【R18】婚約破棄されたらおっとり系アラフォーを攻めることになりまして

チーズたると

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 足音を忍ばせて見張りの目を盗み、城の裏口から素早く街へ駆けた。

 ここで見つかっては言い訳のしようもないし、仮に本当のことを訴えたところで信じてもらえないだろう。ヤンダークが城の見張りを手中におさめていないはずがないのだから。

「なんで私が、こんなこと……」

 ぼやいたところでなにも始まらないが、それでも不平をくちにせずにはいられなかった。

 道をくだり、街に入ると、夜に入りかけたそこでは所々に優しい明かりが灯っている。

 ある光は店から。またある光は住居から。

 オレンジ色の明かりの向こうからは賑やかな声が響き、夕食の香りが漂ってくる。

 その温かな光景は、城では決して見ることの出来ないものだった。ひとのぬくもりというものを感じ、ニアンナは胸が熱くなる心地を覚える。

「これが、街の暮らし……」

 呟いて、己の状況を思い出した。

「っていうか、私……ご飯はどうすればいいんだろう」

 建物の陰に隠れながら、ニアンナは数々の店を観察してみる。

「お金はあるけど……万が一、店で私の正体に感付かれたら厄介――か」

 そう、問題はそこなのだ。

 ガレディがすぐには帰ってこれない以上、変装して宿に宿泊するか、そうでなければ野宿するしか選択肢がない。食事に関しても、店員と接することになれば問題点は同様だ。

「ヤンダークのやつ……一発殴るくらいじゃ気が済まないな、あいつ」

 呟き、ひとまず落ち着くために、適度な場所を探す。

 周囲に目をやり、とある店の裏手で休ませてもらうことに決めた。そこは人通りも少なく、大きな通りからは死角になっている。

 ずっと城で暮らしてきた自分の安心できる場所がひとの少ないところであるという事実にちょっとした皮肉を感じながら、ニアンナは荷物を置いて、腰をおろした。

「……さて、どうするべきか。おとなしくガレディが帰ってくるまで待つか、それとも城の人間に声かけてみるか……」

 思考を巡らせるものの、ニアンナはすぐに首を振る。

「……でも、あいつのことだからなぁ。自分にとって都合のいい嘘を城中にバラまいてるに決まってるんだよね……」

 押しつけられたバッグを横目に眺め、軽く眉をひそめた。

「荷物までわざわざ用意してるあたり、抜かりはないだろうし……。かといって、いつ戻ってくるかわからないガレディを待つのも――」
「あの……」

 突如、背後から呼び掛けられたニアンナは、驚いて振り返る。

 見れば、そこにはひとりの男性の姿があった。年齢は、四十前後といったところだろうか。

 年齢のわりに、ひとなつこそうな面持ちをしているのが特徴的だった。癖のある黒髪が、そんな本人の愛嬌をいっそう強めている。

 体付きはやや細身で、身長はガレディよりも少し低いくらいだった。ということは、百七十あたりである。

 白いシャツに身を包んでおり、印象は「清潔」そのものだった。けれど、潔癖なわけではない。

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