ラブイズホラー ~痛めて菜抽子さん~

風浦らの

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オダマキという名の逆襲

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 突如目の前に現れた小田真紀。
    手には包丁。まさか手料理を振る舞いに来た訳ではあるまい。自然と考えが一つに行き着く。

「あら、小田真紀さん。こんな時間にいらっしゃい。背中の傷はもう良くなったのかしら?」
「ええ、お陰様で。めちゃくちゃ痛いですけど、歩ける程度には回復しました」

 これが本当に同一人物か。鋭い目つきはまるで別人で、双子の姉というオチでも付きそうな程の変わりようだ。

「そんな物騒な物を持ってどうしたのかしら」
「これですか?    そこのスーパーで買ったんですよ。ナイフは規制があるのに、こんな立派な包丁は買い放題なんですよ。不思議ですよね」

 会話をしながらも、ジリジリと近づいてくる小田真紀の目が完全にイッている。
 私は思わず1歩2歩と後退しながらも会話を続けた。

「私が何をしたと言うの?」

 こんな質問は野暮だ。状況からして答えはもう出ている。それでも言わずにはいられなかった。

「本当はあの時分かっていたんです。あなたが私を刺したんだということが。ただ、それはあくまでも私の憶測で、証拠が無かったので」
「証拠が無い?   相変わらず笑わせてくれるわね、さん」

 その言葉にピクリと小田真紀の頬が引きつった。

「花言葉、ですよね。よく言われますよ。確かにあの時の私は愚かだったかも知れませんね。────、因みにオダマキという花、色によって花言葉が違うのもご存知でしょうか?」
「────色?」


 確か────


「病院で目覚めた時、私は『白』でした。そして入院中は『赤』でしたね」


 ──白は『あの方が気がかり』赤は『心配してふるえている』──だったか。


「そして今は『紫』ですッ!!」


 その言葉と同時に包丁を突き立ててきた小田真紀!
    私は運良く腕を弾く事ができ、包丁は壁に突き刺さった!


 ────確か紫は『勝利への決意』ッ!!

 「花って小さくて、可愛くて、綺麗で、いい匂いがして。いいですよねぇ。私は、そういうの見るとちょん切りたくなっちゃうんですよねぇ────こんな風にッッ!!」

 壁から強引に引き抜かれた包丁は、私の首元を掠め反対側の壁に再び勢いよく突き刺さった。

 こ、殺される!    この女は頭がおかしい!!    予測だけで人を殺すなんてどうかしている!!


「私もあなたの名前を聞いた時、笑いましたけどね。『かわいなぬこ』って、" かなわぬこい "と似ていますよね?   滑稽だなって」


 小田真紀が再び包丁を壁から引き抜こうとしている隙に、私は部屋の中へと逃げ込んだ。それを追いかけてきた小田真紀。と同時に部屋から瑠二君が出てきた。

「菜抽子さん!    そろそろ俺達も逃げ出さないと──、」

 2人は有り得ない場所でバッタリと再会を果たした。

「ま、真紀ちゃん?」
「先輩ッ!!」
「「どうしてここに!?」」


 非常にマズイ!    人生最大のピンチだわ!!    一体どうしたらいいの!?


「先輩、まさかこの女と!」
「そんな訳無いだろ!    妹の動画をネタに脅されてここに居るんだよ!」

 瑠二君の言葉を聞いた小田真紀の表情が更にどぎついモノへと変わっていく。

「まさか……まさか伊奈絵ちゃんをやったのもお前かァァァ!    こんの外道がァァァァァ!!    ぶっ殺してやるッ!!」

 まだ届かない距離で包丁を振り回す小田真紀。その怒りに私は心の底から震えた。
    彼女は本気で私を殺しに来ている。

「真紀ちゃん!    落ち着いてくれ!」
「先輩!    よく聞いてください!   伊奈絵ちゃんは────」


「や、やめてぇッ!!    言わないでぇぇぇ!!」


 私の言葉をかき消す程の声で小田真紀は叫んだ。



「伊奈絵ちゃんは自殺しましたッ!!」



「──────えっ……今、なんて……うそ……」




 1番知られたくなかった事が瑠二君に知られてしまった。私と瑠二君を繋ぎとめる物はもう無い。このままでは──、


「適当な事を言うな!    オダマキィィ!    まだ死んでないでしょ!    未遂で終わったでしょ!」


 焦りの余り、つい余計な事を言ってしまった。
    未遂とは言え、自殺した事と伊奈絵事件の両方を肯定した形となり、自ら墓穴を掘ってしまった。



「本当……なのか?」
「本当です!   今、ここで!    私が伊奈絵ちゃんの仇を討ちますッッ!」


 なんという気迫か。
    初めて女の人が本気で怖いと思った。
    普段はマヌケな顔をしている女でも、本気になったらこんなに恐ろしいものなのか。


「真紀ちゃん落ち着けって!    とにかく警察に行こう!」
「警察になんて行きません!    だってこの人────」



 ──殺せなくなっちゃうじゃないですか?──



 ゾッとした。背筋が凍りつくとは、まさにこの事。このイカれた女はこの場で私が殺さなければ、本当に殺されてしまうだろう。


 キッチンに包丁がある。アレさえ取れれば、傷を負ったオダマキ如き……


 先程までの絶叫のやり取りが嘘の様に沈黙が続き、防災ベルだけが部屋に響いていた。



 私はジリジリとゆっくりキッチンの方に身を寄せる。

    そして────



 3人がそれぞれ同時に動き出す!





 殺してやるぅッッッ!!!
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