王子の愛したバラ

宵月

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愛と救い

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ある国の村娘は他国の王子からずっと愛を伝えられていた。

他国の王子は優秀な人間で次期国王になるのではと期待されている様な人だった。

その一方で村娘は美しいながらも村からも、家族からも疎まれていた。

肌も、髪も真っ白なのに、瞳だけ赤い。

村ではこう呼ばれていた。

『吸血鬼の子供』と。

村に厄災を与えると村人達は言う。

彼女はそんな小さな事で忌み嫌われ、石を投げられていた。

でもある時に王子が辺境の村であるここに来て彼女に向けて言った。

「貴女を一目見て、私は恋に落ちた。私の妃になってくれないだろうか。」

村娘は環境のせいで疑り深い人間だったため嘘だと思い王子から逃げた。

信じられるはずがなかった。

人に愛されたことの無い彼女には信じられるはずがない言葉だった。

王子はそれでも諦めることなく彼女に伝え続けた。

決まっていつも手紙と一緒に少し色褪せた赤い薔薇が4本赤いリボンに結ばれている。

彼女も最初の頃は捨てていたが途中から少しだけ、楽しみになる様になった。

花を家の花瓶に飾り生活感のない部屋が少しだけ色付いた気がしたからだ。

その頃から、村では人が消えるという事が起きていた。

そして見つかるのは必ず首を切られていて血がほとんど無くなっている死体ばかりだった。

しかし付近には血液が散ったような形成は無く人によっては腕に無数の注射針の跡が残っているような死体ばかりだった。

まるで、血を狙っているかのように。

吸血鬼の子供と呼ばれていた彼女は真っ先に疑われた。

村人達は彼女を牢に入れようと彼女を痛めつけ、捕らえた。

痣だらけになり酷く痛めつけられた体は傷も出来ていて赤い血液が色白の肌に酷く無惨にも流れた。

そこへ、他国の王子が来て村の騒々しさに何事かと声をかけた。

村人達は彼女が村人達を殺していると言うような内容を彼に話した。

もちろん彼女は覚えのない事ばかり並べられていて村人達に怒りを見せた。

「罪人はお前らの方だ。何も知らない人間を見た目だけで決めつけて。」

彼女はそう叫んだ。

喉が開ききって掠れた声は村人たちを怯えさせた。

王子は話を全て聞き終わったあと彼女に手を差し伸べて村人達にこう言った。

「この娘を私の監視下に置けばいい。彼女は私に任せてくれないだろうか。」

村人達はざわめいたが王子の説得で彼女は王子に身柄を預けられた。

村から離れ、王子は彼女にもう大丈夫だと伝えた。

傷だらけの彼女は特に酷く裂けた右腕を左手で庇いながら泣いた。

もう殺してくれと咽び泣いた

王子は彼女を抱きしめてもう一度囁いた。

「私は貴女に恋をしたんだ。恋仲じゃなくてもいい。せめて隣に居させてくれないだろうか。」

彼女は小さく頷いた。

もう生きることすらどうでもよかった彼女は何も考えないまま。

まるで蜘蛛の糸にでも縋るが如く。

王子は彼女にドレスも、アクセサリーも、居場所も与えた。

もちろん監視、という名目上彼女には兵士や付き人が必ずついていたが。

薄いオレンジのカーテンをメインに暖色で彩られた部屋。

そしていつも送られていた赤い色褪せたバラが花瓶に生けられている。

それはまだ蕾でいつも通り4本。

花が開いていないのにそれだけで鮮やかだった。

村娘はその部屋で1人静かに過ごした。

慣れないドレスを引きずりながら。

王子は毎日、部屋に会いに来ていて毎日、赤い薔薇をくれた。

その花を花瓶に飾ってくれて娘はいつも喜んでいた。

そんな2人の平穏な日々は続いた。

しかし、村の悲劇も同じように長く続いた。

30何人と居た村人はもういつの間にか1桁になっていて逃げた村人も少しずつ殺されていた。

やはり血液のほとんど無い変死体ばかりが見つかって少ない村人達は恐怖に震えていた。

村はその後、村人が1人も居なくなって廃れたそうだ。

その事を王子は村娘に伝えた。

村娘は悲しがる素振りも喜ぶ素振りもなく、ただ一言だけ、「そう。」と言った。

寂しそうなその姿を見ても誰も悲しんでるとは思いはしなかった。

もう裂けていない血もでていない右腕を、彼女は撫でた。

もう長く続いた王子との生活。

それも、崩れるのは一瞬だった。

まるで、花が散るのと同じ様に。

村娘はいつものように渡された花瓶と4本のバラを部屋に飾ろうとした時だった。

カーペットに足が引っかかりそのまま花瓶を落としてしまったのだ。

花瓶が割れると中から出てきたのはバラと水…ではなくバラと、赤い液体だった。

新しい色に染めるかのようにカーペットに染み込んでいく。

赤黒くゆっくりゆっくりとオレンジのカーペットに染み込んだ。。

彼女は王子を呼んで問い詰めた。

「これはどういうことなの?花に血を与えるなんて!この血は誰のものなの?!」

彼は子供のように笑って答えた。

「それも、大切な貴女へのプレゼントだよ。それは貴女のことを傷つけた彼らの血なんですから。」

その言葉で子供のように笑った顔も歪んで見えた。

王子は彼女を抱きしめた。

「これで、貴女を傷つける人はもういるはずが無い。もうこの世には居ないのだから。だからほら。私と一緒に暮らそう。貴女はもう傷つく必要は無いんだ。」

村娘は怖くなり王子を突き飛ばした。

でも逃げられない。

狭い部屋の中では外に出ることすら出来ない。

村娘は必死に来ないでと叫んだ。

最初の頃よりずっと酷い、拒絶。

王子は寂しそうな表情になりながらも彼女に近づく。

そしてもう一度、彼女に同じ言葉を伝えた。

「私は、貴女を一目見て恋に落ちたんだ」と。

彼女に手を差し伸べても村娘は手を払い除けて小さく震えた。

村娘はもう、王子を信用出来なくなっていた。

王子は嘆いた。

「貴女は、私のものにはなってくれないのか。」

そして、村娘を無理やり抱きしめて言った。

「大丈夫。もう私達は永遠に一緒に居ることになるのだから。」

王子は花瓶の欠片を握りしめて彼女の背中に突き刺した。

「怖い輩はもう会うことなどないのだから。ずっと…永遠に私だけと過ごすのだから。」

村娘は混乱したまま王子を見つめた。

異常な痛みと、恐怖。

村娘は嫌だ、嫌だと泣き叫んだ。

その度に傷口が開く感覚がする。

王子はそんなことを聞くことはなく左胸の近くにも花瓶の欠片という凶器を突き刺した。

そして先程よりも優しく彼女を抱きしめた。

動くこともできない村娘はそれを受け入れる他なかった。

「すぐに会いに行きますよ。貴女の居る場所へなら。どこへでも。」

村娘はパタリと動かなくなってしまいそんな村娘に王子は愛しそうにキスをした。

彼女をベッドへと寝かせて左胸の傷口の近くに4本のバラを置いた。

そしてまだ残っていたバラを全て、部屋に置いた。

「ねぇ、お姫様、4本のバラの花言葉は『死ぬまで私の愛は変わりません』なんですよ。でも…それじゃ足りない。」

バラは部屋中に散らばる。

白く中途半端なバラも。

「そして見つけた。1001本のバラは『永遠に』という花言葉なんだ。」

そして部屋はひどく凄惨で鮮やかだったカーテンも血飛沫の色に染る。

王子は村人達から採った血液を入れ物ごとひっくり返したのだ。

むせ返るような血潮の色と香り。

それはバラの香りと混ざり甘ったるく沈んだ。

王子は眠った村娘を抱きしめてもう一度、花瓶の欠片を握りしめた。

そして、自身の首元に突き刺した。

肌が裂けて白い花瓶の欠片にぽたぽたと赤い血が流れる。

優しく撫でた髪は、肌は、もう温もりも感じない。

残った彼女の血液のみが生温く、生きていた証明だった。

瞼ももう、開くことは無い。

「でも…これから貴女の事を寂しくさせるつもりはないから。」

村娘の血と自身の血で汚れた手で村娘を抱きしめた。

強く握られた花瓶の欠片は王子の手にも傷を作り絶え間なく流れる。

それは村娘の淡い色のドレスをすぐに染めた。




静かで、酷い光景のこの部屋で、王子は亡くなった。

愛しそうに村娘を抱いたまま。

花は萎れ、まるで死地のようだと使用人達は言ったそうな。
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