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しおりを挟むしっぽを撫で続ければ、中身を中途半端に捨てた瓶を流しに置いたノアが、両手で台のふちを掴んで耐える。それは、なにかに縋る動作にも見えた。
彼女の頭上にある三角形の耳はチカラなく垂れ、しっぽの愛撫に合わせてぴくぴくと震えている。
ノアの呼吸は、少しずつ乱れていった。それは、つまるところ、しっぽを撫でられて快感を得ていることの証左であった。
そんな事実は本人を見れば明らかであるというのに、それでも愉楽を覚えていることを隠そうとするノアに、加虐心が煽られる。
ヴィクトールは手を伸ばし、もう一方の手で、今度は彼女の猫の耳に触れた。
「ひぁっ」
漏れた声のなまめかしさは、疑いようもない。それは、どう聞いても嬌声だった。
しっぽと獣の耳を同時に愛撫すると、ノアが弱々しくヴィクトールを押し返そうとする。
「ゃ、あっ……ヴィクトールさん、だめです……そこは……」
「そこは――なんだ」
「そ、こは……」
彼女の言葉が淀む。法悦を得ている自身に、恥じらいを感じているのか。
しっぽを軽く引いてみると、ノアはひときわ高い声で啼いた。膝から一瞬チカラが抜けたものの、それでもなんとか両手で流し台を掴み、健気に自身の身を支える。
しかし、相手のそんな健気さを見るほどに、ヴィクトールは彼女に意地悪をしたくてたまらなくなった。
己は性格が悪いのだろうかと自問してみるが、そもそも自分の性格がよいとは考えていないために、その問いは結局のところ無駄に終わる。
いや、むしろ、敢えて自分に問う必要もないだろう。なにせ、殊勝に耐えているノアを見るといっそう追いつめたくなる欲求は、まぎれもない事実なのだから。
猫の耳の内側を、ヴィクトールは指の腹で優しく撫でる。と、彼女の瞳と声音が明らかにとろけた。
「ふぁ、あ……」
快感に抗おうとするくせに、快感に弱い。それが、ノアという少女であった。
そして、その快楽を教えたのが他でもない自分なのだと考えると、ヴィクトールは歪んだ満足感を得ている己を自覚する。
その満足感は、そのまま独占欲に結びついていた。
――否、独占欲というのは、少し違うかもしれない。独占したいというよりも、失いたくない……というほうが、近いような気もした。
が、どちらにせよ、ノアのためにならない感情なのは明白である。
いい歳をしてなにをがっついているのだと自らを卑下する反面、それでも手を放す気になれない愚かさには、ほとほと呆れ果てていた。
そんな己を不意に笑いたくなる瞬間は、彼女と過ごす時間が増えるのに伴って、着実に頻度を上げている。
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