14 / 160
14.朝の出来事
しおりを挟む次の日、俺は謎の感触とともに目を覚ました。
――ムニュ
(ん、なんだ……この感触は)
とても柔らかい何か。
でも触り心地は絶妙でぴったりと手にフィットするような感覚だった。
――ムニュ、ムニュ
「んっ……」
あ、なんかこれ癖になりそう……。
(いやでも待てよ? 今誰かの声がしたような……)
そう思い、俺はそっと目を開けてみることに。
すると――
「おはようございます、ランス様」
「……えっ!?」
寝起きでまだ機能していない脳が急激にフル回転。
大きく目を見開き、目の前で一緒になって横たわっている人物の名を大きく叫んだ。
「あ、アリシアさん!?」
「はい、アリシアでございます。お目覚めになりましたか?」
「お目覚めにって……なんでここに!?」
目を開けた途端、目の前にドアップで映ったのはメイド長のアリシアさんだった。
しかもベッドに横たわってずーっとこっちを見ていたらしく……
「お部屋の掃除をと思いまして部屋を伺ったのですが、ランス様の寝顔があまりに可愛かったのでつい見惚れてしまいまして……」
「み、見惚れてって……」
「ですが、まさかあのようなことをされてしまうとは……少し意外でした。まぁ、私は全然構わないのですけど」
「あのようなこと……? はっ!」
まさかさっき感じた柔らかな感触って……
「ランス、起きてます……か?」
「げっ、ソフィア!」
ちょうどその時、ソフィアが部屋を覗いてきた。
ちなみに俺の隣にはまだアリシアさんがいる。
まさにベストタイミングと言えよう。あ、もちろん悪い意味で。
(てかその前になんで部屋の扉開けっ放しなんだ!?)
「ら、ラン……ス?」
ソフィアはその光景を目撃すると、石像のように硬化。
徐々に彼女の目の色も良からぬ方向へ変わっていく。
「ち、違うんだソフィア! 話を聞いてくれ!」
この状況で話を聞いてくれなんていうのは無理があることくらい分かっている。
でもこれは俺が望んだことじゃない。
言い訳を並べれば不可抗力なんだ。
ソフィアはスタスタとこっちへと歩いてくる。
顔を見る限り、かなり怒なご様子。
(や、ヤバイ……!)
多分一発くらい殴られる……そう覚悟したその時だ。
「もうっ! アリシアはまた人のベッドで寝ているのね!」
……はい?
「だって、お嬢様の部屋鍵がかかっていて入れなかったんですもの。だから仕方なく、ランス様の方に……」
「いや、それもっとダメだから!」
あれ……? なんだろうこの展開。
どうやらお説教をくらっているのはアリシアさんの方みたい。
「とにかく、ランスはわたしに任せて貴方は他の仕事をしてきてください」
「かしこまりました。では、私はこの辺で……」
そう言い、アリシアはさっとベッドから出ると、足早に部屋から出て行った。
ちょっと残念そうな顔をしながら。
「あ、あの……」
予想もしてなかったことにポカーンとする中、ソフィアが俺の方へと目線をシフトしてくる。
「ごめんなさい、ランス。朝から騒ぎ立ててしまって」
「そ、それは構わないんだけど……さっき言っていた「また」ってどういう……」
疑問の一つをソフィアにぶつけると、彼女は「ああ」と言いながら説明を始めた。
「アリシアは昔から添い寝癖があって、よくわたしのベッドに潜り込んできたりしてたんです。今では週に数回程度に収まってきたんですけど……」
「は、はぁ……」
なんだよ、添い寝癖って……
しかも週に数回って今までどれくらいの頻度で添い寝されてたんだ?
「まぁ、朝起きたら目の前にアリシアがいるっていうのは日課でしたからわたしは全然なんですが。ごめんなさい、びっくりしましたよね?」
「まぁ……な」
びっくりというかそれを越えて驚愕というか。
てか、朝起きたら目の前にいないはずの人がいるなんてもうホラーじゃん。
(昨日は真面目そうな人だと思ったのに、とんでもない特徴をお持ちの方だったな……)
人は見かけによらないとはこのことか。
「後でもう一度アリシアにはきつく言っておくので、今日はこのくらいで……」
申し訳なさそうに表情を曇らせるソフィア。
俺はすぐに、
「いやいや、そんなに深刻な顔をしないでくれ。確かに驚きはしたけど、全然悪いようには思ってないから! むしろご褒美みたいな――」
「えっ?」
「い、いや! 何でもない! 忘れてくれ」
危ない、つい本音が。
でもあの感触……絶対アレだよなぁ。
辛うじてソフィアには見られてなかったみたいだから助かったけど。
「そ、それよりもそろそろ支度しないとだな! 俺、ちょっと顔洗ってくるよ」
「あ、洗面室の場所は分かりますか?」
「大丈夫! 昨日粗方お屋敷の中は把握しておいたから」
とりあえず、この場から退散することに。
(はぁ……一時はどうなるかと思った……)
まだ朝だってのになんかすごい疲れた。
でも……
(柔らかかったな……アレ)
まだ手に残るあの時の感触。
初めてだったからか、寝起きにも関わらず俺の身体に例の感触が深く刻まれていた。
(でも一応アリシアさんには警戒しておこう……)
また同じようなハプニングが起こらないためにも。
あ、ちなみにお胸を触ってしまった件は、後で本人にコッソリと謝罪しておきました。
37
あなたにおすすめの小説
えっ、能力なしでパーティ追放された俺が全属性魔法使い!? ~最強のオールラウンダー目指して謙虚に頑張ります~
たかたちひろ【令嬢節約ごはん23日発売】
ファンタジー
コミカライズ10/19(水)開始!
2024/2/21小説本編完結!
旧題:えっ能力なしでパーティー追放された俺が全属性能力者!? 最強のオールラウンダーに成り上がりますが、本人は至って謙虚です
※ 書籍化に伴い、一部範囲のみの公開に切り替えられています。
※ 書籍化に伴う変更点については、近況ボードを確認ください。
生まれつき、一人一人に魔法属性が付与され、一定の年齢になると使うことができるようになる世界。
伝説の冒険者の息子、タイラー・ソリス(17歳)は、なぜか無属性。
勤勉で真面目な彼はなぜか報われておらず、魔法を使用することができなかった。
代わりに、父親から教わった戦術や、体術を駆使して、パーティーの中でも重要な役割を担っていたが…………。
リーダーからは無能だと疎まれ、パーティーを追放されてしまう。
ダンジョンの中、モンスターを前にして見捨てられたタイラー。ピンチに陥る中で、その血に流れる伝説の冒険者の能力がついに覚醒する。
タイラーは、全属性の魔法をつかいこなせる最強のオールラウンダーだったのだ! その能力のあまりの高さから、あらわれるのが、人より少し遅いだけだった。
タイラーは、その圧倒的な力で、危機を回避。
そこから敵を次々になぎ倒し、最強の冒険者への道を、駆け足で登り出す。
なにせ、初の強モンスターを倒した時点では、まだレベル1だったのだ。
レベルが上がれば最強無双することは約束されていた。
いつか彼は血をも超えていくーー。
さらには、天下一の美女たちに、これでもかと愛されまくることになり、モフモフにゃんにゃんの桃色デイズ。
一方、タイラーを追放したパーティーメンバーはというと。
彼を失ったことにより、チームは瓦解。元々大した力もないのに、タイラーのおかげで過大評価されていたパーティーリーダーは、どんどんと落ちぶれていく。
コメントやお気に入りなど、大変励みになっています。お気軽にお寄せくださいませ!
・12/27〜29 HOTランキング 2位 記録、維持
・12/28 ハイファンランキング 3位
最難関ダンジョンをクリアした成功報酬は勇者パーティーの裏切りでした
新緑あらた
ファンタジー
最難関であるS級ダンジョン最深部の隠し部屋。金銀財宝を前に告げられた言葉は労いでも喜びでもなく、解雇通告だった。
「もうオマエはいらん」
勇者アレクサンダー、癒し手エリーゼ、赤魔道士フェルノに、自身の黒髪黒目を忌避しないことから期待していた俺は大きなショックを受ける。
ヤツらは俺の外見を受け入れていたわけじゃない。ただ仲間と思っていなかっただけ、眼中になかっただけなのだ。
転生者は曾祖父だけどチートは隔世遺伝した「俺」にも受け継がれています。
勇者達は大富豪スタートで貧民窟の住人がゴールです(笑)
無能扱いされ、パーティーを追放されたおっさん、実はチートスキル持ちでした。戻ってきてくれ、と言ってももう遅い。田舎でゆったりスローライフ。
さくら
ファンタジー
かつて勇者パーティーに所属していたジル。
だが「無能」と嘲られ、役立たずと追放されてしまう。
行くあてもなく田舎の村へ流れ着いた彼は、鍬を振るい畑を耕し、のんびり暮らすつもりだった。
――だが、誰も知らなかった。
ジルには“世界を覆すほどのチートスキル”が隠されていたのだ。
襲いかかる魔物を一撃で粉砕し、村を脅かす街の圧力をはねのけ、いつしか彼は「英雄」と呼ばれる存在に。
「戻ってきてくれ」と泣きつく元仲間? もう遅い。
俺はこの村で、仲間と共に、気ままにスローライフを楽しむ――そう決めたんだ。
無能扱いされたおっさんが、実は最強チートで世界を揺るがす!?
のんびり田舎暮らし×無双ファンタジー、ここに開幕!
元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
【コミカライズ決定】勇者学園の西園寺オスカー~実力を隠して勇者学園を満喫する俺、美人生徒会長に目をつけられたので最強ムーブをかましたい~
エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング2位獲得作品】
【第5回一二三書房Web小説大賞コミカライズ賞】
~ポルカコミックスでの漫画化(コミカライズ)決定!~
ゼルトル勇者学園に通う少年、西園寺オスカーはかなり変わっている。
学園で、教師をも上回るほどの実力を持っておきながらも、その実力を隠し、他の生徒と同様の、平均的な目立たない存在として振る舞うのだ。
何か実力を隠す特別な理由があるのか。
いや、彼はただ、「かっこよさそう」だから実力を隠す。
そんな中、隣の席の美少女セレナや、生徒会長のアリア、剣術教師であるレイヴンなどは、「西園寺オスカーは何かを隠している」というような疑念を抱き始めるのだった。
貴族出身の傲慢なクラスメイトに、彼と対峙することを選ぶ生徒会〈ガーディアンズ・オブ・ゼルトル〉、さらには魔王まで、西園寺オスカーの前に立ちはだかる。
オスカーはどうやって最強の力を手にしたのか。授業や試験ではどんなムーブをかますのか。彼の実力を知る者は現れるのか。
世界を揺るがす、最強中二病主人公の爆誕を見逃すな!
※小説家になろう、カクヨム、pixivにも投稿中。
「お前の戦い方は地味すぎる」とギルドをクビになったおっさん、その正体は大陸を震撼させた伝説の暗殺者。
夏見ナイ
ファンタジー
「地味すぎる」とギルドをクビになったおっさん冒険者アラン(40)。彼はこれを機に、血塗られた過去を捨てて辺境の村で静かに暮らすことを決意する。その正体は、10年前に姿を消した伝説の暗殺者“神の影”。
もう戦いはこりごりなのだが、体に染みついた暗殺術が無意識に発動。気配だけでチンピラを黙らせ、小石で魔物を一撃で仕留める姿が「神業」だと勘違いされ、噂が噂を呼ぶ。
純粋な少女には師匠と慕われ、元騎士には神と崇められ、挙句の果てには王女や諸国の密偵まで押しかけてくる始末。本人は畑仕事に精を出したいだけなのに、彼の周りでは勝手に伝説が更新されていく!
最強の元暗殺者による、勘違いスローライフファンタジー、開幕!
自分が作ったSSSランクパーティから追放されたおっさんは、自分の幸せを求めて彷徨い歩く。〜十数年酷使した体は最強になっていたようです〜
ねっとり
ファンタジー
世界一強いと言われているSSSランクの冒険者パーティ。
その一員であるケイド。
スーパーサブとしてずっと同行していたが、パーティメンバーからはただのパシリとして使われていた。
戦闘は役立たず。荷物持ちにしかならないお荷物だと。
それでも彼はこのパーティでやって来ていた。
彼がスカウトしたメンバーと一緒に冒険をしたかったからだ。
ある日仲間のミスをケイドのせいにされ、そのままパーティを追い出される。
途方にくれ、なんの目的も持たずにふらふらする日々。
だが、彼自身が気付いていない能力があった。
ずっと荷物持ちやパシリをして来たケイドは、筋力も敏捷も凄まじく成長していた。
その事実をとあるきっかけで知り、喜んだ。
自分は戦闘もできる。
もう荷物持ちだけではないのだと。
見捨てられたパーティがどうなろうと知ったこっちゃない。
むしろもう自分を卑下する必要もない。
我慢しなくていいのだ。
ケイドは自分の幸せを探すために旅へと出る。
※小説家になろう様でも連載中
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる