不器用な指先

merori

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6年前、忘れられない少女

理科準備室にて

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「…………」



驚く程にこの学校の職員室は空気が悪い。
ワイワイと大声を出す体育教師達、おとなしく一人で給食を食べて一人の時間を過ごす文系教師達の二極化。

僕はどこにいればいいのだろうか、と悩んでしまうほどの居心地の悪さ。


……あ。
理科準備室にテーブルと椅子があることに僕は気づいた。
僕は職員用の給食を持って理科準備室に向かった。






理科準備室には薬品の匂いが少しするが、職員室のあの空気に耐えられないことを考えるとここは居心地がいい。
たかが半年間の職場だ。多少我慢すればいい。
僕は箸を持ち、給食を食べ始めた。




「失礼します……」


食べ終えて、すぐのことだった。
ドアから3回の小さなノックに小声の挨拶が聞こえた。



「あっ…えっと、渡辺先生ですよね……こんにちは……」



理科準備室に入ってきたのはつい数時間前に授業をした際、目に止まった鈴木小夜だった。
小さなノック、少し震えがちだった挨拶、彼女はどうやら人見知りのようだ。



「う、うん。君は」

「2年3組の、鈴木小夜です。半年間、よろしくお願いします……」



やはり震えがちな声だったが、丁寧な挨拶だった。
目を逸らしたり、突然目を見つめたり……このたったの短い時間で僕は彼女の行動が少し気になった。



「あの、私、理科係なんです。それで、明日の理科で必要な準備を渡辺先生に聞きたくて…」


彼女はまさかの理科係だったようだ。
荒れがちなクラス、彼女が理科係だと知った僕は少しホッとした。


「今日は…化学だし薬品を使うから、何もしなくてもいいよ」


僕はそう答えた。


「わかりました。それでは失礼しました……」



「…待って」



なぜか僕は…特に理由もなく、彼女を引き止めてしまった。
彼女は振り向き、僕を見た。

さらさらの髪がふわりと動き、スラっとした脚が僕の方に向けてくれた。
そんな振り向いた瞬間も…とても綺麗だった。



「……どうしました?」

「いや、なんというか……」


呼び出したのは僕なのに、何を話そうかと急いで考えた。



「…普段、先生達にはなんて呼ばれているの」



とっさに考えついたことを彼女に問いかけた。



「先生によりますが…鈴木さん、とか、小夜さんとか……たまに呼び捨てする先生もいます」


鈴木か、小夜か……
僕の中ではもう呼び方は、直ぐに決めることができた。



「…じゃあ、小夜。小夜でもいいかな」

「もちろん、いいですよ」



彼女は微笑み、僕にそう言ってくれた。
…俺は生徒になんて事を聞いてるんだ、と少し複雑な気持ちになった。



「小夜…、半年間だけだけど、よろしくな」

「こちらこそ、よろしくお願いします」


彼女の大きな瞳が、優しく僕の目を見つめてくる。
自分の胸がとても高鳴っているのを感じられる…


そして、昼休みが終わるチャイムが鳴った。



「そしたら、次の授業あるので…失礼します」



そう言い残し、彼女は理科準備室を出た。



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