ラブイズホラー ~痛めて菜抽子さん~

風浦らの

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私が殺らなきゃ

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 案の定電車は混んでいて、私達は押し込まれるように電車の中へと入っていく。

 ドアが閉まる際、駅員さんが必死にドアが閉まるように客を押し込んでいる。

 いい混み具合ね。これなら……

 私は若い頃よく痴漢にあっていた。とても怖かったわ。だけど意外と周りからは分からないみたい。この混み具合で、他の人のお腹より下を見ている人なんて居ないんじゃないかしら。彼らが見ているのは電車の中刷り広告や、スマホの画面。私の手元に等まるで関心がないのよね。

 電車はあっという間に1駅進み、停車する。その際減速が乱れ、ダダダッっと人々がバランスを崩した。

 危ないッ!    もう少しで隣のおっさんのお腹に包丁が刺さるところだったわ!

 私は人を傷つける為に包丁を持っている訳では無い。あくまで瑠二君の周りを飛び回る、小汚い愚かな『蝿』を駆除する為に持っているのだ。こんな所で殺傷事件でも起こしたら逃げ場は無く、それこそ人生の終わりだ。

 再びドアが開き、我先にと電車を降りていく人々。そして降り終わるとそれ以上の数の人が電車に乗ってくる。
    ぎゅうぎゅうに詰め込まれる流れに乗じて、私は小田真紀の真後ろを完全にキープしていた。
    まさに絶好のポジション。

 もう少し、もう少しで邪魔者を消す事が出来る。瑠二君をたぶらかした罰を与える事が出来る。


 そして再び電車は動き出す──、



 次の駅、ドアが開いた瞬間あなたを──、



 ──殺すわ。



 カタンコトンと響く電車の音。それに同調して高鳴る私の鼓動。


 これから私は人を殺す……


 人を殺すってどういう事……?


 コイツは悪い事をしたのよ、殺されて当然……
    当然なのよ。

 だって命をかけると言ったじゃない。殺されても文句は無いはず……


 ここで殺さなければ、いつか必ず瑠二君の身に危険が及ぶもの。


 そうよ、私が殺らなきゃッ。
    大切な人を守る事に善も悪も無い!



 電車は徐々に減速しブレーキ音が響き渡る。そしていよいよ2駅目へと到着する。


 電車が止まりドアが開かれると、先程と同じように人々が後ろから押し上げてくる。その圧力のままグイグイと、前に押し出されるように外に出て行く乗客達。

 私は真っ赤なバッグの中に手を入れ、包丁の柄を握った。そしてその先端を小田真紀の背中にピタリとつけ、ドドドっと流れ出る客と共にバッグごと押し当てた。

 少し抵抗があり、その後包丁がズブッと肉に刺さる感触がバッグ越しに伝わってくる。そして、すぐさまバッグと共に包丁を引き抜いた。


「痛ッぁぁああ!!」


 と、少女が声を上げるも混雑時の電車ではこんな事は日常茶飯事。
    チラリと見るがそれ以上は無い。

 少女はそのままドアから押し出され、腰の辺りを抑えながら倒れ込む。
    着ていた白い服がその惨劇をより際立たせ、周りの人もその異常さに徐々に気づいていった。

 たちまち駅のホームは大混乱。悲鳴や怒声が響き渡っている。

 私はホームには降りなかった。駅のホームには防犯カメラが設置してあるからだ。

 電車は運転を見合わせ、人々が次々と降りて行く。そして私はそれを見計らい、電車内を歩いて移動する。そして4両離れたドアから何食わぬ顔で外に出た。

 ──今の私は完璧にOL──

    『これから急いで会社に行かなきゃいけないの。こんな事件に構っていられないわ』
    周りにはそんな風に見られているに違いない。服は黒でバッグは赤い。返り血があったとしても目立つ事はあるまい。

 そして、電車が止まったことにより人で溢れかえった改札を無事に抜け、家へと帰る。


 ■■■■



 いつもと違う息遣い。

 家に近づくにつれ早歩きになり、その歩みはいつしか小走りへと変わっていた。


 やった、やった、やったやった!    やってやったッ!
    私の手で愛する瑠二君を守ってみせた!


 私の心は達成感に満ち溢れ、清々しい気持ちで一杯だった。瑠二君に褒められる。邪魔者が消えた。これで瑠二君は私の物。
 そんな気持ちになっていた。しかし、家に帰る途中、けだたましい音を鳴り響かせた救急車とすれ違うと、一転して恐怖や不安が襲ってきた。

 高鳴った鼓動は悪魔の手により握られ、今ではまるで無理矢理動かされているよう。冷や汗が流れ、思考は停止し、徐々に足取りも重くなっていく。


 もつれた足でようやく家に帰ってくると、私はシーツに包まり、ガタガタと震えながら過ごした。

 私、人を殺しちゃったんだ……殺人犯だよね?もしバレたらどうなっちゃうんだろう……

 でもバレなきゃ平気よね?

 上手くいった自信はあるわ。でも、それでも……


 ──────。


 あれからどれ程の時間が経っただろうか。私は、いてもたってもいられなくなり、洗いたての服に着替えて家を飛び出た。

 瑠二君に会いたい。その一心が私を突き動かしていた。


 彼に会えば安心できる。


 褒めて貰いたい。今だけは傍に居てほしい。大丈夫だよと言ってほしい。



 瑠二君、瑠二君……



 私は間違っていないわよね?


 ───。
    ──。

「え?」

 なんと、そんな願いが通じたのか、宛もなく彷徨って居たにも関わらず、大通りでバッタリと瑠二君と鉢合わせする事になった。



 この瞬間──、


『神は私に味方している』


 そう、確信した。
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