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ルーティン
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彼と過ごすようになって数ヶ月。
僕と彼との共同生活は意外と順調だった。
朝、彼のアラームがなる少し前にパンをトースターにセットする。冷蔵庫からジャムを取りだしてスプーンと一緒にテーブルへ置いてあげる。
週に何度か アラームが鳴ってもなかなか起きない時が有るから、そんな時は声を掛けて起こしてあげるのも忘れない。
『起きてください。朝ですよ? 起きないと遅刻しちゃいますよ~』
「……ん~……」
のっそりと身体を起こしても、アラームを止めてからベッドの上で座ったま船を漕ぎ始める事もある。
『あ、もう また寝ちゃうんですか? ダメです起きてください! パン焼けますよ!』
薄らと眠たげな目を開けて僕を見たあと、彼は絶対に「おはよ ごめん 起こしてくれてありがと」と普段より掠れた低い声で薄く笑みを浮かべる。それが朝一番のご褒美に感じている。
『……おはようございます。起きてくれてありがとうございます』
軽い感じで謝罪や感謝を伝えてくれる彼と微笑み会いながら朝を過ごすのが最近の日課だ。
「帰ったら洗うからこのままでいいよ」
いつも通り少し慌てながら使った食器をシンクに置いて鞄を掴んだ彼に、毎朝慌てるならもう少し余裕を持って起きたらいいのに なんて思いながらくすくす笑う。
『ふふ、暇なので僕が洗いますよ』
「いつもすまん。でもマジで何もしなくていいからな。行ってきます」
『行ってらっしゃい』
玄関でお互いに手を振って挨拶を交わす。これも、今の僕にはご褒美みたいな時間だ。それと同時に、霧の中みたいなモヤモヤした寂しさがゆっくりと胸に広がる。
『……よし! 今日も綺麗にしよっ!』
彼はいつも、僕は何もしなくていい と言うけれど僕は案外 彼の世話が楽しいと思っている。
今までは誰にも気付かれなかったし お手伝いなんかした日には怖がられてしまうから暇で暇で仕方なかったんだ。
だから、彼が大学に行ってる間にシンクの中に置かれたものを洗い、部屋のなかも隅々まで塵一つ残らないように掃除する。週に2回ほど洗濯物を回し、天気の良い日は布団を干したりもする。
「あんたさ、また色々したでしょ?」
帰ってきた彼は呆れ顔で笑って「いつも助かる。ありがとう」と僕の頭の位置に手を伸ばして撫でる素振りをしてくれた。もちろん 実態のない僕に彼が触れることは無いけれど、彼の労いの気持ちが伝わって胸の辺りがほっこり暖かくなるような気がするから、この時間も大好きだ。
「ポルターガイストってなんかこう念力的な感じなんでしょ? 疲れないの」
『うーん……正直 疲れはするけど、僕なんかにもお役に立てることがあるのは嬉しいんです』
「……あんたは俺の家政婦じゃないんだし 何から何までしなくていいよ。俺は……あんたになんもしてやれないし」
『そんなことないです。そんな風に優しくしてもらえるだけで 僕も存在して良かったんだと思えるので』
僕が消えて居なくなる事を望んでる人ばかりだったから……。幽霊なんか居ていいわけが無いのも分かってる。消えるべきなんて事ちゃんと理解してる。
でも、どこにも行けないんだ。
何処へ行けばいいのかも分からない。
だから、僕なんかに何かしようと思ってくれたり、ありがとうと微笑んでくれる彼の優しさが凄く沁みる。
彼みたいな優しい人に 生きている時会いたかった。
そしたらきっとあの人みたいには……あれ?
あの人?
今、何を思ったんだっけ?
あれ? ダメだ、分からないや。
最近、生きていた時のことを考えようとすると急激に霞みがかって思い出せ無くなる。
「あんたが居るって思うと、毎日帰んの楽しいよ。いつも綺麗にしてくれてんのもすげぇ助かるし、超感謝してる」
真っ直ぐな瞳で、少し照れくさそうに彼は言った。
それから、少し熱を帯びた真剣な声色で『あんたが生きてる時に会いたかった』と小さく続けた。
僕と彼との共同生活は意外と順調だった。
朝、彼のアラームがなる少し前にパンをトースターにセットする。冷蔵庫からジャムを取りだしてスプーンと一緒にテーブルへ置いてあげる。
週に何度か アラームが鳴ってもなかなか起きない時が有るから、そんな時は声を掛けて起こしてあげるのも忘れない。
『起きてください。朝ですよ? 起きないと遅刻しちゃいますよ~』
「……ん~……」
のっそりと身体を起こしても、アラームを止めてからベッドの上で座ったま船を漕ぎ始める事もある。
『あ、もう また寝ちゃうんですか? ダメです起きてください! パン焼けますよ!』
薄らと眠たげな目を開けて僕を見たあと、彼は絶対に「おはよ ごめん 起こしてくれてありがと」と普段より掠れた低い声で薄く笑みを浮かべる。それが朝一番のご褒美に感じている。
『……おはようございます。起きてくれてありがとうございます』
軽い感じで謝罪や感謝を伝えてくれる彼と微笑み会いながら朝を過ごすのが最近の日課だ。
「帰ったら洗うからこのままでいいよ」
いつも通り少し慌てながら使った食器をシンクに置いて鞄を掴んだ彼に、毎朝慌てるならもう少し余裕を持って起きたらいいのに なんて思いながらくすくす笑う。
『ふふ、暇なので僕が洗いますよ』
「いつもすまん。でもマジで何もしなくていいからな。行ってきます」
『行ってらっしゃい』
玄関でお互いに手を振って挨拶を交わす。これも、今の僕にはご褒美みたいな時間だ。それと同時に、霧の中みたいなモヤモヤした寂しさがゆっくりと胸に広がる。
『……よし! 今日も綺麗にしよっ!』
彼はいつも、僕は何もしなくていい と言うけれど僕は案外 彼の世話が楽しいと思っている。
今までは誰にも気付かれなかったし お手伝いなんかした日には怖がられてしまうから暇で暇で仕方なかったんだ。
だから、彼が大学に行ってる間にシンクの中に置かれたものを洗い、部屋のなかも隅々まで塵一つ残らないように掃除する。週に2回ほど洗濯物を回し、天気の良い日は布団を干したりもする。
「あんたさ、また色々したでしょ?」
帰ってきた彼は呆れ顔で笑って「いつも助かる。ありがとう」と僕の頭の位置に手を伸ばして撫でる素振りをしてくれた。もちろん 実態のない僕に彼が触れることは無いけれど、彼の労いの気持ちが伝わって胸の辺りがほっこり暖かくなるような気がするから、この時間も大好きだ。
「ポルターガイストってなんかこう念力的な感じなんでしょ? 疲れないの」
『うーん……正直 疲れはするけど、僕なんかにもお役に立てることがあるのは嬉しいんです』
「……あんたは俺の家政婦じゃないんだし 何から何までしなくていいよ。俺は……あんたになんもしてやれないし」
『そんなことないです。そんな風に優しくしてもらえるだけで 僕も存在して良かったんだと思えるので』
僕が消えて居なくなる事を望んでる人ばかりだったから……。幽霊なんか居ていいわけが無いのも分かってる。消えるべきなんて事ちゃんと理解してる。
でも、どこにも行けないんだ。
何処へ行けばいいのかも分からない。
だから、僕なんかに何かしようと思ってくれたり、ありがとうと微笑んでくれる彼の優しさが凄く沁みる。
彼みたいな優しい人に 生きている時会いたかった。
そしたらきっとあの人みたいには……あれ?
あの人?
今、何を思ったんだっけ?
あれ? ダメだ、分からないや。
最近、生きていた時のことを考えようとすると急激に霞みがかって思い出せ無くなる。
「あんたが居るって思うと、毎日帰んの楽しいよ。いつも綺麗にしてくれてんのもすげぇ助かるし、超感謝してる」
真っ直ぐな瞳で、少し照れくさそうに彼は言った。
それから、少し熱を帯びた真剣な声色で『あんたが生きてる時に会いたかった』と小さく続けた。
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