2 / 46
第1章 Whispr ―語られすぎた物語―
第2話 事件現場付近?
しおりを挟む
週末
朝から件の駅に来ていた。
来練駅は、見た目にも何の変哲もない、地方によくある無人駅だった。
改札はIC専用、切符売り場すらない。構内にコンビニはなく、自販機が一台。ベンチには誰も座っていない。
だが──
「……電車のアナウンス、してないね」
ひなたがふとつぶやいた。
電車の接近を知らせる音は、ホームに立っていれば聞こえるはずだった。だが、今は何も聞こえない。ただ、風の音と遠くの踏切の電子音が、かすかに響いているだけ。
「ま、今は間の時間だろ」
理久はスマホの時刻表を確認し、肩をすくめる。
「ほら、次の電車まで二十分ある。乗るならそのあとだ」
「……じゃあ、それまでちょっと、散策しよっか」
「どこにだよ」
「“ユイ”が降りたって投稿してたの、17:05でしょ。位置情報的にはこの辺で降りたってことになる。あのとき見た景色、どっかに残ってるかもしれないじゃん」
理久はひなたを一瞥したあと、ため息をついて歩き出した。
「ったく……。付き合ってらんねぇな」
でも、歩き出す。
ひなたは思わず笑って、その背中を追いかけた。
駅の裏手には、雑木林のような土地が広がっていた。
舗装されていない細道が一本だけ、林の奥へと伸びている。フェンスもなく、看板もない。ただ、空き地のようにぽっかりと開けていた。
「……こんなとこに、ほんとに道、あったんだ……」
ひなたがつぶやく。
理久は足を止めて、木々の奥を見つめる。
その先に何があるのかはわからない。ただ、誰かが通ったような跡──靴の踏み跡が、ぬかるんだ土に残っていた。
「道がある。奥、行くぞ」
「……理久?」
ひなたは思わずその腕を掴んだ。
言葉にはしなかったけれど、胸の奥に、妙なざわつきがあった。さっきまでのノリとは違う、何かが引っかかる感覚。
「怖いのか」
「ちょっと、ね」
「……じゃあ、やめとくか」
理久がそう言った瞬間だった。
携帯が鳴った。通知は一件──
通知欄に見慣れた名前が表示されていた。
________________________________________
林の奥へと進みながら、ひなたの胸は不安と好奇心でせめぎ合っていた。
まるで実況が、今の自分たちの行動と“呼応している”ようだった。
そして、そう思った瞬間──さらなる更新が、タイムラインに流れてきた。
________________________________________
09:33「やだ、来ないで。こっちに来ないで」
09:34「見つかった」
________________________________________
ひなたは思わずスマホを握りしめた。
「……これ、実況っていうより……記録、だよね。誰かが……そのときのことを“繰り返してる”みたいな」
理久は短くうなずき、歩みを止めた。
足元には、何かが落ちていた。
白く、泥にまみれた──イヤホン。
片側のコードは千切れ、プラスチックのカバーが剥がれて銅線が覗いていた。
「……“ユイ”の、かもしれない」
「可能性はある」
理久は静かにイヤホンを拾い上げた。
そのとき、また一つ、投稿が追加された。
________________________________________
09:36「足音が、増えてる」
________________________________________
風がやんだ。
葉のざわめきも、遠ざかった気がした。
ひなたは気づいた。
──さっきまで聞こえていた“自分たちの足音”が、今はもう、聞こえない。
朝から件の駅に来ていた。
来練駅は、見た目にも何の変哲もない、地方によくある無人駅だった。
改札はIC専用、切符売り場すらない。構内にコンビニはなく、自販機が一台。ベンチには誰も座っていない。
だが──
「……電車のアナウンス、してないね」
ひなたがふとつぶやいた。
電車の接近を知らせる音は、ホームに立っていれば聞こえるはずだった。だが、今は何も聞こえない。ただ、風の音と遠くの踏切の電子音が、かすかに響いているだけ。
「ま、今は間の時間だろ」
理久はスマホの時刻表を確認し、肩をすくめる。
「ほら、次の電車まで二十分ある。乗るならそのあとだ」
「……じゃあ、それまでちょっと、散策しよっか」
「どこにだよ」
「“ユイ”が降りたって投稿してたの、17:05でしょ。位置情報的にはこの辺で降りたってことになる。あのとき見た景色、どっかに残ってるかもしれないじゃん」
理久はひなたを一瞥したあと、ため息をついて歩き出した。
「ったく……。付き合ってらんねぇな」
でも、歩き出す。
ひなたは思わず笑って、その背中を追いかけた。
駅の裏手には、雑木林のような土地が広がっていた。
舗装されていない細道が一本だけ、林の奥へと伸びている。フェンスもなく、看板もない。ただ、空き地のようにぽっかりと開けていた。
「……こんなとこに、ほんとに道、あったんだ……」
ひなたがつぶやく。
理久は足を止めて、木々の奥を見つめる。
その先に何があるのかはわからない。ただ、誰かが通ったような跡──靴の踏み跡が、ぬかるんだ土に残っていた。
「道がある。奥、行くぞ」
「……理久?」
ひなたは思わずその腕を掴んだ。
言葉にはしなかったけれど、胸の奥に、妙なざわつきがあった。さっきまでのノリとは違う、何かが引っかかる感覚。
「怖いのか」
「ちょっと、ね」
「……じゃあ、やめとくか」
理久がそう言った瞬間だった。
携帯が鳴った。通知は一件──
通知欄に見慣れた名前が表示されていた。
________________________________________
林の奥へと進みながら、ひなたの胸は不安と好奇心でせめぎ合っていた。
まるで実況が、今の自分たちの行動と“呼応している”ようだった。
そして、そう思った瞬間──さらなる更新が、タイムラインに流れてきた。
________________________________________
09:33「やだ、来ないで。こっちに来ないで」
09:34「見つかった」
________________________________________
ひなたは思わずスマホを握りしめた。
「……これ、実況っていうより……記録、だよね。誰かが……そのときのことを“繰り返してる”みたいな」
理久は短くうなずき、歩みを止めた。
足元には、何かが落ちていた。
白く、泥にまみれた──イヤホン。
片側のコードは千切れ、プラスチックのカバーが剥がれて銅線が覗いていた。
「……“ユイ”の、かもしれない」
「可能性はある」
理久は静かにイヤホンを拾い上げた。
そのとき、また一つ、投稿が追加された。
________________________________________
09:36「足音が、増えてる」
________________________________________
風がやんだ。
葉のざわめきも、遠ざかった気がした。
ひなたは気づいた。
──さっきまで聞こえていた“自分たちの足音”が、今はもう、聞こえない。
0
あなたにおすすめの小説
天才ダウト! 〜天然な俺と、天然じゃない弟クンの、受験二人三脚〜
沼津平成@25周年カップ参加中
ミステリー
俺と弟。それぞれ違う高校受験を控えた2人が、勉強の傍ら編み出したのが「推理ゲーム」相手がそれぞれ超ムズ問題を作成して、とき合うゲーム。それはただの遊びだったはずが、母親・父親・そしてネコまでも介入してきて——!? こんなの”青春推理"じゃない? ダウト! 笑いとサスペンスが混じり合う、インドアな青春物語っ!!
全20回くらいで完結予定!
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。
ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。
真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。
引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。
偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。
ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。
優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。
大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。
奇異なる事象万お委せあれ:奇異探偵社
崎田毅駿
ミステリー
高校生の礼南は、巫女姿で探偵をするという珍しいバイトに精を出している。社長の大室がこの度引き受けてきた依頼は、なんと礼南の同級生で幼馴染みでもある御厨からのものだった。何でも、御厨がバイトをしているカラオケボックスの一室で、四人の男女が首を絞められ、うち三名が死亡、一名だけどうにか命を取り留めたという。その部屋を担当していた御厨に容疑が向きかねない状況だったため、近場の探偵社に依頼を出したところ、たまたま礼南のバイト先だったようだ。幼馴染みの前で、首尾よく解決となるか?
後の祭り
ねこまんまときみどりのことり
ライト文芸
母親を馬車の事故で亡くしたナズナは、馬車に乗っていた貴族の男性に、義理の娘として引き取られた。引き取られた先の子爵邸では、義母や義妹に傷付けられて泣いて過ごすこともあったが、懸命に生きていく。引き取られた裏には、別の理由もあったようで。
小説家になろうさん、カクヨムさんにも載せています。
出戻り娘と乗っ取り娘
瑞多美音
恋愛
望まれて嫁いだはずが……
「お前は誰だっ!とっとと出て行け!」
追い返され、家にUターンすると見知らぬ娘が自分になっていました。どうやら、魔法か何かを使いわたくしはすべてを乗っ取られたようです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる