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97.帰還
しおりを挟む「聖剣が盗まれた?」
「ええ。あの場にいた使用人の中にいたのよ……裏切り者が」
イリアの証言によると聖剣を奪ったのは彼女ではなく、あの場にいた別の人物だったらしい。
犯人は使用人に扮して聖剣を盗み、たまたまイリアがそれを見つけて追いかけたのだが、返り討ちに遭い、現在に至るとのことだ。
「あの中にいたのか……でも誰が?」
「安心して、顔は覚えてるから。とにかく今は早くアイツを探さないと――」
「焦るな、イリア! 見失ってしまった以上、迂闊に動くのは危険だ」
先を急ごうとするイリアの手を握り、行動を阻む。
「でもあれは奪われたらマズいものなんでしょ? わたしが言うのもあれだけど、帝国の人間はああいうのには目がないのよ。奪ったら何に使うか、分かったもんじゃないわ」
……ん、帝国の人間?
「とにかく、早く見つけないと! まだこの近くに……!」
「だから早まるなって! 今探したとしても見つけられるかどうか分からないんだぞ?」
「でも……!」
しかもあと一時間後に夜間外出禁止令が発令される。
夜で視界が悪いことも含めると、下手に行動するのは危険だ。
今もこの王都のどこかで敵が潜んでいるかもしれないしな。
それに一度襲われたとなると、二度三度同じことがあってもあってもおかしくない。
イリアの気持ちも分からなくはないが、ここは……
「今は身の安全の方が大事だ。大丈夫、その犯人は絶対に俺が捕まえるから。今はとにかく休んで心を落ち着かせるんだ」
最初こそ意志が硬かったイリアだったが、俺の必死の説得で徐々に軟化していった。
「……分かった。ランスの言う通りにする」
イリアはコクリと小首を縦に振り、小さく頷いた。
「よし、じゃあ帰ろう。……ほら」
俺は背中をイリアの方へと向けた。
「えっ……なに?」
「屋敷までおんぶしてやるから、早く乗って」
「い、いいよ! 自分で立って歩けるし……」
「いいから。一応念のためってやつだ。遠慮なんかいらない」
「え、遠慮とかじゃなくて……」
その唐突な行動と発言にイリアは顔を赤らめる。
その表情を見て、恥ずかしいんだなってことがすぐに分かった。
そう考えると、急に俺も意識してきてしまう。
「お、俺だって恥ずかしいんだ。でも仲間の為に必要なら、俺は羞恥よりも仲間を取る! だから――!」
「ふふっ、分かった。じゃあ、お言葉に甘えさせてもらおうかな」
イリアは小悪魔的な微笑みをすると、俺の背中に身体を預ける。
見た目の割に結構軽いので、ひょいと持ち上げることができた。
そんなこと、本人の前じゃ絶対に言えないけど。
「お、重くない……?」
「大丈夫、これくらい朝飯前だ」
そう俺が答えると安心したのか、イリアは俺の肩に顔をちょこんと乗っけた。
「むぅ……」
そんな姿を間近で見ていたソフィアは何故か俺の方をじーっと見てくる。
むすっと少しばかり頬を膨らませて。
最初は見て見ぬふりをしていたが、流石に気になったので聞いてみることに。
「どうしたソフィア? さっきからじーっと俺を見て」
「何でもないです。別にランスにおんぶされているイリアさんが羨ましいだなんて微塵も思ってないですから、気にしないでください」
ああ……そゆこと。
聞く前から答えを言ってくれたので、よく分かった。
(俺におんぶをしてほしいということか……)
「今度ソフィアもおんぶしてあげるから、今は我慢してくれ」
「……」
あれ、なんかソフィアの表情がさらに険しくなったような……
「あ、あの……ソフィアさん? 何を怒っていらっしゃって……」
「別に怒ってないです。いや、少しだけ怒ってます」
「どっちなんだ……」
よく分からぬ。
情緒不安定ってやつか?
結局その後。
俺はソフィアの怒りの真相を知ることはなく、屋敷へと戻ってきたのだった。
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