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「それもそうか。でも……ふぅん。キスもしたことないんだ……。だったら、好都合じゃない。理想とか夢とか詰め込んで、脚本書きなよ。それが面白くなるかどうかは知らないけど」

「ちょっと小馬鹿にしながら言うなっつーの! だいたい……その……女の子がなに考えてるかなんてわからんから……なに書いたらいいのか……」
「ミステリーだって、ひとを殺した経験がなくても犯人を描写したりするじゃない」

「それは、そうなんだが……」
「それに、多少だったら君の経験不足の手伝いは出来るよ」
「は……? 手伝いって――」

 突如、秋人の顔が悠也に接近した。それは、単に「顔を近付けた」という程度の距離ではなく、今にも互いの鼻先が触れ合いそうな距離だった。

 当然、悠也は驚いて僅かに身を引く。端正な面持ちの友人を、悠也は目を丸くしながら凝視した。

「ちょっ、おまっ……なんだよ……?」
「キス、教えてあげようか?」
「……は?」
「キスなら、教えてあげられるよ」

 言われたことの意味を理解するのに僅かな時間を要したのは、致し方ないことだっただろう。秋人の言葉を理解するためには、悠也は彼の言葉を三度ほど脳内で繰り返す必要があった。

 繰り返して意味を理解すると、今度は遅れて驚愕の感情が襲ってくる。悠也は目をしばたたいた。

「……っな、お前っ、なに言って……!」

「キスを覚えるいい機会でもあるじゃない。その歳になってキスもしたことないなんて、次に彼女が出来たらどうするの? 今度は三日でフラれるよ」
「たっ、たしかに! って、やかましいわ‼」

「安心しなよ、僕いま恋人いないから。浮気にはならないよ」
「いや、そういう問題じゃ……」

「第一、僕以外にキスの練習させてくれる相手なんていないだろう? 近所の野良猫を相手にしたいなら止めないけど」
「そんなん通報されるだろ! でも……その……いきなりキスなんて……」
「じれったいな」

 言うと、秋人は悠也の襟首を掴み、半ば強引に唇を重ねた。
 一瞬の出来事に、悠也の心臓が大きく跳ね上がる。

「……っ、おま、おまえっ……なっ、な……⁉」
「ほら、どんな感じだった?」
「え……? えーっと……ど、どんなって……」

「ダメじゃないか、脚本に活かすならきちんと経験は噛み締めないと。もう一回だよ。今度はそっちからだ」
「お、おおお俺から……⁉ でもっ、自分からキスなんて、したこと……」

「したことないから、するんだろ。経験できることは経験しておいたほうが、脚本を書くのに便利なんじゃないかい?」
「それは、まぁ……たしかにそうなんだが……」

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