あなたが読むかぎり

川原源明

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第3章 トオミサマ ―視線の檻―

第42話 見てはいけないものが映っていた

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 日曜日の夕方。

 薄暗い部屋の中、机の上には古びたモニターと録画再生装置。

 ひなたは、あの旧式デバイスを慎重にセットし、理久と二人で画面を見つめていた。

「準備……いい?」

「どうせ見るんだろ。なら、最初から最後まで見逃すなよ」

 理久の声に背中を押されるように、ひなたは再生ボタンを押した。

──映像は、学校の屋上から始まった。

 撮影しているのは例の女子生徒らしい。手持ちの揺れが不規則で、風の音がやけに大きい。

 画面には、隣のビルが映っている。ただ、それだけだ。

 が──

「今、一瞬……誰か、立ってなかった?」

「巻き戻せ。0.25倍速」

 理久がリモコンを奪い、細かく再生を調整する。

 そして──画面の右端に、“長すぎる影”が一瞬だけ写っていた。

 身長は2メートル以上。首が妙に長く、全体的に白いワンピースのような服を着ている。

「……やっぱり、見間違いじゃなかったんだ」

 ひなたの言葉に、理久が言う。

「問題は“誰が”見間違ってないのか、だ」

「え?」

「カメラには写ってる。でも、目では見えなかった。じゃあこれは、誰が“視た”情報なんだ?」

 ひなたは黙った。

 そして、画面の奥で──“それ”が振り返った。

 白い、無表情の顔。だが、目だけは潰れている。

 にもかかわらず、明確に“見返された”感覚が、画面越しにひなたの背骨を這い上がる。

「……今、見られたよね。私たち」

 理久は目を細めたまま、画面の電源を落とした。

「いや、違う。“視たこと”を認識した瞬間、すでに見られていた」

 部屋の空気が、静かに沈む。

 そのとき、窓の外の電柱に“誰か”が立っていた。

 白く、長い腕。風もないのに、スカートのような布がゆらりと揺れる。

「……あれ、まさか」


「“視界に入った時点で始まる”ってタイプか。これは厄介だな」

 理久の言葉は、ひなたにはもうほとんど届いていなかった。

 ただ──自分の視線がもう、自分のものではないような、奇妙な違和感だけが残っていた。

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