見つめる。

 その先に何があるのかはわからない。ただ、誰かが通ったような跡──靴の踏み跡が、ぬかるんだ土に残っていた。

「道がある。奥、行くぞ」
「……理久?」

 ひなたは思わずその腕を掴んだ。

 言葉にはしなかったけれど、胸の奥に、妙なざわつきがあった。さっきまでのノリとは違う、何かが引っかかる感覚。

「怖いのか」

「ちょっと、ね」

「……じゃあ、やめとくか」

 理久がそう言った瞬間だった。

 携帯が鳴った。通知は一件──

 通知欄に見慣れた名前が表示されていた。

________________________________________
 林の奥へと進みながら、ひなたの胸は不安と好奇心でせめぎ合っていた。
 まるで実況が、今の自分たちの行動と“呼応している”ようだった。
 そして、そう思った瞬間──さらなる更新が、タイムラインに流れてきた。
________________________________________
09:33「やだ、来ないで。こっちに来ないで」
09:34「見つかった」
________________________________________

 ひなたは思わずスマホを握りしめた。

「……これ、実況っていうより……記録、だよね。誰かが……そのときのことを“繰り返してる”みたいな」

 理久は短くうなずき、歩みを止めた。

 足元には、何かが落ちていた。

 白く、泥にまみれた──イヤホン。

 片側のコードは千切れ、プラスチックのカバーが剥がれて銅線が覗いていた。

「……“ユイ”の、かもしれない」

「可能性はある」

 理久は静かにイヤホンを拾い上げた。

 そのとき、また一つ、投稿が追加された。

________________________________________
09:36「足音が、増えてる」
________________________________________

 風がやんだ。

 葉のざわめきも、遠ざかった気がした。

 ひなたは気づいた。

 ──さっきまで聞こえていた“自分たちの足音”が、今はもう、聞こえない。
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