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14.朝の出来事

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 次の日、俺は謎の感触とともに目を覚ました。

 ――ムニュ

(ん、なんだ……この感触は)

 とても柔らかい何か。
 でも触り心地は絶妙でぴったりと手にフィットするような感覚だった。

 ――ムニュ、ムニュ

「んっ……」

 あ、なんかこれ癖になりそう……。

(いやでも待てよ? 今誰かの声がしたような……)

 そう思い、俺はそっと目を開けてみることに。
 
 すると――

「おはようございます、ランス様」

「……えっ!?」

 寝起きでまだ機能していない脳が急激にフル回転。
 大きく目を見開き、目の前で一緒になって横たわっている人物の名を大きく叫んだ。

「あ、アリシアさん!?」

「はい、アリシアでございます。お目覚めになりましたか?」

「お目覚めにって……なんでここに!?」

 目を開けた途端、目の前にドアップで映ったのはメイド長のアリシアさんだった。

 しかもベッドに横たわってずーっとこっちを見ていたらしく……

「お部屋の掃除をと思いまして部屋を伺ったのですが、ランス様の寝顔があまりに可愛かったのでつい見惚れてしまいまして……」

「み、見惚れてって……」

「ですが、まさかあのようなことをされてしまうとは……少し意外でした。まぁ、私は全然構わないのですけど」

「あのようなこと……? はっ!」

 まさかさっき感じた柔らかな感触って……
 
「ランス、起きてます……か?」

「げっ、ソフィア!」

 ちょうどその時、ソフィアが部屋を覗いてきた。
 
 ちなみに俺の隣にはまだアリシアさんがいる。
 
 まさにベストタイミングと言えよう。あ、もちろん悪い意味で。

(てかその前になんで部屋の扉開けっ放しなんだ!?)

「ら、ラン……ス?」

 ソフィアはその光景を目撃すると、石像のように硬化。
 徐々に彼女の目の色も良からぬ方向へ変わっていく。

「ち、違うんだソフィア! 話を聞いてくれ!」

 この状況で話を聞いてくれなんていうのは無理があることくらい分かっている。
 でもこれは俺が望んだことじゃない。

 言い訳を並べれば不可抗力なんだ。

 ソフィアはスタスタとこっちへと歩いてくる。
 顔を見る限り、かなりおこなご様子。

(や、ヤバイ……!)

 多分一発くらい殴られる……そう覚悟したその時だ。

「もうっ! アリシアはまた人のベッドで寝ているのね!」

 ……はい?

「だって、お嬢様の部屋鍵がかかっていて入れなかったんですもの。だから仕方なく、ランス様の方に……」

「いや、それもっとダメだから!」

 あれ……? なんだろうこの展開。

 どうやらお説教をくらっているのはアリシアさんの方みたい。

「とにかく、ランスはわたしに任せて貴方は他の仕事をしてきてください」

「かしこまりました。では、私はこの辺で……」

 そう言い、アリシアはさっとベッドから出ると、足早に部屋から出て行った。
 ちょっと残念そうな顔をしながら。

「あ、あの……」
 
 予想もしてなかったことにポカーンとする中、ソフィアが俺の方へと目線をシフトしてくる。

「ごめんなさい、ランス。朝から騒ぎ立ててしまって」

「そ、それは構わないんだけど……さっき言っていた「また」ってどういう……」

 疑問の一つをソフィアにぶつけると、彼女は「ああ」と言いながら説明を始めた。

「アリシアは昔から添い寝癖があって、よくわたしのベッドに潜り込んできたりしてたんです。今では週に数回程度に収まってきたんですけど……」

「は、はぁ……」

 なんだよ、添い寝癖って……
 しかも週に数回って今までどれくらいの頻度で添い寝されてたんだ?

「まぁ、朝起きたら目の前にアリシアがいるっていうのは日課でしたからわたしは全然なんですが。ごめんなさい、びっくりしましたよね?」

「まぁ……な」

 びっくりというかそれを越えて驚愕というか。
 てか、朝起きたら目の前にいないはずの人がいるなんてもうホラーじゃん。

(昨日は真面目そうな人だと思ったのに、とんでもない特徴をお持ちの方だったな……)

 人は見かけによらないとはこのことか。

「後でもう一度アリシアにはきつく言っておくので、今日はこのくらいで……」

 申し訳なさそうに表情を曇らせるソフィア。
 俺はすぐに、

「いやいや、そんなに深刻な顔をしないでくれ。確かに驚きはしたけど、全然悪いようには思ってないから! むしろご褒美みたいな――」

「えっ?」

「い、いや! 何でもない! 忘れてくれ」

 危ない、つい本音が。
 でもあの感触……絶対アレだよなぁ。

 辛うじてソフィアには見られてなかったみたいだから助かったけど。

「そ、それよりもそろそろ支度しないとだな! 俺、ちょっと顔洗ってくるよ」

「あ、洗面室の場所は分かりますか?」

「大丈夫! 昨日粗方お屋敷の中は把握しておいたから」

 とりあえず、この場から退散することに。
 
(はぁ……一時はどうなるかと思った……)

 まだ朝だってのになんかすごい疲れた。
 でも……

(柔らかかったな……アレ)

 まだ手に残るあの時の感触。
 初めてだったからか、寝起きにも関わらず俺の身体に例の感触が深く刻まれていた。

(でも一応アリシアさんには警戒しておこう……)

 また同じようなハプニングが起こらないためにも。

 あ、ちなみにお胸を触ってしまった件は、後で本人にコッソリと謝罪しておきました。
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