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80.アジト1

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「ふぅ……一時はどうなるかと思ったが、何とか追いついたな……」

 まだ痛む舌を気にしながら、俺は建物の影に隠れる。
 
 目線の先には例の二人組。
 あの後必死に追いかけて結果、何とか見失わずに済んだ。

「次はどの店に入るんだ?」

 相変わらず意味不明な行動をする二人。
 さっきの店でも店内にいるわけじゃなく、従業員用の扉から出てきたところを考えると、あの二人は単にカフェ巡りをしているわけじゃないらしい。

 他に何か目的があるとすれば……

「……普通に分からん」

 これといったものが出てこない。
 
(でもどうしてあんなところから……)

 他の店でも同じことをしているとなると、ますますワケが分からなくなってくる。
 
 他店の視察か何かだろうか?

 こうして尾行までしているのに目的の尻尾すらも全く掴めないなんて……

「また、あんな狭い道に……」

 二人組は大通りから再び狭い路地に入っていく。
 俺もすぐその後に続き、少し先の方に進んでいった……時だ。

(ん……?)

 俺はすぐに足を止める。
 前方には足を止めた例の二人がいた。

(何をしてるんだ……?)

 路地を進んで少し先で。
 二人は何やら意味深な話をしていた。

 しかも道のど真ん中で。
 生憎ここは薄暗く狭い道だからか、俺とあの二人以外人っ子一人もいないが。

(一応聞いてみるか……)

 盗聴だなんて悪趣味なことはしたくはない。
 けど、これも王都のため。

 それにここで勘違いだと分かればすぐにでも身を引くことができるしな。

 俺は聴覚強化の魔法を自身に付与。
 少し二人から距離を置き、話を聞いてみることに。

「どうでしたか? 私の仕事ぶりは」

「完璧だ。流石は帝国でも名があるだけはある」

「それは良かったです。で、決行は予定通りで?」

「実はな……いや、ここではやめておこう。どこで話を聞かれているか分からない」

 聞いている人がここにいるんだよな……と思いながら、俺は二人を視界に収める。

 話の内容は全く理解不能なものだった。
 
 でも一つだけ気になった単語があり、それが一度だけ出てきた”帝国”と言う言葉だ。
 
 そういえば、確かアルバートさんたちが言っていたスパイも帝国の人間だったな。
 
 もちろん、これだけでは判断材料にならないので決めつけるのは早いが……。

「とりあえず、ここでは分が悪い。続きはお前の”アジト”に行ってからにするぞ」

「分かりました」

 アジト……? 今アジトって言ったのか?

 さらに俺の中での不信感が募る。
 もしかしたら俺の予感は的中してしまったのかもしれない。

 アジトって言うからには秘密の場所があるということ。
 そして話の道筋的に何かここでは言えない秘密があることも分かった。

「これはもっと深堀してみる必要があるみたいだな……」

 とにかく俺の勘違いである可能性はこれで低くなった。
 もしあいつらがアルバートさんの言うスパイや例の黒づくめの集団だとしたら、何としてでも捕まえないといけない。

 一人で飛び込むのは危険だが……この際致し方ない。

(すまん、イリア!)

 水を待つイリアに心の中で謝りつつも。
 俺は二人がその場を去っていくのを確認すると、静かにその後を追うのだった。
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