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怪盗のはじまり
決裂
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――ジャンヌは自身の怒りを抑えているように、苦虫を噛み潰したような顔をして、「また来ます」とだけいうと入ってきたドアからいそいそと出ていった。
突然の彼女の行動に、目をパチクリさせながら黙って見ていた二人も、数分の時とともにアルことを思い出す。
「いや、彼女を帰してよかったの?」
「良かろうと悪かろうと、私達にはどうしようもないでしょ?」
アルは投げやりに、不安を感じながらもそうつぶやいた。
もし、ジャンヌが自分たちを騙して居たのならば、数時間後にも応援を連れてアルを捕まえに来ることだろう。しかし、今更アルが逃げたところで顔が割れている。逃げ切ることなど不可能だろう。
それもそのはず、アルが怪盗として盗んだ魔法の中には逃走に役立つものなどなく、あるのはいたずらが出来るようなくだらないものばかりだ。使い勝手によっては拷問の手段となりえるものだが、それ以外では利用方法も確率されていない。
アルの口から出るのはため息ばかりで、それを何度も聞かされたフランも気が参っている。
「彼女のことを信頼していなくても、信じるしかないというわけだね」
了解した……なんてほど割り切れるわけでもないが、割り切るしかないのが一番追い詰められた状況と言えるだろう。
だがしかし、もともと彼らは追い詰められていたのだ。
アルは怪盗として活動する中で、着実にその容姿が明らかになりつつあった。
フランはというと、貴族でありながらもどこか治める地があるわけでもなく、誰からも必要とされていない。今となっては女王の恩恵すらあやかれない程に没落していた。
それらはつまり、彼らには仲間はおろか頼れる人材すら多くはないということを表している。それを含めた上で考えるのであれば、彼女、ジャンヌの登場はある意味では好機ですらあると考えられるだろう。
「それより、私はあなたが怪盗になることは認めていないよ」
アルが思い出したかのように言う。
彼女にとっての怪盗とは、やむ負えずに落ちるものでしかない。だからこそ、フランには自分と同じになってほしくない。それは今の自分にある危うい状況を考えてもそうだ。
怪盗などやっていなければ、国から追われるなんてことに怯える必要もないし、後ろめたい気持ちを持って生きていくなんてこともなかったかもしれない。自分にとっての正義を掲げる場合、彼女にとってその正義が悪にも感じられるのだ。それが、彼女にとってはこの上なく不快で、それでいて愉快だからこそ復讐を続けることができた。
フランに対する裏切り、一般市民への迷惑、その二つと、貴族への復讐、貧民からの希望がちょうど天秤をつりあわせるがごとく、彼女の住んでいるこの6畳ほどのへやよりもはるかに小さい彼女の心臓を、脳を安定させている。むしろ安定しすぎているほどだ。
だからこそ、フランが自分の領域に踏み込むことをよしとできない。彼にはそんなちょうどいいぐらいの安定せいがないからだ。彼はアルにとって愚直で、そして正義感にあふれた人間なのだから。
「もう同じだよ、僕は君が怪盗だと知った時絶望した。絶望して切望した。君がこの国の英雄になることをね。だけどこのままじゃただの犯罪者……革命はならない。なんでかというと、君には覚悟がないからだ。気概がないからだ。それ故に平民に対して危害を加えられないし、魔法を消し去ろうという意思も感じられない。だけど君は本当にその程度なのか?」
いつにもましてフランは饒舌だ。そして、いつもとは違いやけに静かな口調で話している。それは、非日常が日常に切り替わる瞬間、その瞬間にだけ生じる彼の悪い癖でもあった。
良くも悪くも彼は自分の置かれた状況をチャンスだと思っている。その冷淡な表情こそが、自信の表れなのかもしれない。
「違う……私はほかの怪盗とは違う。たった一人で怪盗団と呼ばれる所以になった私の力を見くびらないで……私の覚悟を見くびらないで……!」
アルはフランの言葉に腹を立てて家を出ていく、それはいつものことであり、結局はアルが折れて戻ってくるのが通例となっている。しかし、今回は違う。
フランはアルを追いかける。彼女が家を出ていくときに見せた涙に、彼女の覚悟を見たからだ。
いま彼女を放り出したら取り返しがつかないことになる……。
そう感じさせたのは、フランの高鳴る心を押さえつける理性というものだ。理性によって彼は彼女を追いかけることが出来た。
「待て、待ってくれ! 僕は君と一緒にいられるなら、自分の復讐心など忘れられる! もう怪盗になるなんて言わないから戻ってきてくれ!」
そんなフランの必死の呼びかけにも彼女は止まらない。ひたすらにどこかへとかけて行ってしまった。
静かに、そして早い足を月明かりが照らす薄暗い街へと運んでいく彼女を見失い、フランは小さく「くそ……」とこぼすことしか出来なかった。
突然の彼女の行動に、目をパチクリさせながら黙って見ていた二人も、数分の時とともにアルことを思い出す。
「いや、彼女を帰してよかったの?」
「良かろうと悪かろうと、私達にはどうしようもないでしょ?」
アルは投げやりに、不安を感じながらもそうつぶやいた。
もし、ジャンヌが自分たちを騙して居たのならば、数時間後にも応援を連れてアルを捕まえに来ることだろう。しかし、今更アルが逃げたところで顔が割れている。逃げ切ることなど不可能だろう。
それもそのはず、アルが怪盗として盗んだ魔法の中には逃走に役立つものなどなく、あるのはいたずらが出来るようなくだらないものばかりだ。使い勝手によっては拷問の手段となりえるものだが、それ以外では利用方法も確率されていない。
アルの口から出るのはため息ばかりで、それを何度も聞かされたフランも気が参っている。
「彼女のことを信頼していなくても、信じるしかないというわけだね」
了解した……なんてほど割り切れるわけでもないが、割り切るしかないのが一番追い詰められた状況と言えるだろう。
だがしかし、もともと彼らは追い詰められていたのだ。
アルは怪盗として活動する中で、着実にその容姿が明らかになりつつあった。
フランはというと、貴族でありながらもどこか治める地があるわけでもなく、誰からも必要とされていない。今となっては女王の恩恵すらあやかれない程に没落していた。
それらはつまり、彼らには仲間はおろか頼れる人材すら多くはないということを表している。それを含めた上で考えるのであれば、彼女、ジャンヌの登場はある意味では好機ですらあると考えられるだろう。
「それより、私はあなたが怪盗になることは認めていないよ」
アルが思い出したかのように言う。
彼女にとっての怪盗とは、やむ負えずに落ちるものでしかない。だからこそ、フランには自分と同じになってほしくない。それは今の自分にある危うい状況を考えてもそうだ。
怪盗などやっていなければ、国から追われるなんてことに怯える必要もないし、後ろめたい気持ちを持って生きていくなんてこともなかったかもしれない。自分にとっての正義を掲げる場合、彼女にとってその正義が悪にも感じられるのだ。それが、彼女にとってはこの上なく不快で、それでいて愉快だからこそ復讐を続けることができた。
フランに対する裏切り、一般市民への迷惑、その二つと、貴族への復讐、貧民からの希望がちょうど天秤をつりあわせるがごとく、彼女の住んでいるこの6畳ほどのへやよりもはるかに小さい彼女の心臓を、脳を安定させている。むしろ安定しすぎているほどだ。
だからこそ、フランが自分の領域に踏み込むことをよしとできない。彼にはそんなちょうどいいぐらいの安定せいがないからだ。彼はアルにとって愚直で、そして正義感にあふれた人間なのだから。
「もう同じだよ、僕は君が怪盗だと知った時絶望した。絶望して切望した。君がこの国の英雄になることをね。だけどこのままじゃただの犯罪者……革命はならない。なんでかというと、君には覚悟がないからだ。気概がないからだ。それ故に平民に対して危害を加えられないし、魔法を消し去ろうという意思も感じられない。だけど君は本当にその程度なのか?」
いつにもましてフランは饒舌だ。そして、いつもとは違いやけに静かな口調で話している。それは、非日常が日常に切り替わる瞬間、その瞬間にだけ生じる彼の悪い癖でもあった。
良くも悪くも彼は自分の置かれた状況をチャンスだと思っている。その冷淡な表情こそが、自信の表れなのかもしれない。
「違う……私はほかの怪盗とは違う。たった一人で怪盗団と呼ばれる所以になった私の力を見くびらないで……私の覚悟を見くびらないで……!」
アルはフランの言葉に腹を立てて家を出ていく、それはいつものことであり、結局はアルが折れて戻ってくるのが通例となっている。しかし、今回は違う。
フランはアルを追いかける。彼女が家を出ていくときに見せた涙に、彼女の覚悟を見たからだ。
いま彼女を放り出したら取り返しがつかないことになる……。
そう感じさせたのは、フランの高鳴る心を押さえつける理性というものだ。理性によって彼は彼女を追いかけることが出来た。
「待て、待ってくれ! 僕は君と一緒にいられるなら、自分の復讐心など忘れられる! もう怪盗になるなんて言わないから戻ってきてくれ!」
そんなフランの必死の呼びかけにも彼女は止まらない。ひたすらにどこかへとかけて行ってしまった。
静かに、そして早い足を月明かりが照らす薄暗い街へと運んでいく彼女を見失い、フランは小さく「くそ……」とこぼすことしか出来なかった。
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