彼女はその程度か? ~奪われし魔法~

城井 白

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怪盗のはじまり

奪われし魔法

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「また、怪盗団が出たらしいよ」

 少女は呆れたように少年にそう話した。
 少年は少年で、大きなため息をついて憤っている。

「……それで次は何がとられたの?」
「なにって、ちょっと待ってね……」

 彼の疑問を確かめるために、少女は先ほど大通りでもらってきた号外を詳しく読み進める。何行か読み進めるうちに、答えが見つかったようで、少女はまた呆れたように言った。

「今回もどうでもいいものだね」

 その口ぶりから見るに、怪盗団はいつもあまり大したものを盗んでいないようだ。少年は怪盗という行為も許せないのだが、もっと腹立たしいのは彼らが、もしくは彼女ら怪盗団が金目のものではないもの、いわゆる魔法そのものを盗んでいるという話を知っているからこそ怒っているといっても過言ではない。
 少年は少女に対しても少なからずストレスを抱えている。

「……でどの魔法なんだ?」

 しかし、そのことは口にしない。彼女も悪気があって魔法をどうでもいいものと言っているわけではないことを知っているからだ。

「静電気を発生させる魔法らしいよ」

 盗まれるものは、彼女を含む市民の大半がどうでもいいと思う魔法ばかりだからこそ、あまり大きく騒ぎ立てることがないというのが現状だ。
 しかし、少年はそんな『市民の大半』とは違う趣味嗜好を持つものであり、魔法のすべてを愛するほんの市民の少数派だからこそ彼女に不満をぶつけることは出来ない。
 そんなことをしてしまったなら、魔法のすべてを愛する者たち、巷で言う『魔法愛好家』達の品位を損ないかねないからだ。

「確かに俺たち小市民にとってはどうでもいいものだろうけど、貴族たちにどう思われるのだろうか……」

 ただでさえ、魔法愛好家たちはオカルト宗教のように言われていて、貴族たちに利用されている存在である。これ以上罪のない魔法愛好家たちが市民に嫌われるような行動は避けなければならないのだ。
 だがその一方で、少年を含む常識を持つ魔法愛好家達が貴族たちに嫌われているという事実もある。このような事件が続くようであれば、その怪盗たちの罪を押し付けられかねないというわけだ。

「まあ、あなたが……フランが魔法愛好家だってことは私だって知ってるよ、この状況がよくないことだってわかってはいるけど、やっぱり貴族が使う拷問魔法がどれだけ盗まれようとどうでもいいんと思っちゃうよ」
「アル……君の意見には僕も賛成だよ」

 フラン少年は自分のことを大切に思ってくれている親友アルの気持ちをむげにはできない。

「それにしても怪盗団もひまだよね?」

 アルの言うことはもっともであるとフランは思う。
 いくら怪盗団が魔法を盗むことを生業としているといえど、その中でも拷問、それも比較的しょうもないいたずらなみのことしかできない魔法だけしか盗まない意味が分からない。
 もっとも、それ以外の魔法を盗まれでもしたらどこぞの貴族たちは怪盗団を一瞬にして取り潰してしまうことだろうなどとフランは考えた。

「ちょっと外に出てくるよ」

 フランは立ち上がり部屋のドアを開ける。
 そんな彼を見て、アルは同じように立ち上がった。

「私もちょっと出かけようかな」
「うん? 何か予定でもあるの?」
「ちょっとね……フランも最近いつも出かけているけど、まさか浮気じゃないよね?」

 アルの言葉にフランは少しだけむっとした顔をする。自分が言われもない疑いをかけられてしまっては誰だって起こるだろう。
 しかし、それも愛情の裏返しだと彼はにこやかに否定した。
 今思えば、それがアルにとっての最後の警告だったように感じてしまう。

――それにしても今日はいつにもまして騒がしい。そんな思いがフランの頭にちらちらと浮かぶ。
 アルと別れてからも、大通りに入ってからも、雑多な細道に入ってからも今まで見たことがないような人種がフランの目に入る。それに加えて、いつもそこらの地べたに転がっていたホームレスや死体も、それをいたぶり続ける貴族も見えない。

「祭りでもあったかな?」

 フランは一人つぶやく。これもフランの悪い癖で、一人になるとさみしくなりひとり言を言うことが多い。
 ひとり言を言うこと自体がストレスを発散させるために行っているものだが、今日はあまりストレスを感じなくてよさそうだ。
 それはさておいて、そこらを歩く黒いローブの人たちがひときわ目立っている。そのいでたちがこの国における一般的な民族衣装でも、はやりものの服でもないことからもこの国に移住してきた人でないことは一目瞭然だ。
 それに彼には気になっていたことが一つあった。怪盗団と呼ばれる一味がちょうど黒い衣装を着ていたということだ。もしかしたら、彼らが怪盗なのではないかなんてことも考えてしまう。
 丁度そんなことを考えていた時、後ろから一人の人物がフランにぶつかった。

「ごめんなさい」

 こういった場合はたいていがごつい男で、言いがかりをつけてくるものだが、その声の細さに面を食らい振り向いた。
 そこに立っていたのは肌の白い人種でかなりきれいな女性だった。
 またもや不意を突かれたフランは、言葉にならない言葉を吐くことしかできず、たじろいでしまう。

「あ、あう……あ」
「どうしたんですか? もしかしてどこか怪我でも……大変だわ治療しなければっ!」

 女性は何を勘違いしたのか、返事の出来ないフランを心配している。
 このままでは、女性に不快な思いをさせてしまうと、フランは急いで大丈夫であることを伝えようとしたが、そんなとき、彼の横を人とは思えないようなスピードでかける姿があった。その勢いで強い風が発生し、フランはしりもちをつく。
 フランにはほんの一瞬しか見えなかったが、逃げる影は先ほどからそこらじゅうにいる黒いローブの人たちと同じようなローブを羽織って、フードを目深にかぶっていた。フードのせいで顔の細部まで見えたわけではないが、それが女性だという確信すら得られている。だからというわけはないが、彼はあれが怪盗団の一員だと気がついた。
 その数秒後にどこかの誰か、それも逃げた影と同じフードをかぶった男が声を上げた。

「か、怪盗団だ!!」

 その声と同時にフードの人たちが一斉に影を追いかける。その様子を演劇でも見ているかのように見ていたフランは内心頭が真っ白だった。
 彼は今の今まで怪盗団を直接見たことがなかったからだ。
 今までに何十件と魔法関係の事件にかかわってきた怪盗が姿を見せるなんて言う失態をさらしたことがなかったからということもあるが、それとは違う理由が彼にはもう一つあった。

「大丈夫ですか!? やっぱりお怪我を……?」

 今の一部始終を見て、まだ自分のことを心配する女性をフランは少しだけ変な人だと思ってしまう。
 それでも心配はかけられず、彼は立ち上がった。

「大丈夫です。ちょっと驚いただけで」
「良かった。私こういうもので、今はちょっと急いでいますが……何かあったらこちらにご連絡を」

 彼女が差し出したのは一枚の紙だ。フランにとっては初めてもらうものだが、この国では長く使われ続けたもの、いわゆる名刺というやつである。
 それからほどなく走り去っていく女性を見送った彼は、ここでようやく渡されたものに目を向けた。
『王立軍王都警務部警務課 ジャンヌ・バール』と書かれている名刺に、フランは目を丸めた。その女性がこの町で有名人だったからだ。
 フランは名刺を丸めポケットに入れると、ゆっくりと来た道を帰り始めた。本当は買い物に行くつもりであったが、いろいろなことがありすぎて疲れてしまったのだ。
 だから、ベットに入るために家に帰ることにしたというだけのことだった。歩いているだけで嫌なものを目にしてしまうこの街が嫌になったわけではない。
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