仕事も恋も

宵月

文字の大きさ
上 下
6 / 6

カンパリソーダ

しおりを挟む
社員寮に着くと手続きをしてる人がちらほらいた。


と言っても私を含めて3人だが。


私は管理人室に声を掛けた。


「佐滝さんじゃない。クリスマスぶり?」


「そうですね。さすがにジューンブライドまではここにいようと思って。」


「本当に働くのね…!過労死しないでよ?」


「もちろんですよ。その程度では死なないくらい体力はあるので。それにその分9月10月は休みますから。」


目の前にいるのは社員寮の受付を担当している七海さん。


さすがに5年もいると顔を覚えられるもので繁忙期だけ泊まるひと、と覚えられている。


「待ってね。4階でもいいかしら?」


「全然構いません。」


「そう言ってくれると助かるわ。今回は棗ちゃんもいるわよ。」


「あ、そうなんですね。同じ階ですか?」


「409号室よ。ちなみに佐滝さんは408号室だから同じグループね。」


「エレベーターから近いのはありがたいですね。」


「そうでしょう?はい、鍵。」


そう言って手渡されたのは番号の書かれたタグ付きの鍵だ。


それと一緒にロビーを開けるための鍵と自室の鍵もタグについている。


「電話番号の変更はない?」


「変わりないです。」


「はい。じゃあOKよ。食事は?」


「適当に作ります。時間も安定しませんから。」


「じゃあ必要な時は声かけてね。大抵みんないらない人でまとめちゃったから。」


「ありがとうございます。」


タグについた1つ目の鍵でロビーを開けてエレベーターへと乗り込んだ。


室内に入るとまだ誰も居ないのかすごく静かだった。


5人用それぞれの部屋と、共有スペースしかない部屋を軽く覗く。


共有スペースも人はいないし、個々の部屋にあるシャワーなんかも使っている気配がない。


407号室に入り、まず最初に荷物をソファに置いた。


と言っても普段着と寝巻き程度しかないのだが。


アウターだけはハンガーにかけて収納に入れる。


カーテンを開けて、ちょっと早めについたこの時間を楽しむ。


部屋に置いてあるビーズの入ったクッションソファに座り込むと少しだけ力が抜ける。


勤務時間まではかなりあるのでこの時間に睡眠を取ろう…と眠気のかかった頭で考える。


瞼が落ちた頃にはすっかり機能しなくなっておりそのままゆっくりと、深く、落ちていった。





朝の光はいつの間にか消えて、昼の強い日差しがカーテンから入り込む。


少し眠るつもりが日差しが本当に刺すようになるまで眠ってしまったようだった。


まだ誰もいない共有スペースで水を飲もうと陶器のカップを持っていく。


よくできたそのカップにはスプーンがついていて手持ちの部分に刺さっている。


そこに水道の水を注いで飲む。


乾いた喉が、一瞬で潤ったような気がした。


すると玄関の方で音がする。


棗だろうか…それ以外の人?


誰にせよ挨拶を…とおもい玄関まで駆け足で歩いていった。


「あっ、佐滝さんだったか。」


目の前に居たのは金多さんで何かと多い荷物で来ていた。


「…金多さん約2ヶ月だけですよね?」


「え?うん。遊ぶもの持ってきたよ?トランプもある。」


「…そういう事ではなくて。」


手には2つバッグを持っており、着替え以外にも何かあるんだろうな…みたいな感じだ。


「なっちゃん来てないの?」


「いえ、まだ…」


「呼びました?金多さん。」


噂をすれば影とはこのことで金多さんの後ろからひょっこりと顔を出したのは棗だった。


「やっぱりいつもの3人だよねぇー。ってことは長岡ちゃんも来るのかな。なっちゃん夜から?」


「いやいや!昼から…ですよ!」


「うっそ…棗、何時?」


「えっと…14時ね!」


「あと1時間…」


「だから、急いで準備する!」


「頑張ってね棗…」


揃ったのは同期メンバーである人達。


大抵年ごとで入れられたり、同じ仕事担当で分けられたり。


そんな感じで大家さ…管理人さんが部屋割りを決めるのだ。


この時期は確かに多いのでそうした方が問題も起きず楽なのだ。


「彩芽と金多さんと長岡さんは分かるけどもう1人誰かしら?ラウンジはもう居ないでしょ?」


「そうだね…他はみんな都内寄りに住んでるから」


「佐滝さん荻窪だっけ?」


「はい。」


「乗り換え大変でしょ。」


「定期使ってるのでいいんですけど…直通が欲しくなりますよね。金多さんどこでしたっけ。」


「僕は新横。だから何かあった時には呼ばれても行けない距離なんだよね…」


「あぁ…トラブル対応って一応管理職の仕事の内ですからね…」


棗はそんな話をしている間にいつの間にか荷物も何もかも置いてきてなおかつ仕事着に着替えていた。


「じゃあ行ってくるね!私、14時からなの!」


「棗、頑張ってね。」


「棗ちゃん夕飯は?それによって長岡ちゃんに頼んどくけど~」


「私、今日夜番なの!だから大丈夫!」


「了解~」


2人で棗を見送りして金多さんは自室へ、私は置いてあるコーヒーメーカーを使おうとする。


フィルターを折り畳みながら、コーヒー豆がないことに気づいた。


「あ…今日持ってこなかったっけ。」


そこでやっと、コーヒー豆を持ってきていないことに気付く。


カップをそのまま机に置いたまま、自分の部屋へ行ってスマホで調べ物をする。


コーヒー豆が売ってるところ。


それは、自分だけの時間を楽しむためには大切なもので、なくてはならないものだった。


駅ビル内にあるらしく、私はそこへ向かうべく小さなバッグに財布を入れて廊下へとでる。


「すみません、買い物行ってきますね。」


「了解~。」


金多さんに声だけかけて私は玄関で靴を履く。


そしてドアを開けて外へと出た。


「わっ…!」


開けて外へと出た瞬間、目の前には人がいて。


私はびっくりして1歩、後ずさる。


「すみません…不注意で…」


「いえ…こちらこそ。」


顔を上げて見た先にいたのは、甲斐中さんだった。


「か、甲斐中さん?!」


「昨日の方…ですよね。」


「も、もしかしてこの部屋ですか…」


「はい、しばらくの間だけですが…」


2人して驚きすぎて言葉が出なくなる。


そこで私ははっとしてなんのために外に出たのか思い出す。


「ごめんなさい、私買い物に行かなくちゃで…帰ったらまた挨拶させてください」


「あぁ…引き止めてしまって申し訳ありません。では、また後で。」


私は部屋からぱっと離れてエレベーターへと向かった。





~カンパリソーダ~

・カンパリ
・ソーダ
・スライスオレンジ

苦味と仄かなハーブの香りが特徴のカンパリ。
色も鮮やかで目でも楽しめるお酒です。
それを爽やかなソーダで割ったお手軽なカクテル。
ソーダで割っているため度数もそこまで高くなく飲みやすいです。
好みでオレンジをレモンにしても美味しい。
居酒屋やバーで名前だけは見たことある人も多いのでは。
しおりを挟む

この作品の感想を投稿する


処理中です...