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1.王子様の正体
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シンデレラ、様々な国で人気を博す虐げられた娘が王子様に見初められるストーリー。
私も幼少期には楽しく読めた御伽話。母が亡くなり父が迎えた継母と連子の姉二人に虐げられるまでは⋯⋯。
周囲は私をシンデレラと呼んだ。ならば、ハッピーエンドが確約されてるはず。
そんな日は来る事がないと諦めて初めて参加した舞踏会。
ビビデバビデブーの杖で変身させて貰える訳ではない私は見窄らしい古いドレス姿。三十年も前の品だから仕方がない。私は継母イライザの意地悪で義姉二人の引き立て役になるはずだった。
そんな私をダンスに誘って夢を見させてくれたドードリッシュ王家の第一王子ジスラン。艶やかな黒髪に一度見たら忘れない琥珀色の瞳。色っぽい泣きぼくろがまた素敵。
ダンスが終わるなり、彼は世界を揺るがすプロポーズを私にする。私を虐げてきた人間たちがひっくり返るような驚きの展開。ジスランは私にとって救世主。
父が亡くなってから、継母や義姉に虐げられてきた。でも、神様は歯を食いしばり愛を信じる私を見ていてくれた。
死にたくなるような思いもしたけれど、やっと私は幸せになれる。
明日の結婚式の事を思いながら、姿見に自分の姿を映す。眩いばかりの金髪にブルーサファイアの瞳。亡くなった母に似た美しい顔立ち。見目麗しい十八歳のシンデレラはこの私。
母に似た顔立ちを何度も恨んだ。父と母を失った悲しみを分かち合いたかったが、母に似ている私を見たくないと遠ざけられた。義姉たちからは私が父と全く似ていないと難癖をつけられ、虐められる。
そんな日々ともおさらばだ。
今日は明日の結婚式に備えてドートリッシュ王宮に滞在している。今晩は客室で眠るが、明日からは王子妃の部屋に移動するのだ。新しい生活を想像しては夢が膨らむ。
この部屋でさえ、調度品一つとっても私の目でも分かるくらい一流。ベッドもふかふかで天蓋までついている。窓のカーテンも分厚い生地で明らかに高価そうだ。
もっとも、私が求めているのは王宮での豪華な生活ではない。ずっと夢見ていた愛する人と暮らす穏やかな生活。私はジスランと温かい家族が作りたい。
ふと鏡台の鏡に映っている自分の姿が見えた。
黄金を溶かし込んだような金髪に、思慮深そうなブルーサファイアの瞳。
何度見てもなかなかいない美しく聡明な令嬢、それが私。
この国の第一王子であるジスラン・ドードリッシュが一目惚れするわけだ。
「鏡よ、鏡、この世で一番美しいのはだあれ」
有頂天の私が鏡に問いかける。
すると目の前に現れたのは私に似た疲れ果てた女。
「はあ、まだ貴方はそこにいるのね。羨ましいわ。フェリシア・シャリエ!」
「この鏡おかしくなったかしら?」
私は軽く鏡を何度か叩いた。すると鏡の中の私に似た女が怒り出す。
「いい加減にして! 苦労して貴方の前に現れてあげたのよ。フェリシア・シャリエ!」
眼前の鏡は鏡ではないのかもしれない。
自分で自分を触ってみても、鏡の中の私は同じ動きはしない。
「すみません。私、巷ではシンデレラと呼ばれてるんですが、出てくる話を間違えてないですか? その⋯⋯スノウホワイト的なものと⋯⋯」
私の言葉に鏡の女は呆れたように溜息を吐く。
確かに私も調子に乗っていたのは認めるが、うんざりしているのは私の方だ。
明日は私の人生最良の日なのに、目の前のよく分からない女に付き合わされている。
「さようなら、鏡の中の人! お肌の調子と明日のジスランとの熱い夜に備えて私寝ます!」
「熱い夜ね? 確かにあの夜だけはそうだったかもね」
含みを持たせるような鏡の女の口振りが引っかかった。
「あの夜だけは?」
「言葉の通りよ。初夜が明けた後の、ジスランは酷いものだったわ。周りにはいない芋っぽい君に惹かれたが、夜まで芋かって馬鹿にしたように笑ったの」
「ジスランを知っているのですか?」
私の言葉に鏡の女が頷く。
ジスラン・ドートリッシュ。私を救ってくれた王子様だ。彼に見初められた事で私の人生は激変した。というか、これから劇的に人生が好転する予定。
継母を中心とした連合軍により虐げられた男爵令嬢フェリシア。しかし、彼女の美しさに一目惚れした王子がいた。そんなこんなで二人は結婚し、末長く暮らしましたとさ。
「ハッピリーエバーアフターはないから」
鏡の女は私の心を読んだように呟いた。
「えっ、でも、ジスランと私は愛し合ってますよ。まさか、私が一晩で飽きられると?」
「そうよ。さっきも言ったじゃない。元々、ジスランは相当な遊び人よ。派手な女ばかりに囲まれて来たから、芋女の私が気になっただけ」
「そんなバカな!? 私は洗練されてないけれど、放って置けないような可愛さがあります」
鏡の女が自分に似ているせいか、恥ずかしい事を口走ってしまう。
「放って置かれるのよ。残念ながら⋯⋯。私は一年後のフェリシア。今、彼は私に見向きもしない。移り気な彼は特別な力を持った聖女にハマった次は洗練された侯爵令嬢にハマる。最近は毎晩ワンナイトの相手を呼ぶ日々ね。それは結婚前からだったみたいだけど⋯⋯」
私は鏡の女の話に動揺を隠せなかった。ジスランがそんな遊び人だという話は聞いたことがない。もっとも、私のようなギリギリ貴族のような令嬢にまで王族の夜の事情の噂話は回ってこない。
私は一呼吸して、鏡に映る自分に似た女に問いかける。
「私をジスランと結婚させたくない理由はなんですか? 一年後の私だと主張されてますけれど、仮にその言葉を信じても今の状況は腑に落ちません」
彼女の正体は何だろう。
私のそっくりさんが、私の幸せを妬んでいたずらをしているのかもしれない。
未来の私というが、私が運命を変えたところで彼女に何の得もない。
「私は、貴方には幸せになって欲しいだけよ。散々苦労して来たじゃない。人には言えないくらい恥ずかしい苦労を⋯⋯」
突然舞い降りた幸運に浮かれていたが、過去の恐怖の記憶が蘇る。
私は童話のシンデレラなんて可愛いくらいの虐待を受けてきた。
「貴方が私の事をよく知っていることだけは分かりました」
思い出したくない記憶に蓋をして幸せになりたい私。
私はテーブルに掛かっていた白いクロスを鏡に掛けて視界を塞ぐ。
鏡の女は視界を塞いでも私にずっと話掛けてくる。
私が耳を塞いで無視を決め込むと、そのうち鏡の女も諦めた。
扉をノックする音と共にジスランが部屋に入ってくる。
泣きぼくろが印象的な美しく男の色気のある王子。彼に見つめられれば蕩けるような気分になったのに、今の私の心は冷え切っている。初夜の前の訪問をマイナスに受け止めてしまってるのは鏡の女の話を聞いたせいだ。
「逢いたくて我慢できずに来てしまったよ。フェリシア」
私に抱きついてくるジスラン。
温もりも上品な香りも愛おしく感じていたのに、今は離れて欲しい。
私はもう寝支度をしていて、明日に備えて寝ようとしていた。
それなのに、結婚式前日にメイドはどうして彼をここに通したのだろう。
私が黙っているとジスランは不思議そうに私の顔を見つめて来た。
「マリッジブルー? 可愛いな。初々しい!」
今まで、全く引っ掛からなかった彼の言葉が妙に引っ掛かる。
(初々しい? 誰と比べて?)
その時、ノックの音と共に長い薄紫色の髪を靡かせた婀娜っぽい女が入ってきた。
「ここにいたー! 探したのよジスラン王子殿下。今日は独身最後の夜だから盛り上がりたいって言ってたじゃない」
シャラシャラと長い簾のような踊り子のドレスから太ももが覗いている。
彼女の薄紫色の腰まで届くウェーブ髪が誘惑するように揺れた。
私は鏡の女の話が現実を帯びてきたような光景に言葉を失う。
心にブリザードが吹き荒れる私をジスランは抱き寄せ、手首にキスしてきた。
「今、僕はこのお姫様に夢中なんだ」
私はジスランの言葉に若干の寒気がした。
(はぁ?)
鏡の女の話を聞く前だったら、きっと彼の言葉をストレートに受け止め優越感を感じながら恍惚とした。
「ジスラン⋯⋯。私はもう寝たいので、そちらの踊り子さんとヨロシクやってください。太ももが待ってます」
自分でも驚くくらい冷めた声が出た。
「太ももって⋯⋯何、言ってるんだよ⋯⋯」
ジスランが明らかに戸惑った顔をしている。
しかしながら、私は一晩寝て少し冷静になりたかった。
「ねえ、ジスラン王子殿下ってば、早くー。体が疼いて仕方ないの」
水飴のような甘い声を出した踊り子さんが体をクネクネさせる。
人間とは思えない軟体動物のような動き。
「だ、そうですよ。いってらっしゃい」
私はひらひらとジスランに手を振り、ベッドに潜った。
鏡の女は私の夢。彼女のせいで今の光景を私が悪く捉えてしまっているだけ。
必死に自分に言い聞かせながら、純白のシーツを頭に被る。
「いや、君は下がってくれ。僕は愛しの花嫁と話がしたい」
「はぁーい。お呼び出しいつでも待ってますよ」
シーツの上から、媚びた女の声が聞こえて踊り子さんが部屋の外に出て行くのが分かった。
ジスランがシーツを捲ってこようとするので、私は必死に抵抗する。私はこの状況を夢にして明日無事に人生最良の日を迎えたい。
「僕の可愛いフェリシア。顔を見せてくれ」
甘い言葉を吐いてくるジスラン。その甘さに浸れる期間は鏡の女がおせっかいにも強制終了させてくれた。
シーツを強引に剥がれ、目の前にある男の顔の美しさに見惚れるも私は首を振った。
「私たちの結婚、期間限定の契約結婚にしてください」
このモヤモヤを振り払う為に今、私ができる事。
私の提案を聞くなり、ジスランは首を傾げながら目を瞬かせた。
私も幼少期には楽しく読めた御伽話。母が亡くなり父が迎えた継母と連子の姉二人に虐げられるまでは⋯⋯。
周囲は私をシンデレラと呼んだ。ならば、ハッピーエンドが確約されてるはず。
そんな日は来る事がないと諦めて初めて参加した舞踏会。
ビビデバビデブーの杖で変身させて貰える訳ではない私は見窄らしい古いドレス姿。三十年も前の品だから仕方がない。私は継母イライザの意地悪で義姉二人の引き立て役になるはずだった。
そんな私をダンスに誘って夢を見させてくれたドードリッシュ王家の第一王子ジスラン。艶やかな黒髪に一度見たら忘れない琥珀色の瞳。色っぽい泣きぼくろがまた素敵。
ダンスが終わるなり、彼は世界を揺るがすプロポーズを私にする。私を虐げてきた人間たちがひっくり返るような驚きの展開。ジスランは私にとって救世主。
父が亡くなってから、継母や義姉に虐げられてきた。でも、神様は歯を食いしばり愛を信じる私を見ていてくれた。
死にたくなるような思いもしたけれど、やっと私は幸せになれる。
明日の結婚式の事を思いながら、姿見に自分の姿を映す。眩いばかりの金髪にブルーサファイアの瞳。亡くなった母に似た美しい顔立ち。見目麗しい十八歳のシンデレラはこの私。
母に似た顔立ちを何度も恨んだ。父と母を失った悲しみを分かち合いたかったが、母に似ている私を見たくないと遠ざけられた。義姉たちからは私が父と全く似ていないと難癖をつけられ、虐められる。
そんな日々ともおさらばだ。
今日は明日の結婚式に備えてドートリッシュ王宮に滞在している。今晩は客室で眠るが、明日からは王子妃の部屋に移動するのだ。新しい生活を想像しては夢が膨らむ。
この部屋でさえ、調度品一つとっても私の目でも分かるくらい一流。ベッドもふかふかで天蓋までついている。窓のカーテンも分厚い生地で明らかに高価そうだ。
もっとも、私が求めているのは王宮での豪華な生活ではない。ずっと夢見ていた愛する人と暮らす穏やかな生活。私はジスランと温かい家族が作りたい。
ふと鏡台の鏡に映っている自分の姿が見えた。
黄金を溶かし込んだような金髪に、思慮深そうなブルーサファイアの瞳。
何度見てもなかなかいない美しく聡明な令嬢、それが私。
この国の第一王子であるジスラン・ドードリッシュが一目惚れするわけだ。
「鏡よ、鏡、この世で一番美しいのはだあれ」
有頂天の私が鏡に問いかける。
すると目の前に現れたのは私に似た疲れ果てた女。
「はあ、まだ貴方はそこにいるのね。羨ましいわ。フェリシア・シャリエ!」
「この鏡おかしくなったかしら?」
私は軽く鏡を何度か叩いた。すると鏡の中の私に似た女が怒り出す。
「いい加減にして! 苦労して貴方の前に現れてあげたのよ。フェリシア・シャリエ!」
眼前の鏡は鏡ではないのかもしれない。
自分で自分を触ってみても、鏡の中の私は同じ動きはしない。
「すみません。私、巷ではシンデレラと呼ばれてるんですが、出てくる話を間違えてないですか? その⋯⋯スノウホワイト的なものと⋯⋯」
私の言葉に鏡の女は呆れたように溜息を吐く。
確かに私も調子に乗っていたのは認めるが、うんざりしているのは私の方だ。
明日は私の人生最良の日なのに、目の前のよく分からない女に付き合わされている。
「さようなら、鏡の中の人! お肌の調子と明日のジスランとの熱い夜に備えて私寝ます!」
「熱い夜ね? 確かにあの夜だけはそうだったかもね」
含みを持たせるような鏡の女の口振りが引っかかった。
「あの夜だけは?」
「言葉の通りよ。初夜が明けた後の、ジスランは酷いものだったわ。周りにはいない芋っぽい君に惹かれたが、夜まで芋かって馬鹿にしたように笑ったの」
「ジスランを知っているのですか?」
私の言葉に鏡の女が頷く。
ジスラン・ドートリッシュ。私を救ってくれた王子様だ。彼に見初められた事で私の人生は激変した。というか、これから劇的に人生が好転する予定。
継母を中心とした連合軍により虐げられた男爵令嬢フェリシア。しかし、彼女の美しさに一目惚れした王子がいた。そんなこんなで二人は結婚し、末長く暮らしましたとさ。
「ハッピリーエバーアフターはないから」
鏡の女は私の心を読んだように呟いた。
「えっ、でも、ジスランと私は愛し合ってますよ。まさか、私が一晩で飽きられると?」
「そうよ。さっきも言ったじゃない。元々、ジスランは相当な遊び人よ。派手な女ばかりに囲まれて来たから、芋女の私が気になっただけ」
「そんなバカな!? 私は洗練されてないけれど、放って置けないような可愛さがあります」
鏡の女が自分に似ているせいか、恥ずかしい事を口走ってしまう。
「放って置かれるのよ。残念ながら⋯⋯。私は一年後のフェリシア。今、彼は私に見向きもしない。移り気な彼は特別な力を持った聖女にハマった次は洗練された侯爵令嬢にハマる。最近は毎晩ワンナイトの相手を呼ぶ日々ね。それは結婚前からだったみたいだけど⋯⋯」
私は鏡の女の話に動揺を隠せなかった。ジスランがそんな遊び人だという話は聞いたことがない。もっとも、私のようなギリギリ貴族のような令嬢にまで王族の夜の事情の噂話は回ってこない。
私は一呼吸して、鏡に映る自分に似た女に問いかける。
「私をジスランと結婚させたくない理由はなんですか? 一年後の私だと主張されてますけれど、仮にその言葉を信じても今の状況は腑に落ちません」
彼女の正体は何だろう。
私のそっくりさんが、私の幸せを妬んでいたずらをしているのかもしれない。
未来の私というが、私が運命を変えたところで彼女に何の得もない。
「私は、貴方には幸せになって欲しいだけよ。散々苦労して来たじゃない。人には言えないくらい恥ずかしい苦労を⋯⋯」
突然舞い降りた幸運に浮かれていたが、過去の恐怖の記憶が蘇る。
私は童話のシンデレラなんて可愛いくらいの虐待を受けてきた。
「貴方が私の事をよく知っていることだけは分かりました」
思い出したくない記憶に蓋をして幸せになりたい私。
私はテーブルに掛かっていた白いクロスを鏡に掛けて視界を塞ぐ。
鏡の女は視界を塞いでも私にずっと話掛けてくる。
私が耳を塞いで無視を決め込むと、そのうち鏡の女も諦めた。
扉をノックする音と共にジスランが部屋に入ってくる。
泣きぼくろが印象的な美しく男の色気のある王子。彼に見つめられれば蕩けるような気分になったのに、今の私の心は冷え切っている。初夜の前の訪問をマイナスに受け止めてしまってるのは鏡の女の話を聞いたせいだ。
「逢いたくて我慢できずに来てしまったよ。フェリシア」
私に抱きついてくるジスラン。
温もりも上品な香りも愛おしく感じていたのに、今は離れて欲しい。
私はもう寝支度をしていて、明日に備えて寝ようとしていた。
それなのに、結婚式前日にメイドはどうして彼をここに通したのだろう。
私が黙っているとジスランは不思議そうに私の顔を見つめて来た。
「マリッジブルー? 可愛いな。初々しい!」
今まで、全く引っ掛からなかった彼の言葉が妙に引っ掛かる。
(初々しい? 誰と比べて?)
その時、ノックの音と共に長い薄紫色の髪を靡かせた婀娜っぽい女が入ってきた。
「ここにいたー! 探したのよジスラン王子殿下。今日は独身最後の夜だから盛り上がりたいって言ってたじゃない」
シャラシャラと長い簾のような踊り子のドレスから太ももが覗いている。
彼女の薄紫色の腰まで届くウェーブ髪が誘惑するように揺れた。
私は鏡の女の話が現実を帯びてきたような光景に言葉を失う。
心にブリザードが吹き荒れる私をジスランは抱き寄せ、手首にキスしてきた。
「今、僕はこのお姫様に夢中なんだ」
私はジスランの言葉に若干の寒気がした。
(はぁ?)
鏡の女の話を聞く前だったら、きっと彼の言葉をストレートに受け止め優越感を感じながら恍惚とした。
「ジスラン⋯⋯。私はもう寝たいので、そちらの踊り子さんとヨロシクやってください。太ももが待ってます」
自分でも驚くくらい冷めた声が出た。
「太ももって⋯⋯何、言ってるんだよ⋯⋯」
ジスランが明らかに戸惑った顔をしている。
しかしながら、私は一晩寝て少し冷静になりたかった。
「ねえ、ジスラン王子殿下ってば、早くー。体が疼いて仕方ないの」
水飴のような甘い声を出した踊り子さんが体をクネクネさせる。
人間とは思えない軟体動物のような動き。
「だ、そうですよ。いってらっしゃい」
私はひらひらとジスランに手を振り、ベッドに潜った。
鏡の女は私の夢。彼女のせいで今の光景を私が悪く捉えてしまっているだけ。
必死に自分に言い聞かせながら、純白のシーツを頭に被る。
「いや、君は下がってくれ。僕は愛しの花嫁と話がしたい」
「はぁーい。お呼び出しいつでも待ってますよ」
シーツの上から、媚びた女の声が聞こえて踊り子さんが部屋の外に出て行くのが分かった。
ジスランがシーツを捲ってこようとするので、私は必死に抵抗する。私はこの状況を夢にして明日無事に人生最良の日を迎えたい。
「僕の可愛いフェリシア。顔を見せてくれ」
甘い言葉を吐いてくるジスラン。その甘さに浸れる期間は鏡の女がおせっかいにも強制終了させてくれた。
シーツを強引に剥がれ、目の前にある男の顔の美しさに見惚れるも私は首を振った。
「私たちの結婚、期間限定の契約結婚にしてください」
このモヤモヤを振り払う為に今、私ができる事。
私の提案を聞くなり、ジスランは首を傾げながら目を瞬かせた。
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