41 / 46
第3章 トオミサマ ―視線の檻―
第41話 視たはずの影
しおりを挟む
放課後の教室は、光が足りない。
もうすぐ春だというのに、今日はやけに雲が重い。
朝倉ひなたは、鞄にノートをしまいながら、ちらりと窓の外を見た。
灰色の空に、電柱が一本、長く立っている。
──いや、違う。電柱ではない。あれは、誰か……?
「ひなた」
呼びかけに我に返る。九条理久が、教室の前のドアにもたれていた。
「行くぞ」
「あ……うん、ごめん、ちょっと変なもん見てたかも」
理久は返事をせず、ひなたの視線をたどるように窓の外を見る。
「なにもない」
「……だよね。でも……」
「見間違いだ。たぶん」
ひなたは小さく頷いて、鞄を肩にかけた。
理久の視線が、さっきの電柱のほうをじっと見ていたが、すぐに歩き出す。
二人が校門を出たところで、見慣れない女子生徒が立っていた。
髪は肩まで。制服の着こなしもごく普通。でも、どこかぼんやりしている。目の焦点が合っていないようだった。
「あの……朝倉さん、ですよね?」
「え? うん、そうだけど……?」
「これ、預かってもらえませんか」
そう言って差し出されたのは、小さなメモリーデバイスだった。USBでもSDでもない、旧式の録画媒体。
しかも、黒く塗りつぶされたテープが貼ってある。
「これ……なに?」
「映像です。でも、見ないほうがいいです。私、もう転校するんで……ありがとうございました」
ひなたが何か返す前に、その生徒は歩き去っていった。
「……理久、今の子、誰?」
「知らん。少なくとも俺の記録にはないな」
「でも、私の名前、知ってた」
「その映像──見る気か?」
ひなたは無言で頷く。
「……じゃあ、見る前に。自分の視界を確認しろ」
「は?」
「“誰が見ているか”は、見たあとじゃなくて、見る前に決まってる」
理久の言葉に、ひなたは思わず背筋を正す。
映像なんてただの記録だ──そう思っていた。
けれど、手の中の記録装置は、まるで“見られること”を望んでいるような、重さを持っていた。
もうすぐ春だというのに、今日はやけに雲が重い。
朝倉ひなたは、鞄にノートをしまいながら、ちらりと窓の外を見た。
灰色の空に、電柱が一本、長く立っている。
──いや、違う。電柱ではない。あれは、誰か……?
「ひなた」
呼びかけに我に返る。九条理久が、教室の前のドアにもたれていた。
「行くぞ」
「あ……うん、ごめん、ちょっと変なもん見てたかも」
理久は返事をせず、ひなたの視線をたどるように窓の外を見る。
「なにもない」
「……だよね。でも……」
「見間違いだ。たぶん」
ひなたは小さく頷いて、鞄を肩にかけた。
理久の視線が、さっきの電柱のほうをじっと見ていたが、すぐに歩き出す。
二人が校門を出たところで、見慣れない女子生徒が立っていた。
髪は肩まで。制服の着こなしもごく普通。でも、どこかぼんやりしている。目の焦点が合っていないようだった。
「あの……朝倉さん、ですよね?」
「え? うん、そうだけど……?」
「これ、預かってもらえませんか」
そう言って差し出されたのは、小さなメモリーデバイスだった。USBでもSDでもない、旧式の録画媒体。
しかも、黒く塗りつぶされたテープが貼ってある。
「これ……なに?」
「映像です。でも、見ないほうがいいです。私、もう転校するんで……ありがとうございました」
ひなたが何か返す前に、その生徒は歩き去っていった。
「……理久、今の子、誰?」
「知らん。少なくとも俺の記録にはないな」
「でも、私の名前、知ってた」
「その映像──見る気か?」
ひなたは無言で頷く。
「……じゃあ、見る前に。自分の視界を確認しろ」
「は?」
「“誰が見ているか”は、見たあとじゃなくて、見る前に決まってる」
理久の言葉に、ひなたは思わず背筋を正す。
映像なんてただの記録だ──そう思っていた。
けれど、手の中の記録装置は、まるで“見られること”を望んでいるような、重さを持っていた。
0
あなたにおすすめの小説
天才ダウト! 〜天然な俺と、天然じゃない弟クンの、受験二人三脚〜
沼津平成@25周年カップ参加中
ミステリー
俺と弟。それぞれ違う高校受験を控えた2人が、勉強の傍ら編み出したのが「推理ゲーム」相手がそれぞれ超ムズ問題を作成して、とき合うゲーム。それはただの遊びだったはずが、母親・父親・そしてネコまでも介入してきて——!? こんなの”青春推理"じゃない? ダウト! 笑いとサスペンスが混じり合う、インドアな青春物語っ!!
全20回くらいで完結予定!
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
病弱な彼女は、外科医の先生に静かに愛されています 〜穏やかな執着に、逃げ場はない〜
来栖れいな
恋愛
――穏やかな微笑みの裏に、逃げられない愛があった。
望んでいたわけじゃない。
けれど、逃げられなかった。
生まれつき弱い心臓を抱える彼女に、政略結婚の話が持ち上がった。
親が決めた未来なんて、受け入れられるはずがない。
無表情な彼の穏やかさが、余計に腹立たしかった。
それでも――彼だけは違った。
優しさの奥に、私の知らない熱を隠していた。
形式だけのはずだった関係は、少しずつ形を変えていく。
これは束縛? それとも、本当の愛?
穏やかな外科医に包まれていく、静かで深い恋の物語。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
奇異なる事象万お委せあれ:奇異探偵社
崎田毅駿
ミステリー
高校生の礼南は、巫女姿で探偵をするという珍しいバイトに精を出している。社長の大室がこの度引き受けてきた依頼は、なんと礼南の同級生で幼馴染みでもある御厨からのものだった。何でも、御厨がバイトをしているカラオケボックスの一室で、四人の男女が首を絞められ、うち三名が死亡、一名だけどうにか命を取り留めたという。その部屋を担当していた御厨に容疑が向きかねない状況だったため、近場の探偵社に依頼を出したところ、たまたま礼南のバイト先だったようだ。幼馴染みの前で、首尾よく解決となるか?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる