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しおりを挟む「いやー、元気そうじゃねーの。よかったよかった。な、言ったろ? 半日くらいで効果は切れるって――」
彼の台詞の途中でヴィクトールは不意打ちのまわし蹴りを食らわせたが、腹立たしいことに、その攻撃はナツネの持っていた魔術用の杖に受け止められる。
彼は顔を顰めて声を荒げた。
「あっぶねーな、お前! 当たったらどうすんだ!」
「当てるつもりだったんだが」
「こんなん当たったら吹っ飛んじまうだろ!」
吹っ飛ばすどころか、骨の一本や二本は折ってやりたかったのだが、それは黙っておく。
不承不承に足をおろすヴィクトールに、ナツネは唇を尖らせて言った。
「ったく、命にかかわる魔術でもなかったんだから、そこまで怒んなくてもよー」
「反省の色がまるで見えんが、もしやその態度は儂を煽るために故意にやっているのか?」
言葉を返すと、彼は弾かれたように姿勢を正し、笑顔を作った。
「いやー、まさか俺ともあろうもんが、あんな簡単な魔術をミスるなんてな! めんごめんご!」
考えるよりも先に、ヴィクトールの手刀が魔術師を襲う。が、それは相手が咄嗟に張った結界によって弾かれてしまった。
隠そうともせず、ヴィクトールは舌打ちをする。これだから、魔術師の相手は面倒なのだ。
そんなヴィクトールの苛立ちもお見通しなのだろう。ナツネは軽く笑って、揶揄してくる。
「短気だなー。ミルク飲んでるか? ミルク。俺なんか毎日飲んでるぞ」
「放っておけ。余計なお世話だ」
言い捨ててナツネを通り越し、ヴィクトールは再び廊下を歩んだ。
しかし、何故か魔術師がついてきて、わざわざ隣を歩いてくる。無視するものの、彼は執拗にヴィクトールの顔を覗き込んでくるため、ヴィクトールは根負けする形でナツネに声をかけた。
「……なんだ」
「や、なんかお前、丸くなったなと思ってよ」
「……は?」
予想もしない言葉を投げられ、ヴィクトールは思わず足を止める。
ナツネも同様に足を止めると、まるで面白いものでも見つけたふうな微笑をうかべて浅く首を傾げつつ、ヴィクトールの顔を見つめて続けた。
「自覚あったかどうかわかんねーけど、前までのお前ってよ、マジ裏稼業の人間の顔してたんだぜ」
「……今も人相が良いとは思わんが」
正直な感想を述べた反論に、ナツネは小さく笑う。
「まぁ、たしかに人相は悪いけどよ。それでも、ずいぶん丸くなったよ。うん」
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