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70.ランスを元気にしよう計画4

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 ランスのベッドの両隣に潜むイリアとソフィア。
 そして計画は第3ステップへと移ろうとしていた。

「ソフィア、魔法を」

「は、はい」

 あまり響かない程度の小声を添えてイリアがソフィアにサインを出す。
 ランスは鼾まではかいてないものの、未だぐっすりと眠っていた。

 ソフィアはイリアからサインを受けると、

「光り輝け、≪ムーン・サンライト≫!」

 魔法詠唱。
 暗闇を一瞬にして照らす魔法を放ち、視界を鮮明にする。

 ここからが第3のステップだ。

「ソフィア、例のあれを出して」

「はい」

 例のあれというのはソフィアの懐に入っていた白い粉。
 小袋に入っており、一見すると怪しいものだが、イリア曰く安全なもの……らしい。

「ほ、本当にこんなものを飲ませても大丈夫なんでしょうか?」

 過る不安。
 しかも寝ている間にコッソリとなんて、真面目なソフィアにとっては少し躊躇してしまう行動だった。

 そもそもこの計画自体がソフィアにとって疑問であったのだが……

「何を言ってるの、ソフィア! これはランスの為なのよ! ランスを元気のしたいんでしょ?」

「そ、それはそうですけど……」

「ならやるのよ! こうして寝ている時がチャンスなんだから! これを逃したらランスを元気にさせる機会はないかもしれないのよ!」

「わ、分かりました……」

 イリアの勢いある説得に押され、ソフィアはその謎の白い粉の封を切ろうとした――その時だった。

「ん、んぁぁぁ~」
 
 唸り声と共にランスの身体がグイッと横に傾く。
 
 そしてランスが寝返りをうった先。
 ソフィアはランスの腕辺りに身を潜めていたためか、覆いかぶさるようにランスにぎゅっとされる。
 
「えっ、ちょっ……ランス!?」

 突然のハグに戸惑いを隠せないソフィア。
 しかし当の本人はそんなことなどつゆ知らず……

「むにゃむにゃ、えへへ~」

 何やらご満悦な表情で寝言を言っている。
 
「い、一体どんな夢を……じゃなくて!」

 この状況はソフィアにとっては幸せでもあるが、緊急事態でもあった。
 
(こ、こんなにランスの顔が近くに……!)

 ソフィアは今まで自分以外の身体にここまで触れた経験がない。
 唯一あるのはアリシアが自らのベッドに侵入してきた時くらい。

 もちろん、異性の相手なんて一度もないからソフィアにとっては今の状況はかなりの刺激。
 それこそ、自制できないほどの感情が瞬時に湧き上がって来るほどだった。

 それはランスに抱きしめられる時間が長くなるごとに強くなっていく。

(う、うぅ……も、もうダメ……)

「ソフィア、大丈夫!?」

 イリアが反対側でソフィアの安否を確認するが、反応はない。
 それから何度も呼び掛けてみるが、それでも反応はなかった。

「そ、ソフィア……?」

 気になってランスの肩をどかし、向こう側を見てみる。
 
 すると、半ば蕩けた表情で横たわるソフィアの姿がイリアの目に入ってきた。

「そ、ソフィア!?」

 半ば放心状態のソフィア。
 まるで魂が抜けたかのようにソフィアは横たわっていた。

 幸せそうに緩む表情がイリアにもうソフィアはダメだという実感を持たせる。

「くっ、やるわねランス! こうなったらわたしが……!」

 イリアはソフィアの手の元にあった白い粉の入った袋を摘み、横たわるランスを戻した。

「へっへっへ、この薬さえ飲ませれば、いくら鈍感なランスだって……」

 その顔は悪人の如く。

 そう、実はこの薬は活力剤でも何でもない。
 正体は惚れ薬だったのである。

 しかもかなり効き目の強いやつ。
 
 イリアは色々あって薬品集めを趣味としている。
 その知識は結構豊富で自分で薬品が作れるほどの腕もある隠れた凄腕技術を持っていた。

 そしてこの惚れ薬も彼女のお手製。

「どれだけ効くのか一度、試してみたかったのよね~」

 普段から鈍感なランスは彼女にとってこれ以上ない実験対象だった。
 故にいつかは試してみたいと思っていたが、中々そんな機会を作るのは難しい。

 でもそのチャンスはこうして不意に訪れた。
 要するに今回の計画はイリアにとってはまたとない機会、ということだ。

 ちなみに下着姿なのも彼女の計画の一端。
 惚れ薬は飲ませた直後に対象者にとって刺激の強い物を見せると、効果が増大するのである。
 
「ソフィアには悪いけど……」

 何が何でもこの薬を飲ませる。
 そのことだけしか今のイリアの頭の中にはない。

 試してみたいという強い欲求が彼女の脳を侵食していた。

 今まではソフィアに配慮して行動を起こしていたが、こうなったらもう手段を選ぶ必要はない。

「ふふふ、覚悟しなさいランス。これで貴方も大人の階段を――」

「ん、んにゃんにゃ……」

「え、なに!? ら、ランス!?」

 突然。
 今度はイリアの方へと身体を傾けると、立膝をついていた彼女に覆いかぶさる。
 
「ちょっと、ランス!」

「んにゃ? もうご飯は食べれないすっよ~」

「いや、ご飯って何のことよ!」

 つい寝言に返答してしまうイリア。
 でもこれは彼女にとっては最悪の事態。
 
「か、身体が、動かない……」
 
 完全にランスの身体がイリアの真上に来ており、抜け出そうにも抜けられない。
 だがランスの暴走はこれだけではなかった。

「むにゃ? なんだこの柔らかいのは……」

「ちょ、ちょっと……どこ触っているのよ!」

 ちょうどランスの手の位置にイリアの胸部があったためか、モゾモゾと手を動かし始める。
 しかもその感触にランスはニンマリすると、

「あ、これなんかすっごい気持ちいい……」

 感触に快感を覚えてしまったようで、その力は加減は徐々に強くなっていった。

「ら、ランス! あんた本当は起きて……あんっ……!」

 これでもランス自身に自覚はない。
 ランスにとっては今の状況も夢の中の一部なのだ。

 だから悪気があってやっているわけではない。

 でも……

「だ、ダメ! んんっ……だ、ダメだってばぁ……」

 胸を触られる時間が長引くごとにイリアの頭の中は真っ白に。
 そして身体も言うことが聞かず、もう抵抗できる余力すらもなくなっていた。

「も、もうダメぇ……お、おかしくなっちゃうよぉ……」

 イリアのその願いは儚く散る。
 しばらく経つとランスはまた寝返りを打ち、ようやく解放されたが、その時にはもう手遅れ。
 イリアの意識は完全に空の彼方の方へと消えていた。

 皆が眠り、静まり返った深い夜。
 放心状態となった二人はランスの寝るベッドで仲良く、撃沈。

 そのまま深い眠りにつき、ランスを元気にしよう計画は幕を閉じたのだった。
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