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61.夜間訪問
しおりを挟む屋敷の前で並列する複数の馬車。
国章が刻まれている感じところ、どうやらまた王城から誰かが訪問しにきたのだろう。
「王城の馬車ですね」
「また陛下が来たのか……?」
もちろん、今日城から誰かが来るなんて話は一切聞いていない。
多分、この前国王陛下が突撃訪問してきたのと同様、何かあっての屋敷訪問と見受けられる。
「ねぇ、ランス。ずっと気になっていたんだけどさ……」
「ん、なんだイリア?」
屋敷に向かう途中。
イリアは突然立ち止まると、俺たちの方をじっと見つめてくる。
何かいいたげな感じだ。
「その、一応確認のために聞いておくけど、二人は一体どういう関係なの?」
「どういう関係かって?」
「うん。ずっと疑問に思っていて聞けなかったから、今こうして言うけど、二人は国の関係者とかなの? ギルマスとかと顔馴染みなのもそうだし、何より一介の冒険者があんな豪勢な屋敷を持っているなんてあり得ないわ。もちろん、今の状況も普通じゃないし」
「あぁ……」
そういえばイリアは知らなかったんだったな。
俺たちの事情を。
いつかは言わないとなとは思っていたが、タイミングがなかった。
というかもう大体察しがついているものなのかなとも思っていたが、そうではないみたい。
「ソフィア、このことって言ってもいいのか?」
一応ソフィアに確認を取る。
イリアとはいえ、相手は一般人だ。
公にするのに俺だけの判断で済ませるわけにはいかない。
「わたしは大丈夫ですよ。むしろ一緒に行動しているので、いつかは言わないといけないなと思ってたくらいですから」
ソフィアは自分の正体を明かすことに躊躇はしないらしい。
ま、相手も相手だからな。
イリアなら話しても何も弊害はないだろうし。
「分かった。イリア、少し複雑な話になるが、いいか?」
「う、うん……」
イリアは小首を縦に振り、耳を傾けてくる。
俺はコホンと咳払いを挟むと、俺とソフィアについてのことを出来るだけ端的の話した。
そして……
「つ、つまり。ソフィアは王国の第一王女様でランスは冒険者としてのパートナーってこと?」
「大雑把に言えばそんなところだ。ちなみに俺は貴族でもなければ王族でもない。ただのしがない王国民だ」
「ちょ、ちょっと待って。今から情報を整理するから……」
情報過多で脳内がパンクしているのか、目を瞑って考え込み始めるイリア。
まぁ……そうなるよなという予想通りの反応だ。
「え、えっとランス。もう一度確認したいんだけど、本当にソフィアって王女様なの?」
「本当だ。嘘偽りはない」
「それってヤバくない?」
「ヤバイな」
少し目を瞑って冷静な思考になったのかイリアは真顔で今の現状の異常さを伝えてくる。
俺はもう慣れてしまったから、あまり深く考えないようになったが、これが常人の反応なのは間違いない。
今、俺の隣にいる人は一般人である限り、どんなに逆立ちしても会うことができないような人物だ。
そして彼女よりも高い目線で横に歩くなんてことも普通なら絶対にできないこと。
俺の今までの行動を他の人が見れば、無礼の一言では片付くことはできないだろう。
だがそんな特殊な関係にあるにも関わらず、俺は今まで通りにできている。
いや、できてしまっていた。
そう考えると、慣れって怖いものだなと強く思う。
「まだ情報の整理はできていないのか?」
「と、当然よ! そう簡単に受け入れられるわけないじゃない!」
そりゃごもっともだ。
イリアには落ち着くまでじっくりと自分の内面と戦ってもらうことにしよう。
今から信じろと言っても無理があるしな。
「とりあえず、早く屋敷に戻ろう。日も落ちて肌寒くなってきたし」
「そ、そうね。わたしもちょっと今日一晩だけゆっくりと考えさせてもらうわ」
「そうしてくれ」
俺たちはまた再び歩みだし、屋敷の門まで行く。
今日は来客があったからか、外にアリシアさんの姿はなかった。
俺たちはそのまま門を潜って屋敷の中へ入っていく。
と、ロビーに入った途端、いきなり見覚えのある顔が。
「お、ランス殿にソフィア様ではないか。今お帰りか?」
「イェーガウルフの事件以来だな、ランス殿」
その見覚えのある人たちは屋敷に入るのと同時に玄関の方へと目を向けると、すぐに挨拶をしてきた。
これはまた、訪問してくるには意外な人たち。
王国最強の剣士であるアルバートさんと魔術師レイムさん揃ってのご訪問だった。
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