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清嶺地 エル(セイレイジ エル)
2:皮算用と背伸び
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「エルちゃん、おはよ!」
中学の昇降口をくぐり抜け、自分の教室に入ると名前を思い出せない女子が話しかけてきた。あまり応える気分でもなかったが、無視するわけにいかないので笑顔を作る。
「うん、おはよ!」
「エルちゃんさ、昨日新刊買った?」
「『てんなが』でしょ!? もちろんだよ!」
私は興奮気味にそう言うと、学生鞄から表紙の光沢が眩しい購入ホヤホヤのコミックスを取り出した。娯楽用品の持ち込みは校則で禁じられているが、教師に目撃されなければ問題ないし、周りのみんな同じことやっているもの。
『てんなが』こと『天使のはしごをながめたら』。私が小学生のとき夢中になったウェブ小説をコミカライズしたものだ。王道の恋愛ドラマであるものの『主人公らしくない女の子』というネタがウケてもちろん書籍化もされている。
文庫本などの小さい文字を読むのは苦手だが、横文字を目で追う分なら問題ない。連載当初は更新が待ちきれなかったものだ。
「来月のサイン会って参加する?」
「当たり前じゃん! チケット頑張って取ったもん!」
「いいなぁ。私ハズれちゃってさぁ。でもめずらしいよね。ネット越しでやるだなんて」
彼女の言う通り、今回のサイン会はリモート形式で行われることになった。
抽選で当選した名前を生放送の画面上で先生がその場で書き、スタッフが確認したファンの家の住所まで後日郵送するシステムとなっている。
彼女はチケットを獲得できた私に嫉みと羨みを含んだ眼差しを送りながら言う。
「仮にそれが熱中症対策だとしても、アニメ化記念だから直接会いたいに決まってるよね?」
「動画サイトで先生のチャンネル動画チェックしてるけど、全部顔出ししてないよ。編集で石のイラストが顔の部分に貼ってあるんだよね」
「そうなの? 『石下こいわ』って名前だから?」
「たぶん。名前からして性別すらわかんないけどね」
タイトルに『天使』があることもあって、私は人一倍作品を応援していた。ウェブ小説時代のブックマーク登録、レビューの書き込みはもちろん、書籍化された際は自分用、保存用、布教用に三冊持っている。コミカライズの月刊誌は必ず購入して読み込んでいるし、『てんなが』の知識なら誰にも負けない自信があった。
友人は私から渡されたコミックをパラパラとめくるとボソッとつぶやいた。
「性別ねぇ……恋愛小説書いてるんだから十中八九女じゃない?」
「でも少年マンガを書いてる女性は何十年も前からいるし今更関係ないかもよ」
「まぁ、そうねぇ……」
顔出しNGと言っている人ほど見たくなるのが人間の性である。どうにかならないかしら。
「石下先生に会えるかどうか親に頼んでみようか? サインもらってくるよ」
「え!? 本当に!?」
彼女の驚きと喜びに満ちた声が私の心臓にスッと染み渡る。自己肯定感が急上昇し、自然と声も大きくなった。
「私の両親いろんな方面に人脈あるからさ。前に芸人さんのメッセージビデオ見たことあるじゃない? 今回もたぶんできるんじゃないかな」
「あぁ! そのとき大人気だったコンビだよね! うちらのクラスだけじゃなくて、他のクラスの人たちもエルちゃんのスマホを取り合いしてたもん」
あのときはたまたまその芸人がオフということもあり交渉成立したのだ。しかも父が営業でもらえる給料の十倍近くのお金を支払ったらしい。父に直接聞いたわけではないが、家計簿をこっそり見たときそれだけのお金が『交際費』として加算されていた。
マネージャーに迷惑をかけてしまったが、相応以上の見返りをお互いもらったので文句は言わせない。
ちなみに取り合いしていたスマホはその日のうちにスマホショップで掃除してもらった。
「じゃ、今日親に掛け合ってみるね。来週にはわかると思う」
「うん! 楽しみにしてる! あ、先生来た」
「ホントだ。それじゃあね」
彼女からコミックを受け取り自分の席につくと、折り目がつかないよう学生鞄にしまった。一時間目の教科書を机の上に置いたタイミングで担任が教室に入ってくる。相変わらず生気のないジジイ。将来あんな男と結婚したくないな。
狸の皮算用じゃないけれど、今まで誰も見たことない憧れの作家さんに会えると思うと楽しみでたまらなかった。
…
……
「ねぇ、お母さん! どうしても無理なの!?」
「うーん……こればっかりはどうしようも……本当にゴメンね」
「むぅ!」
1週間後、私のお願いを絶対叶えてくれる母が初めて反抗した。自らの頬に空気を目一杯含ませ、フグのように膨らませる。母は私の頬を両手のひらで挟んだあと、栓のしていない風船のように空気をシュルシュルと逃し仕事へと戻った。
山のように積み重なっている机上の書類を破きたい衝動に駆られたが、怒られることは目に見えているので必死に堪える。
「もういいよ! お母さんのバカ!」
「はいはい。忙しいからまたあとでね」
「イーッだっ!」
私の抵抗も虚しくサラリと躱され、ドアの前まで歩み寄り振り返ると、捨て台詞のごとく両人差し指で口の端を引っ張り猿のごとく威嚇した。もちろん母には子犬がそっぽ向いてるようにしか見えていないんだろうけど。
あしらう母に憤慨しつつ、これ以上争っても時間の無駄だと判断した私は母の書斎を後にした。
自室に戻ると真っ先にクイーンサイズのベッドにダイブする。シルクの感触を存分に味わうと、うつ伏せから仰向けに体制を変え寝そべった。
どんなチカラを駆使しても断られるだなんて……あの子になんて説明しよう。
むしろイベントスタッフもメールのやり取りのみで、ほんの僅かな人間としか顔を合わせていないそうだ。
十日前、書店で磯貝くんに自分の生き方を否定されたことも相まってイライラは募るばかりである。あれから休み時間のたびに彼のクラスを覗いてはちょっかいをかけて反応を楽しんでいた。
時々その当てつけとばかりに、他の男子から告白されるが文字通り全て一蹴している。断る理由がないとしても付き合ってしまうと磯貝くんをからかえなくなってしまうからだ。それに中学生男子なんて外見で相手の良し悪しを決めてるようなものだしこっちから願い下げよ。小学校のころの女子たちは『駆け足が早い男子』を好きになっていたし、モテる基準ってわからないわよね。
え? もし彼が本気で私のことを好きになったらどうするのかって? 一応付き合うかな。でも一緒にいて楽しくなかったら別れる。最低? だってこれはゲームだもん。磯貝くんが私を好きになったら勝ち。そういう駆け引きが好きなの。そもそも付き纏われたくないなら断るでしょ。だから満更でもないんじゃない?
別に石下先生の見た目がどうとか貶すわけじゃなくて、会ったこととサインをクラスの人たちに自慢したいのだ。でも金持ちにもできないことがあるんだな……
せめておもちゃである磯貝くん……いや、文仁くんともう少し距離を詰められたら……これくらいなら無茶なお願いでもないし上手くいってくれるといいな。
私は友人への言い訳を適当に考えながら、新たな作戦を練り始めた。
…
……
「今日から同じクラスだね。文仁くん一年間よろしく」
「よ、よろしく……」
文仁くんの引き攣る表情を見て満足した私は自分の席に戻る。今回は作戦が成功して何よりだ。
石下先生との面会を諦めた私はタイミングを見計らい、来年度文仁くんと同じクラスになるよう親に頼み込んだのだった。もちろん理由を尋ねられたので、ほどほどに仲の良い女生徒も交えてカモフラージュもした。自分の利益の為だと頭の機転が早くなる。その分勉強はそこそこだけど。
同じクラスになったことで私はさらに文仁くんとの距離を詰めていった。バスケットボールのルールを叩き込み、時間の有る限り彼の練習試合や公式戦の会場に出向いた。スポーツは学校の体育の授業と筋トレくらいしかやっていないけれど、観るだけでも結構楽しいものなんだと認識した。
夏休みに開催された全国大会の決勝戦。そのとき私はモデルの仕事でどうしてもその場に駆けつけることができず心配でたまらなかった。しかしスマホで試合結果を確認した瞬間、周りの目が気にならなくほど夢中になって喜んだ。彼の実力は十二分にわかっているつもりだけど、優勝するとなると実感が湧かない。
決して自分が戦っているわけじゃないけれど、彼の『青春』ってやつを少し貰ってもバチ当たらないよね?
世の中学生が受験を意識するころ、文仁くんが有名私立高校のバスケ部からスカウトされたと小耳に挟んだ。
学校法人若葉善越高等学校。若葉のように青々と逞しく勉学に励み、善意を尽くし、己の可能性を越えてほしいと言う意味で名付けられ、特待制度とスポーツ推薦を備えており、有名国立大学入学の選出とオリンピック選手の出身校として都内トップの実績をもっている……らしい。『らしい』とあやふやにしたのは、文仁くんの通う学校であればどこだって構わないから。それなりに偏差値の高い学校のことだが、金さえ積めば誰でも入学できるとあって即決した。私立の高校というだけあって、内装と設備は豪華で充実しているので過ごすのに問題なさそうだ。
「私、文仁くんが好きだから一緒の高校に行きたいな」
九月の学校の廊下。彼の腕を掴みながら水道のある場所に引き込んだ。そしてその腕を引っ張り、彼の身体を傾けつつ私は背伸びをして耳元で囁く。
驚いたかしら。本当は好きでもなんでもないんだけど。都合良いおもちゃを手放してたまるものですか。しばらく私の退屈しのぎに付き合ってもらうわよ。
早速両親にこのことを伝えるとふたつ返事で了承してくれた。やっぱりひとり娘のわがままなら聞いてくれるのね。親も親で将来役に立つ私立高校の進学を喜んでいるようだった。
文仁くんには小学生の妹がいるらしい。家族写真を見せてもらったけど、あまり文仁くんに似てない。理由を尋ねると彼は母親に、妹ちゃんは父親に似ているそうだ。髪型はツインテールで写真越しでもツヤツヤと輝いている。
彼に出会うまで私はショートカットだった。髪型なんて気分次第でウィッグをかぶれば良いしなんでもいいと思っていたから。でも写真を見せてもらってから少しずつ伸ばしていった。
結べるようになると彼の妹ちゃんになれたようで嬉しかった。
文仁くんはこのことに気づいているのかしら。
中学の昇降口をくぐり抜け、自分の教室に入ると名前を思い出せない女子が話しかけてきた。あまり応える気分でもなかったが、無視するわけにいかないので笑顔を作る。
「うん、おはよ!」
「エルちゃんさ、昨日新刊買った?」
「『てんなが』でしょ!? もちろんだよ!」
私は興奮気味にそう言うと、学生鞄から表紙の光沢が眩しい購入ホヤホヤのコミックスを取り出した。娯楽用品の持ち込みは校則で禁じられているが、教師に目撃されなければ問題ないし、周りのみんな同じことやっているもの。
『てんなが』こと『天使のはしごをながめたら』。私が小学生のとき夢中になったウェブ小説をコミカライズしたものだ。王道の恋愛ドラマであるものの『主人公らしくない女の子』というネタがウケてもちろん書籍化もされている。
文庫本などの小さい文字を読むのは苦手だが、横文字を目で追う分なら問題ない。連載当初は更新が待ちきれなかったものだ。
「来月のサイン会って参加する?」
「当たり前じゃん! チケット頑張って取ったもん!」
「いいなぁ。私ハズれちゃってさぁ。でもめずらしいよね。ネット越しでやるだなんて」
彼女の言う通り、今回のサイン会はリモート形式で行われることになった。
抽選で当選した名前を生放送の画面上で先生がその場で書き、スタッフが確認したファンの家の住所まで後日郵送するシステムとなっている。
彼女はチケットを獲得できた私に嫉みと羨みを含んだ眼差しを送りながら言う。
「仮にそれが熱中症対策だとしても、アニメ化記念だから直接会いたいに決まってるよね?」
「動画サイトで先生のチャンネル動画チェックしてるけど、全部顔出ししてないよ。編集で石のイラストが顔の部分に貼ってあるんだよね」
「そうなの? 『石下こいわ』って名前だから?」
「たぶん。名前からして性別すらわかんないけどね」
タイトルに『天使』があることもあって、私は人一倍作品を応援していた。ウェブ小説時代のブックマーク登録、レビューの書き込みはもちろん、書籍化された際は自分用、保存用、布教用に三冊持っている。コミカライズの月刊誌は必ず購入して読み込んでいるし、『てんなが』の知識なら誰にも負けない自信があった。
友人は私から渡されたコミックをパラパラとめくるとボソッとつぶやいた。
「性別ねぇ……恋愛小説書いてるんだから十中八九女じゃない?」
「でも少年マンガを書いてる女性は何十年も前からいるし今更関係ないかもよ」
「まぁ、そうねぇ……」
顔出しNGと言っている人ほど見たくなるのが人間の性である。どうにかならないかしら。
「石下先生に会えるかどうか親に頼んでみようか? サインもらってくるよ」
「え!? 本当に!?」
彼女の驚きと喜びに満ちた声が私の心臓にスッと染み渡る。自己肯定感が急上昇し、自然と声も大きくなった。
「私の両親いろんな方面に人脈あるからさ。前に芸人さんのメッセージビデオ見たことあるじゃない? 今回もたぶんできるんじゃないかな」
「あぁ! そのとき大人気だったコンビだよね! うちらのクラスだけじゃなくて、他のクラスの人たちもエルちゃんのスマホを取り合いしてたもん」
あのときはたまたまその芸人がオフということもあり交渉成立したのだ。しかも父が営業でもらえる給料の十倍近くのお金を支払ったらしい。父に直接聞いたわけではないが、家計簿をこっそり見たときそれだけのお金が『交際費』として加算されていた。
マネージャーに迷惑をかけてしまったが、相応以上の見返りをお互いもらったので文句は言わせない。
ちなみに取り合いしていたスマホはその日のうちにスマホショップで掃除してもらった。
「じゃ、今日親に掛け合ってみるね。来週にはわかると思う」
「うん! 楽しみにしてる! あ、先生来た」
「ホントだ。それじゃあね」
彼女からコミックを受け取り自分の席につくと、折り目がつかないよう学生鞄にしまった。一時間目の教科書を机の上に置いたタイミングで担任が教室に入ってくる。相変わらず生気のないジジイ。将来あんな男と結婚したくないな。
狸の皮算用じゃないけれど、今まで誰も見たことない憧れの作家さんに会えると思うと楽しみでたまらなかった。
…
……
「ねぇ、お母さん! どうしても無理なの!?」
「うーん……こればっかりはどうしようも……本当にゴメンね」
「むぅ!」
1週間後、私のお願いを絶対叶えてくれる母が初めて反抗した。自らの頬に空気を目一杯含ませ、フグのように膨らませる。母は私の頬を両手のひらで挟んだあと、栓のしていない風船のように空気をシュルシュルと逃し仕事へと戻った。
山のように積み重なっている机上の書類を破きたい衝動に駆られたが、怒られることは目に見えているので必死に堪える。
「もういいよ! お母さんのバカ!」
「はいはい。忙しいからまたあとでね」
「イーッだっ!」
私の抵抗も虚しくサラリと躱され、ドアの前まで歩み寄り振り返ると、捨て台詞のごとく両人差し指で口の端を引っ張り猿のごとく威嚇した。もちろん母には子犬がそっぽ向いてるようにしか見えていないんだろうけど。
あしらう母に憤慨しつつ、これ以上争っても時間の無駄だと判断した私は母の書斎を後にした。
自室に戻ると真っ先にクイーンサイズのベッドにダイブする。シルクの感触を存分に味わうと、うつ伏せから仰向けに体制を変え寝そべった。
どんなチカラを駆使しても断られるだなんて……あの子になんて説明しよう。
むしろイベントスタッフもメールのやり取りのみで、ほんの僅かな人間としか顔を合わせていないそうだ。
十日前、書店で磯貝くんに自分の生き方を否定されたことも相まってイライラは募るばかりである。あれから休み時間のたびに彼のクラスを覗いてはちょっかいをかけて反応を楽しんでいた。
時々その当てつけとばかりに、他の男子から告白されるが文字通り全て一蹴している。断る理由がないとしても付き合ってしまうと磯貝くんをからかえなくなってしまうからだ。それに中学生男子なんて外見で相手の良し悪しを決めてるようなものだしこっちから願い下げよ。小学校のころの女子たちは『駆け足が早い男子』を好きになっていたし、モテる基準ってわからないわよね。
え? もし彼が本気で私のことを好きになったらどうするのかって? 一応付き合うかな。でも一緒にいて楽しくなかったら別れる。最低? だってこれはゲームだもん。磯貝くんが私を好きになったら勝ち。そういう駆け引きが好きなの。そもそも付き纏われたくないなら断るでしょ。だから満更でもないんじゃない?
別に石下先生の見た目がどうとか貶すわけじゃなくて、会ったこととサインをクラスの人たちに自慢したいのだ。でも金持ちにもできないことがあるんだな……
せめておもちゃである磯貝くん……いや、文仁くんともう少し距離を詰められたら……これくらいなら無茶なお願いでもないし上手くいってくれるといいな。
私は友人への言い訳を適当に考えながら、新たな作戦を練り始めた。
…
……
「今日から同じクラスだね。文仁くん一年間よろしく」
「よ、よろしく……」
文仁くんの引き攣る表情を見て満足した私は自分の席に戻る。今回は作戦が成功して何よりだ。
石下先生との面会を諦めた私はタイミングを見計らい、来年度文仁くんと同じクラスになるよう親に頼み込んだのだった。もちろん理由を尋ねられたので、ほどほどに仲の良い女生徒も交えてカモフラージュもした。自分の利益の為だと頭の機転が早くなる。その分勉強はそこそこだけど。
同じクラスになったことで私はさらに文仁くんとの距離を詰めていった。バスケットボールのルールを叩き込み、時間の有る限り彼の練習試合や公式戦の会場に出向いた。スポーツは学校の体育の授業と筋トレくらいしかやっていないけれど、観るだけでも結構楽しいものなんだと認識した。
夏休みに開催された全国大会の決勝戦。そのとき私はモデルの仕事でどうしてもその場に駆けつけることができず心配でたまらなかった。しかしスマホで試合結果を確認した瞬間、周りの目が気にならなくほど夢中になって喜んだ。彼の実力は十二分にわかっているつもりだけど、優勝するとなると実感が湧かない。
決して自分が戦っているわけじゃないけれど、彼の『青春』ってやつを少し貰ってもバチ当たらないよね?
世の中学生が受験を意識するころ、文仁くんが有名私立高校のバスケ部からスカウトされたと小耳に挟んだ。
学校法人若葉善越高等学校。若葉のように青々と逞しく勉学に励み、善意を尽くし、己の可能性を越えてほしいと言う意味で名付けられ、特待制度とスポーツ推薦を備えており、有名国立大学入学の選出とオリンピック選手の出身校として都内トップの実績をもっている……らしい。『らしい』とあやふやにしたのは、文仁くんの通う学校であればどこだって構わないから。それなりに偏差値の高い学校のことだが、金さえ積めば誰でも入学できるとあって即決した。私立の高校というだけあって、内装と設備は豪華で充実しているので過ごすのに問題なさそうだ。
「私、文仁くんが好きだから一緒の高校に行きたいな」
九月の学校の廊下。彼の腕を掴みながら水道のある場所に引き込んだ。そしてその腕を引っ張り、彼の身体を傾けつつ私は背伸びをして耳元で囁く。
驚いたかしら。本当は好きでもなんでもないんだけど。都合良いおもちゃを手放してたまるものですか。しばらく私の退屈しのぎに付き合ってもらうわよ。
早速両親にこのことを伝えるとふたつ返事で了承してくれた。やっぱりひとり娘のわがままなら聞いてくれるのね。親も親で将来役に立つ私立高校の進学を喜んでいるようだった。
文仁くんには小学生の妹がいるらしい。家族写真を見せてもらったけど、あまり文仁くんに似てない。理由を尋ねると彼は母親に、妹ちゃんは父親に似ているそうだ。髪型はツインテールで写真越しでもツヤツヤと輝いている。
彼に出会うまで私はショートカットだった。髪型なんて気分次第でウィッグをかぶれば良いしなんでもいいと思っていたから。でも写真を見せてもらってから少しずつ伸ばしていった。
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文仁くんはこのことに気づいているのかしら。
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