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「仮にも国の姫に軽々しく手合わせ申し込むんじゃないわよ」
「はは、悪い悪い。信用してもらうには、それが一番手っ取り早いと思ってよ」
「まぁ、わからなくもないけど……」

 そこで、マーガレットは少しばかり思案する。

「……城に仕えてたってことは、その国でトップクラスの実力だったってことよね?」
「自慢じゃねーが、戦士達の中でも実力は指折りだったぜ。それも、妬まれる理由のひとつだったんだろうけどな」

「あなたみたいに人当たりがいいひとでも、魔法を使えるってだけで生きづらかったりするのね」
「生きやすかったら、こんな森の中にひとりで住んじゃいねーよ」

 シャールは自嘲するように返した。

 そう、この世界は魔法が使える者には生きづらい。マーガレットは国の姫という立場で生まれたために、比較的生きやすいというだけの話なのだ。誰だって、国の姫を目の前にして悪口は言わないだろう。

「……魔法が使えること、隠そうとは思わなかったの?」

「思ったさ。だが、万が一にバレたとき、そっちのほうが厄介になるんじゃねーかって考えたんだ。魔法を使えるってだけで、なにか企んでるんじゃないかって疑われることも多いからな。お前らは魔法使いに親でも殺されたのかよって感じだ」

「……そう」

「釘刺しとくが、間違っても同情なんかすんなよ。魔法を使えるやつが生きづらいのは俺に限らねーんだし、憐れんだ目で見られんのは大っ嫌いなんだ。それは、あんたにだったらわかってもらえると思うがね」

「……そうね。たしかに私も誰かに憐みの目で見られるのは死ぬほど嫌い。法律さえなければ手を出してるわ」
「いや、それは喧嘩っ早すぎだろ」

「失礼ね。ちゃんと我慢してるわよ」
「もし法律がなかったら?」
「無事で帰さないわ」

「お前、ほんとに国の姫かよ」
「姫が皆おとなしくてお淑やかっていうのは、勝手な固定観念よ」
「この世界に法律があってよかったって、生まれて初めて心底実感してるわ」

 シャールは頬杖をついて、笑みをうかべた。

「んで、どうだ? 俺のこと、信じてくれるのかい?」

 小さく唸って、マーガレットは返す。

「……そうね、今ここで悩んでても仕方がないし、信じてあげる。そのかわり、騙してたら父様と母様に言いつけて、全国に指名手配するわよ」
「怖ぇ女だな、おい」

「仕返しがうまくいったら、報酬を用意するわ。仮にうまくいかなくても、森で迷ってたところを助けてもらったのも事実だし、ある程度のお礼はするつもりよ。とりあえず、ざっくりとした約束はこんなもんでいいかしら? それとも、ちゃんと書面にサインとかしたほうがいい?」

「ああ、いらんいらん。そんなんあっても、たぶん無くすしな」
「そうね。自分で言っておいてなんだけど、私も無くしそうな気がするわ」


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