もし明日、死ねるなら

宵月

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発芽不良

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「…で、お兄さんさぁ、動かないの?」

「せっかくなら寝て終わりたい。」

「本気で言ってるのそれ。」

「結構本気。」

ベッドの上で大の字に腕を広げる。

昼の中微睡むのはいつぶりだろうか。

休みの日も結局部屋の掃除や買い出しや帰った時食べれる非常食を作るのに精一杯で夜になれば重力に逆らわず寝たが。

明日死ぬならそんなことを考えなくてもいい。

繰り返した日常は今日で終わりだ。

いっそ2日くらいなら食べなくても死にはしない。

使い古されて飽きたネタばかり使ったギャグ漫画のような日常だった。

ただ、こんな最後の生き方をすると思ってなかったが、あるもの、なのだ。

他人事のように思う。

「死ぬ場所選びとかさ、大好きな人に会いたいとかさ、余ってるお金を使い切るとかさ、なんかないの?」

「なんにもないんですけど。」

「…えー面白みに欠けるね君。」

そんな面白さで食えるならやってるよと、そんな面白さでもう少しマシに生かしてくれるならやってるよと思うけれど。

伝えたのは紛れもなく目の前にいる少年だ。

「君はなんというか、そうだなぁ。発芽不良を起こした種みたいだ。」

「は、え、なんて言った、はつが…」

「発芽不良。種の殻が硬すぎて腐ったり土にある水の量が多くて腐ったり寄生虫に中を食べられてたり。」

言われたことを自分に当てて思わずゾッとするが言われる通りで笑えない。

「最後になって死にたくないなぁってなるようにさせたいんだよ僕は。ほら、その時の花ほど綺麗なものはないだろう?」

この少年の例え話はあまりにも癪に障る。

でも言い返す気も起きない。

「それを見てなんになる。」

「僕が楽しい。」

「…生憎俺はその期待には答えられそうにない。」

顔面に落とした枕が暗闇に引きずり込む。

「もう一度生きたいと思うなら勘違いだ。」

埋もれた声が誰にも届かず消えていく。

もし明日死ぬなら、か。

なにも考えたことがなかった。

死ぬなら今すぐだ、と思ってばかりだったからだ。

死ぬこと以外考えることはなかった。

「お酒。」

「飲みたくはない。」

「ドライブ。」

「車借りろと。」

「彼女。」

「居ない。」

「高級料理。」

「食欲がない。」

「電車の旅とか。」

「何その青春感。」

「カラオケ。」

「1人では虚しいじゃん。」

「いっそキャバクラとか。」

「興味無い。」

この少年の見た目からしたらおかしい発言が飛んできたがあしらう。

別に遠くに行くとか、美味しいもの食べるとか、したくない訳では無い。

でも明日死ぬのに思い出作って何になる。

冥土の土産はまだ持つには早い。

あげる人も居ない。

手でとっぱらった枕で跳ねた前髪が目にかかる。

かかるなんてものじゃない。

目に刺さる、の間違いだ。

思わず目を擦って落ち着く頃に目を開くけれどやっぱり少年はいる。

こんなんだし夢だろって思ってたけどそうでは無いらしい。

「何ならいいのさ。」

「…なんもしたくはないよ。」

「明日なんだよ?24時間ちょっとしかないんだよ?」

「ないんだ。」

「ないんだよ。君に残された時間は事実少ないのさ。だと言うのに君はその30分程を今ここで無駄にしてる訳だ。」

バッサリと無駄と言われればどっかはぁ、と腑に落ちない自分がため息をつく。

「多少の願いなら叶えてあげようと思うのにそれすら言ってくれない人がいるなんて。やだやだやーだぁ。縋ってくれないと面白くないって言うのに。」

段々とこの少年の素が出てきてる気がする。

「ならまだ死にたくないって叫びながらどっか高い場所からでも、今すぐに、飛び降りればいいの。」

その言葉に苛立ちが出てきて思わず悪態が口から出る。

「時間を違えるのだけはやめてくれよ。僕が怒られるんだから。」

知るか、と呆れ半分で思う。

どうしてもこの少年の言葉は、癪に障る。

何度も思うが、癪に障る。

何もかも知ってるかのような口振りで俺に話しかけてくるから。

実際、知っているのだろうか。

「でもね、別に僕は君が死にたいと願うなら、止めないよ。」

その言葉を聞いて、思わず少年を見る。

笑っていた。

「何年も眠るより、全然マシだろう。きっとね。」

その言葉は日付が変わっても分からないままだ。

笑っていた少年を見たくなくて天井から壁に視線を移して目を閉じた。
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