71 / 160

71.試してみたかっただけなんです

しおりを挟む

「とまぁ……こういうことでお二人はランス様を元気にしようと奮闘してたわけです」

「「……」」

 アリシアさんの解説で黙り続ける二人。
 いやむしろ俺が黙りたいくらいなんだが……ここはあえて言わせてもらう。

「なぁ、二人とも」

「「はい……」」

 この先自分たちがどういうことになるのか、大体察しがついているのだろう。
 さっきまでとは変わって一気に大人しくなる。

 だが俺は容赦なく先を話し始めた。

「俺を元気付けようとしてくれたのは嬉しい。動機に関しては凄く感謝したい。でもな……流石にそれはやりすぎだって」

「うぅ……ごめんなさい、ランス」

 真っ先に謝ってきたのはソフィアだった。
 ソフィアは少しだけ涙目になりながら、俺に何度も頭を下げてくる。

「い、いや……ソフィアはまぁ仕方ない。どちらかというと巻き込まれた側だからな。でもあまり悪い誘いにはホイホイ乗るもんじゃないぞ」

「ご、ごめん……」

 本来、ソフィアはこういうことは絶対にしないタイプ。
 でも心が素直でピュアな故に今回のように人道を踏み外してしまうこともある。

 悪気はないのは分かっているが、無知なのも問題ってことがよく分かった。

 それよりも、一番問題があるのは……

「イリア……」

「は、はい」

「まず始めに聞いておくが、なんで惚れ薬なんて持ってたんだ?」

 ひとまず気になっていたことを質問してみると、イリアは言いにくそうに口を開いた。

「そ、それはその……実はわたし薬品収集が趣味で……」

「ふむふむ」

「それで、たまに自分でも作ったりしていて……」

「なるほど」

「それで、いつかは試してみたいなと思っていたら……」

「今回がその絶好の機会だったと……」

「……はい」

 俺の真剣な声色に悟りを開いたのか、イリアは躊躇なく事の発端をベラベラと話してくれた。
 
「事情はよく分かった。正直に話してくれてありがとうな、イリア」

「じゃ、じゃあ……!」

「後でお前が今現在持っている惚れ薬全部を廃棄してもらう。もちろん、他にも危険な薬品があったら即刻廃棄だ!」

「え、えぇぇぇぇぇぇ!?」

 イリアにとってはまさかの一言だったのだろう。
 今までない悲痛の叫びが部屋中に響き渡った。

「えぇぇぇぇぇぇ!? じゃなくて当たり前だ! 危うく俺の貞操が危険に曝されることになっていたんだぞ。しかも惚れ薬で無意識に……!」

「で、でも……! 流石に捨てるのは……! だってまだ試作段階のものとか試していないものとかもあるのに……!」

「ほう……まだそういうものを隠しているってわけか」

「あ、いや……今のは……!」

「問答無用! 調査から帰ってきたらイリアの部屋に行って断捨離パーティーを行うからな! 覚悟しておけよ!」

「そ、そんなぁぁぁぁ! せめて惚れ薬は……残りの惚れ薬だけは残してぇぇぇ!」

「ダメ。全部捨ててやる」

「あ、あんまりだぁぁぁ!」

 その場で膝をつき、崩れるイリア。
 でもこうしないとまた今回のような出来事が起こりかねないからな。

 悪く思うなよ。

「というか、そもそもアリシアさんも許可出さないでくださいよ! というか二人の行動をそこまで事細かく知っているということはドアの隙間から見てましたね?」

「おっと、鋭いですね。まったくその通りです」

「見てたなら、止めてください……」

「いや、中々に面白そうだったのでつい……」

「もし事後だったら、ついじゃ済まなくなってましたよ……」

 この人もこの人で真面目なのか、不真面目なのか。

 いや、こういうことを許す時点でマジメではないか。

「と、とにかく今回のことはイリアの断捨離パーティーで許すから、次はこういうことないようにしてくれよ?」

「は、はい! 本当にごめんなさいランス!」

「ごめんなさい……」

 下を向いて反省する二人。
 もう懲りたようだし、これくらいにしておこう。

「で、でも……元気付けようとしてくれたのはすごく嬉しかった。ありがとうな、二人とも」

「「ランス……!」」

 顔を上げ、瞳をうるっとさせる二人に照れくさく礼を言うと、俺は一拍置いて話を続けた。

「だ、だから今度はまた違った形で元気づけてくれると嬉しいな……なんて」

「も、もちろんです! わたしにできることならなんでも言ってください!」

「わ、わたしも! ランスの為なら何だって……!」

「二人とも……」

 最初のどんちゃん騒ぎから一転。
 少しいい雰囲気へと変わる――のだが。

「それよりも皆さま。そろそろ支度をしないと間に合わないのでは?」

「えっ……?」

 アリシアさんがそういうと柱時計に指を指し、俺たちの視線を誘導。
 すると時間はもう6時半を越え、集合までもう30分もなかった。

「ま、マジ? もうこんな時間かよ!」

 話に夢中になっていて気がつかなかった。
 まだ朝ご飯すら食べていないのに!

「アリシアさん、至急朝ごはんをお願いします!」

「かしこまりました」

 この後。
 俺たちは早朝にも関わらず、バタバタして屋敷を出たのは、言うまでもない。
しおりを挟む
感想 12

あなたにおすすめの小説

えっ、能力なしでパーティ追放された俺が全属性魔法使い!? ~最強のオールラウンダー目指して謙虚に頑張ります~

たかたちひろ【令嬢節約ごはん23日発売】
ファンタジー
コミカライズ10/19(水)開始! 2024/2/21小説本編完結! 旧題:えっ能力なしでパーティー追放された俺が全属性能力者!? 最強のオールラウンダーに成り上がりますが、本人は至って謙虚です ※ 書籍化に伴い、一部範囲のみの公開に切り替えられています。 ※ 書籍化に伴う変更点については、近況ボードを確認ください。 生まれつき、一人一人に魔法属性が付与され、一定の年齢になると使うことができるようになる世界。  伝説の冒険者の息子、タイラー・ソリス(17歳)は、なぜか無属性。 勤勉で真面目な彼はなぜか報われておらず、魔法を使用することができなかった。  代わりに、父親から教わった戦術や、体術を駆使して、パーティーの中でも重要な役割を担っていたが…………。 リーダーからは無能だと疎まれ、パーティーを追放されてしまう。  ダンジョンの中、モンスターを前にして見捨てられたタイラー。ピンチに陥る中で、その血に流れる伝説の冒険者の能力がついに覚醒する。  タイラーは、全属性の魔法をつかいこなせる最強のオールラウンダーだったのだ! その能力のあまりの高さから、あらわれるのが、人より少し遅いだけだった。  タイラーは、その圧倒的な力で、危機を回避。  そこから敵を次々になぎ倒し、最強の冒険者への道を、駆け足で登り出す。  なにせ、初の強モンスターを倒した時点では、まだレベル1だったのだ。 レベルが上がれば最強無双することは約束されていた。 いつか彼は血をも超えていくーー。  さらには、天下一の美女たちに、これでもかと愛されまくることになり、モフモフにゃんにゃんの桃色デイズ。  一方、タイラーを追放したパーティーメンバーはというと。 彼を失ったことにより、チームは瓦解。元々大した力もないのに、タイラーのおかげで過大評価されていたパーティーリーダーは、どんどんと落ちぶれていく。 コメントやお気に入りなど、大変励みになっています。お気軽にお寄せくださいませ! ・12/27〜29 HOTランキング 2位 記録、維持 ・12/28 ハイファンランキング 3位

最難関ダンジョンをクリアした成功報酬は勇者パーティーの裏切りでした

新緑あらた
ファンタジー
最難関であるS級ダンジョン最深部の隠し部屋。金銀財宝を前に告げられた言葉は労いでも喜びでもなく、解雇通告だった。 「もうオマエはいらん」 勇者アレクサンダー、癒し手エリーゼ、赤魔道士フェルノに、自身の黒髪黒目を忌避しないことから期待していた俺は大きなショックを受ける。 ヤツらは俺の外見を受け入れていたわけじゃない。ただ仲間と思っていなかっただけ、眼中になかっただけなのだ。 転生者は曾祖父だけどチートは隔世遺伝した「俺」にも受け継がれています。 勇者達は大富豪スタートで貧民窟の住人がゴールです(笑)

無能扱いされ、パーティーを追放されたおっさん、実はチートスキル持ちでした。戻ってきてくれ、と言ってももう遅い。田舎でゆったりスローライフ。

さくら
ファンタジー
かつて勇者パーティーに所属していたジル。 だが「無能」と嘲られ、役立たずと追放されてしまう。 行くあてもなく田舎の村へ流れ着いた彼は、鍬を振るい畑を耕し、のんびり暮らすつもりだった。 ――だが、誰も知らなかった。 ジルには“世界を覆すほどのチートスキル”が隠されていたのだ。 襲いかかる魔物を一撃で粉砕し、村を脅かす街の圧力をはねのけ、いつしか彼は「英雄」と呼ばれる存在に。 「戻ってきてくれ」と泣きつく元仲間? もう遅い。 俺はこの村で、仲間と共に、気ままにスローライフを楽しむ――そう決めたんだ。 無能扱いされたおっさんが、実は最強チートで世界を揺るがす!? のんびり田舎暮らし×無双ファンタジー、ここに開幕!

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

【コミカライズ決定】勇者学園の西園寺オスカー~実力を隠して勇者学園を満喫する俺、美人生徒会長に目をつけられたので最強ムーブをかましたい~

エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング2位獲得作品】 【第5回一二三書房Web小説大賞コミカライズ賞】 ~ポルカコミックスでの漫画化(コミカライズ)決定!~  ゼルトル勇者学園に通う少年、西園寺オスカーはかなり変わっている。  学園で、教師をも上回るほどの実力を持っておきながらも、その実力を隠し、他の生徒と同様の、平均的な目立たない存在として振る舞うのだ。  何か実力を隠す特別な理由があるのか。  いや、彼はただ、「かっこよさそう」だから実力を隠す。  そんな中、隣の席の美少女セレナや、生徒会長のアリア、剣術教師であるレイヴンなどは、「西園寺オスカーは何かを隠している」というような疑念を抱き始めるのだった。  貴族出身の傲慢なクラスメイトに、彼と対峙することを選ぶ生徒会〈ガーディアンズ・オブ・ゼルトル〉、さらには魔王まで、西園寺オスカーの前に立ちはだかる。  オスカーはどうやって最強の力を手にしたのか。授業や試験ではどんなムーブをかますのか。彼の実力を知る者は現れるのか。    世界を揺るがす、最強中二病主人公の爆誕を見逃すな! ※小説家になろう、カクヨム、pixivにも投稿中。

「お前の戦い方は地味すぎる」とギルドをクビになったおっさん、その正体は大陸を震撼させた伝説の暗殺者。

夏見ナイ
ファンタジー
「地味すぎる」とギルドをクビになったおっさん冒険者アラン(40)。彼はこれを機に、血塗られた過去を捨てて辺境の村で静かに暮らすことを決意する。その正体は、10年前に姿を消した伝説の暗殺者“神の影”。 もう戦いはこりごりなのだが、体に染みついた暗殺術が無意識に発動。気配だけでチンピラを黙らせ、小石で魔物を一撃で仕留める姿が「神業」だと勘違いされ、噂が噂を呼ぶ。 純粋な少女には師匠と慕われ、元騎士には神と崇められ、挙句の果てには王女や諸国の密偵まで押しかけてくる始末。本人は畑仕事に精を出したいだけなのに、彼の周りでは勝手に伝説が更新されていく! 最強の元暗殺者による、勘違いスローライフファンタジー、開幕!

商人でいこう!

八神
ファンタジー
「ようこそ。異世界『バルガルド』へ」

自分が作ったSSSランクパーティから追放されたおっさんは、自分の幸せを求めて彷徨い歩く。〜十数年酷使した体は最強になっていたようです〜

ねっとり
ファンタジー
世界一強いと言われているSSSランクの冒険者パーティ。 その一員であるケイド。 スーパーサブとしてずっと同行していたが、パーティメンバーからはただのパシリとして使われていた。 戦闘は役立たず。荷物持ちにしかならないお荷物だと。 それでも彼はこのパーティでやって来ていた。 彼がスカウトしたメンバーと一緒に冒険をしたかったからだ。 ある日仲間のミスをケイドのせいにされ、そのままパーティを追い出される。 途方にくれ、なんの目的も持たずにふらふらする日々。 だが、彼自身が気付いていない能力があった。 ずっと荷物持ちやパシリをして来たケイドは、筋力も敏捷も凄まじく成長していた。 その事実をとあるきっかけで知り、喜んだ。 自分は戦闘もできる。 もう荷物持ちだけではないのだと。 見捨てられたパーティがどうなろうと知ったこっちゃない。 むしろもう自分を卑下する必要もない。 我慢しなくていいのだ。 ケイドは自分の幸せを探すために旅へと出る。 ※小説家になろう様でも連載中

処理中です...