9 / 29
9
しおりを挟む「仮にも国の姫に軽々しく手合わせ申し込むんじゃないわよ」
「はは、悪い悪い。信用してもらうには、それが一番手っ取り早いと思ってよ」
「まぁ、わからなくもないけど……」
そこで、マーガレットは少しばかり思案する。
「……城に仕えてたってことは、その国でトップクラスの実力だったってことよね?」
「自慢じゃねーが、戦士達の中でも実力は指折りだったぜ。それも、妬まれる理由のひとつだったんだろうけどな」
「あなたみたいに人当たりがいいひとでも、魔法を使えるってだけで生きづらかったりするのね」
「生きやすかったら、こんな森の中にひとりで住んじゃいねーよ」
シャールは自嘲するように返した。
そう、この世界は魔法が使える者には生きづらい。マーガレットは国の姫という立場で生まれたために、比較的生きやすいというだけの話なのだ。誰だって、国の姫を目の前にして悪口は言わないだろう。
「……魔法が使えること、隠そうとは思わなかったの?」
「思ったさ。だが、万が一にバレたとき、そっちのほうが厄介になるんじゃねーかって考えたんだ。魔法を使えるってだけで、なにか企んでるんじゃないかって疑われることも多いからな。お前らは魔法使いに親でも殺されたのかよって感じだ」
「……そう」
「釘刺しとくが、間違っても同情なんかすんなよ。魔法を使えるやつが生きづらいのは俺に限らねーんだし、憐れんだ目で見られんのは大っ嫌いなんだ。それは、あんたにだったらわかってもらえると思うがね」
「……そうね。たしかに私も誰かに憐みの目で見られるのは死ぬほど嫌い。法律さえなければ手を出してるわ」
「いや、それは喧嘩っ早すぎだろ」
「失礼ね。ちゃんと我慢してるわよ」
「もし法律がなかったら?」
「無事で帰さないわ」
「お前、ほんとに国の姫かよ」
「姫が皆おとなしくてお淑やかっていうのは、勝手な固定観念よ」
「この世界に法律があってよかったって、生まれて初めて心底実感してるわ」
シャールは頬杖をついて、笑みをうかべた。
「んで、どうだ? 俺のこと、信じてくれるのかい?」
小さく唸って、マーガレットは返す。
「……そうね、今ここで悩んでても仕方がないし、信じてあげる。そのかわり、騙してたら父様と母様に言いつけて、全国に指名手配するわよ」
「怖ぇ女だな、おい」
「仕返しがうまくいったら、報酬を用意するわ。仮にうまくいかなくても、森で迷ってたところを助けてもらったのも事実だし、ある程度のお礼はするつもりよ。とりあえず、ざっくりとした約束はこんなもんでいいかしら? それとも、ちゃんと書面にサインとかしたほうがいい?」
「ああ、いらんいらん。そんなんあっても、たぶん無くすしな」
「そうね。自分で言っておいてなんだけど、私も無くしそうな気がするわ」
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
82
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる