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不思議な人
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『君がお金を払って借りてる部屋なのに、出て行けなくてごめんなさい』
「って事は地縛霊か。まぁ、俺は別に気にしねぇんだけど、あんたはやっぱ嫌か?」
気が休まらないのは彼の方だろう。
僕なんか 今更他人が居ようと居まいと関係ない。だって、身体が無いんだもの。僕の事が視えない人達のことなんか見て見ぬふりはいくらでも出来る。
けれど、視える人から僕はどう見えているんだろう?
アニメや漫画やホラー映画なんかでは、幽霊は半透明だったり、化け物だったり、醜いものになっているのが定番だ。
なら、僕は? 彼の目には、どう映っているんだろう?
おもむろにソファから立ち上がって 何食わぬ顔で冷蔵庫に炭酸ジュースを取りに行きつつ「普通知らねぇ人間居たら気が休まらねぇもんな」なんて言いながら僕を気遣ってくれた彼は、当然のように自分用と、僕用のグラスを置いて注いでくれた。
「あ、入れちまったけどあんた飲める?」
こんな風に僕を視える人が気遣ってくれる事なんかなかったし、喉も乾かないから飲めるかどうかなんて分からない。けど、世の言うポルターガイスト現象ってやつなのか、意識すれば物に触ることは出来るし美味しそうに目の前で飲まれると、不思議なことに飲みたい気分になってくる。
『ありがとう、ございます。飲めるか分からないけど……嬉しいです』
ローテーブルの前に正座して、心の底から感謝を伝えるために頭を下げた。そんな僕の全てを観察するように凝視されて、無くしたはずの鼓動が早くなるような、無くしたはずの熱が頬に集まるような、そんなむず痒くも懐かしい気持ちが混み上がってくる。
『あ、あの……そんなに見られると 恥ずかしい、です』
「へー、幽霊でも赤くなるんだな」
赤くなってるなんて言われたら 余計に恥ずかしくて緊張してしまう。
用意してくれたグラスに手を伸ばし、そおっと持ち上げてみる。
触れてる感覚はないけれど、グラスがゆっくりと持ち上がった。
「お、すげぇな。マジで持てるのか」
用意してくれたのは彼なのに、グラスが浮いたことに驚いているのが少しだけ面白いと思いつつ唇にグラスを寄せる。
「飲めそうか?」
『……飲めずにこぼしてしまうかも……』
冷静に考えれば僕に実体がない以上、このジュースは床にこぼれるはずだ。そうなったらもったいないし、何より彼の部屋を汚してしまう。
用意してくれた彼には申し訳ないけど、やめておくべきかな。
「やってみなきゃわかんねぇんだろ? いいよ、やってみ?」
興味津々と言った感じで僕の口元に注視され 先ほどよりも恥ずかしい。生前だってあの人以外からこんなにじっくり見られることなんかなかったに違いない。
出来るだけテーブルの上になるよう気を付けながら、ゆっくりとグラスを傾ける。
冷んやりとしてシュワシュワ弾ける甘い液体が口の中に入って……
来ることはなく、無情にもなんの感覚もなくテーブルにぴちゃぴちゃとこぼれてしまった。
「あー、飲むのはやっぱ無理なのか」
『すみません……ごめんなさい、すぐに拭きます』
テーブルの上に置かれたティッシュを身動き一つせずに引き寄せて、一口分の水溜まりを拭き上げる。それを部屋の角に置かれたゴミ箱に捨ててから彼の視線に気付いた。
「なんでも出来るんだな、あんた」
『えっと……何でもは出来ないです。家から出られないし、飲み物だって飲めなかったし、みんなを怖がらせてばかりだったし』
「ふーん? あんたかわいいのにな」
かわいいなんてあの人にだって滅多に言われなかったのに、久しぶりに言われて恥ずかしくて死にそうだ。
……僕はもう死んでいるけど。
でも良かった。醜い顔じゃないなら少なくとも見た目では彼を不快にはしなくて済みそうだ。
「そいや、あんた名前は?」
名前?
僕の名前?
なんだっけ?
思い出そうと思うと靄がかかって僕のことが思い出せない。
『なまえ……は……その……』
「ん?」
彼の穏やかな微笑みは、あの人を思い出す。
あの人は僕を何と読んでいたんだっけ?
「って事は地縛霊か。まぁ、俺は別に気にしねぇんだけど、あんたはやっぱ嫌か?」
気が休まらないのは彼の方だろう。
僕なんか 今更他人が居ようと居まいと関係ない。だって、身体が無いんだもの。僕の事が視えない人達のことなんか見て見ぬふりはいくらでも出来る。
けれど、視える人から僕はどう見えているんだろう?
アニメや漫画やホラー映画なんかでは、幽霊は半透明だったり、化け物だったり、醜いものになっているのが定番だ。
なら、僕は? 彼の目には、どう映っているんだろう?
おもむろにソファから立ち上がって 何食わぬ顔で冷蔵庫に炭酸ジュースを取りに行きつつ「普通知らねぇ人間居たら気が休まらねぇもんな」なんて言いながら僕を気遣ってくれた彼は、当然のように自分用と、僕用のグラスを置いて注いでくれた。
「あ、入れちまったけどあんた飲める?」
こんな風に僕を視える人が気遣ってくれる事なんかなかったし、喉も乾かないから飲めるかどうかなんて分からない。けど、世の言うポルターガイスト現象ってやつなのか、意識すれば物に触ることは出来るし美味しそうに目の前で飲まれると、不思議なことに飲みたい気分になってくる。
『ありがとう、ございます。飲めるか分からないけど……嬉しいです』
ローテーブルの前に正座して、心の底から感謝を伝えるために頭を下げた。そんな僕の全てを観察するように凝視されて、無くしたはずの鼓動が早くなるような、無くしたはずの熱が頬に集まるような、そんなむず痒くも懐かしい気持ちが混み上がってくる。
『あ、あの……そんなに見られると 恥ずかしい、です』
「へー、幽霊でも赤くなるんだな」
赤くなってるなんて言われたら 余計に恥ずかしくて緊張してしまう。
用意してくれたグラスに手を伸ばし、そおっと持ち上げてみる。
触れてる感覚はないけれど、グラスがゆっくりと持ち上がった。
「お、すげぇな。マジで持てるのか」
用意してくれたのは彼なのに、グラスが浮いたことに驚いているのが少しだけ面白いと思いつつ唇にグラスを寄せる。
「飲めそうか?」
『……飲めずにこぼしてしまうかも……』
冷静に考えれば僕に実体がない以上、このジュースは床にこぼれるはずだ。そうなったらもったいないし、何より彼の部屋を汚してしまう。
用意してくれた彼には申し訳ないけど、やめておくべきかな。
「やってみなきゃわかんねぇんだろ? いいよ、やってみ?」
興味津々と言った感じで僕の口元に注視され 先ほどよりも恥ずかしい。生前だってあの人以外からこんなにじっくり見られることなんかなかったに違いない。
出来るだけテーブルの上になるよう気を付けながら、ゆっくりとグラスを傾ける。
冷んやりとしてシュワシュワ弾ける甘い液体が口の中に入って……
来ることはなく、無情にもなんの感覚もなくテーブルにぴちゃぴちゃとこぼれてしまった。
「あー、飲むのはやっぱ無理なのか」
『すみません……ごめんなさい、すぐに拭きます』
テーブルの上に置かれたティッシュを身動き一つせずに引き寄せて、一口分の水溜まりを拭き上げる。それを部屋の角に置かれたゴミ箱に捨ててから彼の視線に気付いた。
「なんでも出来るんだな、あんた」
『えっと……何でもは出来ないです。家から出られないし、飲み物だって飲めなかったし、みんなを怖がらせてばかりだったし』
「ふーん? あんたかわいいのにな」
かわいいなんてあの人にだって滅多に言われなかったのに、久しぶりに言われて恥ずかしくて死にそうだ。
……僕はもう死んでいるけど。
でも良かった。醜い顔じゃないなら少なくとも見た目では彼を不快にはしなくて済みそうだ。
「そいや、あんた名前は?」
名前?
僕の名前?
なんだっけ?
思い出そうと思うと靄がかかって僕のことが思い出せない。
『なまえ……は……その……』
「ん?」
彼の穏やかな微笑みは、あの人を思い出す。
あの人は僕を何と読んでいたんだっけ?
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