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「……とりあえず、今はガレディが帰ってくるのを待つしかないか……」

 彼は、ニアンナがこの国に来た当初から仕えてくれている、城の中でもっとも信頼できる家臣である。

 若くして国王の信頼も得ているため、彼さえいればきっと現状は丸く収まることだろう。ニアンナと年齢が近いという点も、信頼関係の構築によい影響を与えていた。

 さらに信頼できるのは、ガレディがヤンダークの人間性をきちんと把握している部分にある。噂や憶測に惑わされない、芯のしっかりとした人物なのだ。

 それ故に、このふたりは基本的に相性が悪い。性格が正反対なのも、無関係ではないだろう。

 だが、どんなに仲が悪くても、立場は王子であるヤンダークのほうが上にある。なので、強引かつ不自然な任務にも逆らうことが出来なかったのではなかろうか。

 なんにせよ、ガレディが不在なのはニアンナにとって痛かった。最大の味方である彼がいなければ、下手に動くことは難しい。

 ようは、ガレディの帰還を待つより他ないということだった。

 いったいどんな仕事をヤンダークに言いつけられたのだろう、とニアンナは考える。

 ニアンナですら彼が任務に出たことを知らなかったということは、よほど強引に仕事を命じられたのに違いなかった。それこそ、ニアンナに報告する時間すら与えてもらえないほどに。

 ため息を漏らし、ニアンナはとりあえず街に出てみることを決める。ガレディの帰りを待つのであれば、どこかで時間を潰して夜を越す必要があった。

 その前に、ふとヤンダークに押しつけられた荷物に意識が傾く。なにが入っているのか、まずは確かめてみようと思った。

 バッグをあけて、中身をチェックする。

 中のものをひとつひとつ見ていくうちに、ニアンナは自分の顔がうんざりとした表情に変化していくのを自覚した。

「……旅に必要なもの、だいたいそろってるじゃん……。ご丁寧というか、妙なところきっちりしてるというか……。本気で私を国に帰らせたいんだなぁ」

 街で目立たないようにとの配慮か、シンプルなワンピースも入っている。

 たしかに、今のままの服装――ドレスでは、街で注目を浴びてしまうに相違ない。注目を浴びれば、そのぶん姫である事実が露見する可能性も高まるだろう。

 そう思ったので、少しばかり不本意ではあったが、ニアンナはドレスからワンピースに着替えることにした。

「……なんでこういう気遣いを他の部分に使えないんだろう、あいつ……」

 配慮する心はあるのに、それが適切な部分に使われないとは、なんたる悲劇か。数少ないまともな部分が、ちっともまともな方向に機能していない。

 脱いだドレスを鞄につめて、ニアンナはさっそく街に向かって足を進めた。
 少し歩いて、とある事実にふと感付く。

「……そういえば、改めて街に出るの初めてだ、私……」

 自らの目で街を視認したのは、この国に来る際に乗った馬車の中からと、セレモニーのときくらいだった。
 いささか新鮮な気持ちになったものの、ニアンナはすぐに我に返る。

「……まぁ、こんな形で街に出ることになるなんて、想像もしてなかったけど」

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