【R18】婚約破棄されたらおっとり系アラフォーを攻めることになりまして

チーズたると

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「誰かと婚約したまま告白なんて、失礼にも程があるだろう」
「なんでそこだけ真っ当な感覚持ってるのよ」
「俺は、彼にそんな失礼な真似はしたくないんだ」

「男と駆け落ちするために婚約破棄される私に対する失礼を考えなさいよ。繰り返すけど、先月に婚約したばっかりなのよ。べつにあんたへの愛情は微塵もなかったけど」

「なら、なにも問題ないじゃないか!」

 ヤンダークは笑顔で両腕を広げる。ひょっとすると、こういうのをサイコパスと呼ぶのだろうか。本人に悪意がなさすぎて、逆に怖くなってくる。

 すると、彼は突然、机のしたから大きな手提げバッグを引っぱり出したかと思うと、それをニアンナに押しつけた。

「そんなわけで、はいコレ」
「……なに、これ」
「君の旅路用の荷物。これを持って、実家に帰ってくれ」

 少しも悪びれる様子なく、ヤンダークは述べた。

「……私を城から追い出そうってわけ?」
「当然だ。婚約破棄した相手と共に暮らし続けるなんて、愛しい彼に申し訳がないからね」

「だから、私に対する申し訳なさを考えなさいって」
「はっはっは」

 ニアンナは、ちらりと部屋の扉を見やる。
 助けを欲しての動作だったが、目敏くもそれを察したヤンダークが、鼻で笑った。

「悪いが、呼んでもガレディは来ないよ」
「……なんですって」

 対象の名を先にくちにされ、ニアンナは相手を睨む。
 ヤンダークは得意げに肩をすくめた。

「ふふ、彼に助けを求めようとしたんだろう? ガレディは、君がもっとも信頼している家臣だからね。……でも、俺と彼はあまり相性がよくない。というか、ぶっちゃけて言うと仲が悪い。だから、彼には新たな緊急任務を与えて、この国から出てもらった。帰ってくるのは……そうだなぁ。最低でも二日は掛かるんじゃないかな」

 言って、ヤンダークはぐいとニアンナに迫る。

「でも、それだけあれば充分だ」

 彼はニアンナの背中を強引に押しながら、部屋の出口に向かった。

「さぁさぁ、一刻も早く実家に帰ってくれ。俺と彼の幸せのために!」
「ふざけないでよ! なんで私が!」

「先に言っておくけど、城の誰かに助けを求めようとなんてしたら、君の噂をあることないことバラまくからね。外堀を埋めるのは俺の得意とする戦術だし、それを抜きにしても、城に来たばかりのニアンナと産まれたときから城にいる俺……どちらが家臣達の信頼を得られるかは、考えるまでもないだろう」

「くっ……」

 悔しい話ではあるが、それを指摘されてしまうと、ニアンナには反論することが難しい。

 そうこうしているうちにニアンナは城の裏口にまで連れ出され、そこから外に追い出されてしまった。

 空は、もう夕刻のオレンジに染まっている。

 ここで大声を出して助けを求めることも可能ではあったが、しかし、ヤンダークはずる賢さだけは本物なので、そんな真似をしても事実無根な噂を広げられるのは目に見えていた。

 そうなれば、悪役にされるのは間違いなくニアンナである。

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