あなたが読むかぎり

川原源明

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第3章 トオミサマ ―視線の檻―

第41話 視たはずの影

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 放課後の教室は、光が足りない。

 もうすぐ春だというのに、今日はやけに雲が重い。

 朝倉ひなたは、鞄にノートをしまいながら、ちらりと窓の外を見た。

 灰色の空に、電柱が一本、長く立っている。

 ──いや、違う。電柱ではない。あれは、誰か……?

「ひなた」

 呼びかけに我に返る。九条理久が、教室の前のドアにもたれていた。

「行くぞ」

「あ……うん、ごめん、ちょっと変なもん見てたかも」

 理久は返事をせず、ひなたの視線をたどるように窓の外を見る。

「なにもない」

「……だよね。でも……」

「見間違いだ。たぶん」

 ひなたは小さく頷いて、鞄を肩にかけた。

 理久の視線が、さっきの電柱のほうをじっと見ていたが、すぐに歩き出す。

 二人が校門を出たところで、見慣れない女子生徒が立っていた。

 髪は肩まで。制服の着こなしもごく普通。でも、どこかぼんやりしている。目の焦点が合っていないようだった。

「あの……朝倉さん、ですよね?」

「え? うん、そうだけど……?」
「これ、預かってもらえませんか」

 そう言って差し出されたのは、小さなメモリーデバイスだった。USBでもSDでもない、旧式の録画媒体。

 しかも、黒く塗りつぶされたテープが貼ってある。

「これ……なに?」
「映像です。でも、見ないほうがいいです。私、もう転校するんで……ありがとうございました」

 ひなたが何か返す前に、その生徒は歩き去っていった。

「……理久、今の子、誰?」

「知らん。少なくとも俺の記録にはないな」

「でも、私の名前、知ってた」

「その映像──見る気か?」

 ひなたは無言で頷く。

「……じゃあ、見る前に。自分の視界を確認しろ」
「は?」

「“誰が見ているか”は、見たあとじゃなくて、見る前に決まってる」

 理久の言葉に、ひなたは思わず背筋を正す。

 映像なんてただの記録だ──そう思っていた。

 けれど、手の中の記録装置は、まるで“見られること”を望んでいるような、重さを持っていた。

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