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一輪の『オダマキ』
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私の手が前を歩く女の肩に触れると、女は「うひ」と声を上げピョコっと飛び跳ねた。
滑稽な動きをするのね? お笑いだわ。そして栗色のショートボブに付けられたヘアピンがやけに鼻につくわ。まるでコケシね。
「急に驚かせてごめんね。あなた、瑠二君の知り合いなのかな?って思って、つい声をかけちゃったのよ」
「え、ええまぁ。大学の後輩ですけど……なんで私の事知ってるんですか?」
そのアホみたいに半開きの目、口。
閉めてるのか開けているのか微妙なシャツのボタン。
全くもって締りが無い女ね。だからあっちの方もだらし無いのかしら?
「たまたま道で話してる所を見たのよ。もしかしてあなた、瑠二君の事好きなの?」
「えぇ!? そそそそんな事はぁあわわ……」
顔を真っ赤にしちゃってまぁ。どうせ演技なんでしょ?さっきこの目で見ていたのよ。
私は──、
あなたの──、
本性をッ!
「そんなに隠さなくても分かるわよ。瑠二君素敵だもんね。実は私も好きなの。瑠二君が」
「え……えぇぇ!? そ、それじゃあ私達ライバルじゃないですか!……あっ」
ライバル? ライバルとは競う相手の事を言うのよ? こうやって会ってみて再確認出来たけど、あなたなんて眼中に無いの。ただ、このままでは何をしでかすか分かったものじゃ無いから排除するだけ。
「私はね、瑠二君の為なら命だって惜しくないのよ。彼の為なら何だってできる。あなたはどれ程の気持ちで彼を思っているのかしら?」
「わ、私も先輩の為なら命をかけられますッ!! 本当に本当に大大大好きなんですからッ!!」
こ、この子ッ──、
「フン、あなた名前は?」
「え、え? えと、名前は『小田 真紀』ですけど」
────っく……くくくくッ……あははははははははッ!!
小田 真紀?
小田真紀小田真紀小田真紀ィィィィィ!?
これは傑作ね! 今年一番のヒットだわ! 小田真紀ね! あなたにピッタリの名前じゃない?
「そう、急に呼び止めちゃってごめんね『オダマキ』さん。お互い頑張りましょうね」
「は、はい! ありがとうございます」
深く礼をする女を上から見下ろし終えると、私は元来た道を戻り歩き出す。
小田 真紀、ねぇ。
確か『オダマキ』の花言葉は──────
『愚か』
だったかしら?
それに言ったわよね?あなた。
瑠二君の為なら────
『命をかけられる』
って。
■■■■
家に帰って来た私は、キッチンにある包丁立てを物色していた。その中で一番細く、長い物を一本選んで手に取ると、それを持ちリビングへの向かう。
そして今度は迷うこと無く熊五郎のお腹目掛けて包丁を振りかざす。しかし、包丁の当たった熊五郎は、切れることなくポーンと跳ね飛ばされて、そのまま床を転げ回った。
この包丁。あまり切れないわね。
切れ味を確認し終えると、転がった熊五郎を拾い上げ、優しくお腹を擦りながらベッドの枕元に置いてあげる。
次の日私は、黒のスーツに真っ赤なバックを持ち、2駅隣の駅で小田真紀を待っていた。
普段下ろしている、背中まで伸びた髪はサイドで結われ、化粧も変えて眼鏡もかけている。可愛いに変わりは無いが、同一人物とは誰もが思うまい。
何の為にこんな所に居るのかって?決まっている。害虫を駆除するためだ。
真っ赤なバックには、昨日の夜研いだ包丁が入っている。この包丁で憎き愚かな『害虫』を私が駆除するのだ。
これは瑠二君の為であり、私の為でもある。言わば、2人の未来の為に必要な行いだ。
手順の確認を念入りにイメージし、小田真紀が駅に来るのを待つ事三十分。遂に小田真紀がその姿を見せた。
相変わらず締りの無い顔だこと。あなたがこの時間にこの電車に乗ることは、おおよそ察しが付いていたわ。そして勿論、降りる駅も──、
彼女は大学に通学する為に、朝からこの満員電車に乗る。この時間は通勤通学の人々でごった返し、身動きが取れない程に混み合うのだ。その隙をついて──、
「グサリ。」
ってね。
うふふふっ。でもあなたが悪いのよ?
罪人は何故処刑されるか分かるかしら?
害虫は何故駆除されるか分かるかしら?
ゴミはなぜ処分されるのか考えるまでもないわよね。
それと同じなのよ。
人混みの中、小田真紀が真っ直ぐ改札に向かう。それを見た私は、その後にピタリと付けた。
行くわよ、オダマキ。
あなたの『命』かけて見せなさい。
瑠二君の為に。
滑稽な動きをするのね? お笑いだわ。そして栗色のショートボブに付けられたヘアピンがやけに鼻につくわ。まるでコケシね。
「急に驚かせてごめんね。あなた、瑠二君の知り合いなのかな?って思って、つい声をかけちゃったのよ」
「え、ええまぁ。大学の後輩ですけど……なんで私の事知ってるんですか?」
そのアホみたいに半開きの目、口。
閉めてるのか開けているのか微妙なシャツのボタン。
全くもって締りが無い女ね。だからあっちの方もだらし無いのかしら?
「たまたま道で話してる所を見たのよ。もしかしてあなた、瑠二君の事好きなの?」
「えぇ!? そそそそんな事はぁあわわ……」
顔を真っ赤にしちゃってまぁ。どうせ演技なんでしょ?さっきこの目で見ていたのよ。
私は──、
あなたの──、
本性をッ!
「そんなに隠さなくても分かるわよ。瑠二君素敵だもんね。実は私も好きなの。瑠二君が」
「え……えぇぇ!? そ、それじゃあ私達ライバルじゃないですか!……あっ」
ライバル? ライバルとは競う相手の事を言うのよ? こうやって会ってみて再確認出来たけど、あなたなんて眼中に無いの。ただ、このままでは何をしでかすか分かったものじゃ無いから排除するだけ。
「私はね、瑠二君の為なら命だって惜しくないのよ。彼の為なら何だってできる。あなたはどれ程の気持ちで彼を思っているのかしら?」
「わ、私も先輩の為なら命をかけられますッ!! 本当に本当に大大大好きなんですからッ!!」
こ、この子ッ──、
「フン、あなた名前は?」
「え、え? えと、名前は『小田 真紀』ですけど」
────っく……くくくくッ……あははははははははッ!!
小田 真紀?
小田真紀小田真紀小田真紀ィィィィィ!?
これは傑作ね! 今年一番のヒットだわ! 小田真紀ね! あなたにピッタリの名前じゃない?
「そう、急に呼び止めちゃってごめんね『オダマキ』さん。お互い頑張りましょうね」
「は、はい! ありがとうございます」
深く礼をする女を上から見下ろし終えると、私は元来た道を戻り歩き出す。
小田 真紀、ねぇ。
確か『オダマキ』の花言葉は──────
『愚か』
だったかしら?
それに言ったわよね?あなた。
瑠二君の為なら────
『命をかけられる』
って。
■■■■
家に帰って来た私は、キッチンにある包丁立てを物色していた。その中で一番細く、長い物を一本選んで手に取ると、それを持ちリビングへの向かう。
そして今度は迷うこと無く熊五郎のお腹目掛けて包丁を振りかざす。しかし、包丁の当たった熊五郎は、切れることなくポーンと跳ね飛ばされて、そのまま床を転げ回った。
この包丁。あまり切れないわね。
切れ味を確認し終えると、転がった熊五郎を拾い上げ、優しくお腹を擦りながらベッドの枕元に置いてあげる。
次の日私は、黒のスーツに真っ赤なバックを持ち、2駅隣の駅で小田真紀を待っていた。
普段下ろしている、背中まで伸びた髪はサイドで結われ、化粧も変えて眼鏡もかけている。可愛いに変わりは無いが、同一人物とは誰もが思うまい。
何の為にこんな所に居るのかって?決まっている。害虫を駆除するためだ。
真っ赤なバックには、昨日の夜研いだ包丁が入っている。この包丁で憎き愚かな『害虫』を私が駆除するのだ。
これは瑠二君の為であり、私の為でもある。言わば、2人の未来の為に必要な行いだ。
手順の確認を念入りにイメージし、小田真紀が駅に来るのを待つ事三十分。遂に小田真紀がその姿を見せた。
相変わらず締りの無い顔だこと。あなたがこの時間にこの電車に乗ることは、おおよそ察しが付いていたわ。そして勿論、降りる駅も──、
彼女は大学に通学する為に、朝からこの満員電車に乗る。この時間は通勤通学の人々でごった返し、身動きが取れない程に混み合うのだ。その隙をついて──、
「グサリ。」
ってね。
うふふふっ。でもあなたが悪いのよ?
罪人は何故処刑されるか分かるかしら?
害虫は何故駆除されるか分かるかしら?
ゴミはなぜ処分されるのか考えるまでもないわよね。
それと同じなのよ。
人混みの中、小田真紀が真っ直ぐ改札に向かう。それを見た私は、その後にピタリと付けた。
行くわよ、オダマキ。
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瑠二君の為に。
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