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 鼻唄を歌いながら、メルウィンは歩いていた。
 森を抜けて少し歩くと、大きな岩がゴロゴロしている地帯がある。

 そこを進んでいると、巨岩の陰から大きな生き物がヌッと姿を現した。
 ――モンスターである。
 モンスターは一体、また一体と現れては、メルウィンを取り囲んだ。

「おやおや、ずいぶんと大所帯だね。まるで蜜に群がる羽虫のようだ」

 怪物たちを眺めながら言って、メルウィンは自身の杖を軽くかまえる。

「大方、ミサちゃんの魔力に引き寄せられてきたんだろうけど、運が悪かったね。彼女のもとへたどり着くには、この僕を倒していかないといけないよ」

 その言葉が開始の合図であったかのように、四足歩行の魔物が咆哮と共に魔術師に飛び掛かった。

 メルウィンはそれを魔術で作り出したシールドで防いで弾き、次いで杖を振るって炎を出現させる。
 炎が容赦なくモンスターを包んで、獣から苦痛の声を引き出した。

 それによって他の怪物たちは一瞬ひるんだ様子を見せたものの、すぐに集団でメルウィンに襲い掛かる。

 自分よりも遥かに大きな魔物たちの攻撃を身をひねってかわしつつ、メルウィンは最小限の動きと魔力で敵を翻弄していった。

 強力な魔法でモンスター達を一掃することも可能ではあるが、そうすると眠っているミサやラックを起こしてしまう可能性もあるし、メルウィンの強い魔力に引き寄せられて、ますます厄介な敵が現れないとも限らなかった。今は、それは望ましくない。

「知力が乏しいというのは、悲しいことだね。これが無駄な戦いであることにも気付かずに、自身の身を滅ぼしてしまうんだから」

 牙を剥いてメルウィンに噛みつこうと迫った妖魔の顔面を、メルウィンは魔術で強化した拳で殴りつけた。
 殴り飛ばされたモンスターが大地の上で、痛みに悶える。

「さぁ、次はどいつだい」

 周囲に視線を滑らせれば、数を減らしたモンスター達はじりじりとメルウィンとの間合いを図っていた。おそらくは攻撃をするべきか、逃げるべきかを考えているのだろう。

「逃げるなら、追わないよ。僕もそろそろ休みたいしね」

 すると、群れの奥からひときわ大きな獣が、ゆっくりと歩を進めてきた。やつらのボスである。
 メルウィンは、小さくため息をついた。

「まったく……素直に逃げたなら、長生き出来たかもしれないのにねぇ」

 ボスが現れたことによって強気になったのか、敵がボスを先頭にしてメルウィンを囲みつつ襲ってくる。

「でも、先にちょっかいを出してきたのはそっちだから……僕は悪くないよね」

 笑って、メルウィンは杖の石突きで地面を叩いた。
 直後、大地に巨大な魔法陣が広がり、それが強く光を放つ。

 目が眩んだ獣たちを、白光が次々と飲み込んでいった。
 吹き上げてくる温かい風に、メルウィンの黒髪と衣服が揺れる。

 光は、すぐに消失して夜闇の中へと霧散した。
 ――あとに残ったのは、荒野に立つ魔術師ただひとりであった。


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