1 / 3
序章 時の観測者クロムス
しおりを挟む
私は、時の観測者だ。
人は私を、クロムスと呼ぶ。
大層な称号に聞こえるかもしれないが、やっていることは単純だ。
始まりと終わりを見届けて、
そのあいだに挟まった人間たちの鼓動を、
できるだけ正確に紙へと写し取る。
ただそれだけの、
前線付き記録官――フロントリコーダーにすぎない。
ある戦争の話をしよう。
大地の下を走る《残響脈エコーライン》が見つかり、
その暴走を鎮めるために、人々は塔を築いた。
灰になった骨と、鉄に変わった血。
そのすべてを封じ、祈りと共に積み上げた封印塔。
街を災厄から守るための“生活の柱”として生まれたそれを、
人々は**灰鉄塔かいてつとう**と呼んだ。
塔は、もとは境界線ではなかった。
誰かの終わりを預かり、街の明日を守る、寡黙な守り手にすぎなかった。
だが、塔が建つ場所には、必ず力が集まる。
残響脈の上に立つその一点は、
魔術にとっても、信仰にとっても、政治にとっても、
あまりに都合の良い“要”だった。
塔を「管理する者」と、
塔の「下で暮らす者」。
塔を「増やしたい者」と、
塔を「これ以上打ち込まれたくない者」。
そして、そもそもエコーと塔の起源を知りながら、
神の名のもとに人々を導こうとした宗教勢力――
《残響教団》。
それぞれの正しさと、それぞれの言い分が、
少しずつ擦れ合い、欠けて、ひび割れていった結果として、
ひとつの戦役が生まれた。
三十三年にわたって続いた、その長い戦いを、
後世の歴史家たちは**《灰鉄戦役》**と呼んでいる。
教団の古い記録は**《残響審判期》**と記している。
私にとっては、ただ一つの、
「前線で見届けねばならなかった戦い」にすぎない。
あの三十三年が、
世界にとって救いだったのか、
ただの延命だったのか、
それとも、次に来る何かの“予告編”でしかなかったのか――
それを判断する役目は、私にはない。
私はただ、見て、書く。
灰鉄塔の影の下で、
泥と血と祈りのあいだに立ちながら、
人間たちが選んだ鼓動の形を、ひとつ残らず書き留める。
その三十三年のあいだに、
四人の英雄と呼ばれることになる者たちがいた。
英雄と呼ばれることを、誰も望まなかった英雄たちだ。
ひとりは、灰鉄塔の下で育った少年兵。
塔になる前に、自分の一撃を選ぼうとした少年――カガリ。
ひとりは、平定の名のもとに軍を率いながら、
戦争そのものに嫌悪を抱いていた帝国の貴族――ノア。
ひとりは、塔を奪われ、家族を失い、
自由という名の復讐に身を投じた小国の旗手――ロウ。
そしてもうひとりは、
残響脈と灰鉄塔の罪を知りながら、
それでも祈りをやめなかった《残響教団》の神官――セラ。
四人の英雄が、互いの思想を抱え、運命に抗った話を。
塔を守ろうとした者と、
塔を壊そうとした者と、
塔そのものを裁こうとした者たちの話を。
灰と鉄と心臓で綴られた、
ひとつの戦祈アイアンリクイエムの記録を。
――では、最初の頁を開こう。
灰鉄塔の下で、
はじめて「戦争」を知ることになる少年、
カガリの物語から始めるとしよう。
人は私を、クロムスと呼ぶ。
大層な称号に聞こえるかもしれないが、やっていることは単純だ。
始まりと終わりを見届けて、
そのあいだに挟まった人間たちの鼓動を、
できるだけ正確に紙へと写し取る。
ただそれだけの、
前線付き記録官――フロントリコーダーにすぎない。
ある戦争の話をしよう。
大地の下を走る《残響脈エコーライン》が見つかり、
その暴走を鎮めるために、人々は塔を築いた。
灰になった骨と、鉄に変わった血。
そのすべてを封じ、祈りと共に積み上げた封印塔。
街を災厄から守るための“生活の柱”として生まれたそれを、
人々は**灰鉄塔かいてつとう**と呼んだ。
塔は、もとは境界線ではなかった。
誰かの終わりを預かり、街の明日を守る、寡黙な守り手にすぎなかった。
だが、塔が建つ場所には、必ず力が集まる。
残響脈の上に立つその一点は、
魔術にとっても、信仰にとっても、政治にとっても、
あまりに都合の良い“要”だった。
塔を「管理する者」と、
塔の「下で暮らす者」。
塔を「増やしたい者」と、
塔を「これ以上打ち込まれたくない者」。
そして、そもそもエコーと塔の起源を知りながら、
神の名のもとに人々を導こうとした宗教勢力――
《残響教団》。
それぞれの正しさと、それぞれの言い分が、
少しずつ擦れ合い、欠けて、ひび割れていった結果として、
ひとつの戦役が生まれた。
三十三年にわたって続いた、その長い戦いを、
後世の歴史家たちは**《灰鉄戦役》**と呼んでいる。
教団の古い記録は**《残響審判期》**と記している。
私にとっては、ただ一つの、
「前線で見届けねばならなかった戦い」にすぎない。
あの三十三年が、
世界にとって救いだったのか、
ただの延命だったのか、
それとも、次に来る何かの“予告編”でしかなかったのか――
それを判断する役目は、私にはない。
私はただ、見て、書く。
灰鉄塔の影の下で、
泥と血と祈りのあいだに立ちながら、
人間たちが選んだ鼓動の形を、ひとつ残らず書き留める。
その三十三年のあいだに、
四人の英雄と呼ばれることになる者たちがいた。
英雄と呼ばれることを、誰も望まなかった英雄たちだ。
ひとりは、灰鉄塔の下で育った少年兵。
塔になる前に、自分の一撃を選ぼうとした少年――カガリ。
ひとりは、平定の名のもとに軍を率いながら、
戦争そのものに嫌悪を抱いていた帝国の貴族――ノア。
ひとりは、塔を奪われ、家族を失い、
自由という名の復讐に身を投じた小国の旗手――ロウ。
そしてもうひとりは、
残響脈と灰鉄塔の罪を知りながら、
それでも祈りをやめなかった《残響教団》の神官――セラ。
四人の英雄が、互いの思想を抱え、運命に抗った話を。
塔を守ろうとした者と、
塔を壊そうとした者と、
塔そのものを裁こうとした者たちの話を。
灰と鉄と心臓で綴られた、
ひとつの戦祈アイアンリクイエムの記録を。
――では、最初の頁を開こう。
灰鉄塔の下で、
はじめて「戦争」を知ることになる少年、
カガリの物語から始めるとしよう。
0
あなたにおすすめの小説
碧天のノアズアーク
世良シンア
ファンタジー
両親の顔を知らない双子の兄弟。
あらゆる害悪から双子を守る二人の従者。
かけがえのない仲間を失った若き女冒険者。
病に苦しむ母を救うために懸命に生きる少女。
幼い頃から血にまみれた世界で生きる幼い暗殺者。
両親に売られ生きる意味を失くした女盗賊。
一族を殺され激しい復讐心に囚われた隻眼の女剣士。
Sランク冒険者の一人として活躍する亜人国家の第二王子。
自分という存在を心底嫌悪する龍人の男。
俗世とは隔絶して生きる最強の一族族長の息子。
強い自責の念に蝕まれ自分を見失った青年。
性別も年齢も性格も違う十三人。決して交わることのなかった者たちが、ノア=オーガストの不思議な引力により一つの方舟へと乗り込んでいく。そして方舟はいくつもの荒波を越えて、飽くなき探究心を原動力に世界中を冒険する。この方舟の終着点は果たして……
※『side〇〇』という風に、それぞれのキャラ視点を通して物語が進んでいきます。そのため主人公だけでなく様々なキャラの視点が入り混じります。視点がコロコロと変わりますがご容赦いただけると幸いです。
※一話ごとの字数がまちまちとなっています。ご了承ください。
※物語が進んでいく中で、投稿済みの話を修正する場合があります。ご了承ください。
※初執筆の作品です。誤字脱字など至らぬ点が多々あると思いますが、温かい目で見守ってくださると大変ありがたいです。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
R・P・G ~転生して不死にされた俺は、最強の英雄たちと滅ぼすはずだった異世界を統治する~
イット
ファンタジー
オカルト雑誌の編集者として働いていた瀬川凛人(40)は、怪現象の取材中、異世界の大地の女神と接触する。
そのまま半ば強制的に異世界へと転生させられた彼は、惑星そのものと同化し、“星骸の主”として不死の存在へと変貌した。
だが女神から与えられた使命は、この世界の生命を滅ぼし、星を「リセット」すること。
凛人はその命令を、拒否する。
不死であっても無敵ではない。
戦いでは英雄王に殴り倒される始末。しかし一つ選択を誤れば国が滅びる危うい存在。
それでも彼は、星を守るために戦う道を選んだ。
女神の使命を「絶対拒否」する不死者と、裏ボス級の従者たち。
これは、世界を滅ぼさず、統治することを選んだ男の英雄譚である。
悪徳貴族の、イメージ改善、慈善事業
ウィリアム・ブロック
ファンタジー
現代日本から死亡したラスティは貴族に転生する。しかしその世界では貴族はあんまり良く思われていなかった。なのでノブリス・オブリージュを徹底させて、貴族のイメージ改善を目指すのだった。
【もうダメだ!】貧乏大学生、絶望から一気に成り上がる〜もし、無属性でFランクの俺が異文明の魔道兵器を担いでダンジョンに潜ったら〜
KEINO
ファンタジー
貧乏大学生の探索者はダンジョンに潜り、全てを覆す。
~あらすじ~
世界に突如出現した異次元空間「ダンジョン」。
そこから産出される魔石は人類に無限のエネルギーをもたらし、アーティファクトは魔法の力を授けた。
しかし、その恩恵は平等ではなかった。
富と力はダンジョン利権を牛耳る企業と、「属性適性」という特別な才能を持つ「選ばれし者」たちに独占され、世界は新たな格差社会へと変貌していた。
そんな歪んだ現代日本で、及川翔は「無属性」という最底辺の烙印を押された青年だった。
彼には魔法の才能も、富も、未来への希望もない。
あるのは、両親を失った二年前のダンジョン氾濫で、原因不明の昏睡状態に陥った最愛の妹、美咲を救うという、ただ一つの願いだけだった。
妹を治すため、彼は最先端の「魔力生体学」を学ぶが、学費と治療費という冷酷な現実が彼の行く手を阻む。
希望と絶望の狭間で、翔に残された道はただ一つ――危険なダンジョンに潜り、泥臭く魔石を稼ぐこと。
英雄とも呼べるようなSランク探索者が脚光を浴びる華やかな世界とは裏腹に、翔は今日も一人、薄暗いダンジョンの奥へと足を踏み入れる。
これは、神に選ばれなかった「持たざる者」が、絶望的な現実にもがきながら、たった一つの希望を掴むために抗い、やがて世界の真実と向き合う、戦いの物語。
彼の「無属性」の力が、世界を揺るがす光となることを、彼はまだ知らない。
テンプレのダンジョン物を書いてみたくなり、手を出しました。
SF味が増してくるのは結構先の予定です。
スローペースですが、しっかりと世界観を楽しんでもらえる作品になってると思います。
良かったら読んでください!
異世界でカイゼン
soue kitakaze
ファンタジー
作者:北風 荘右衛(きたかぜ そうえ)
この物語は、よくある「異世界転生」ものです。
ただ
・転生時にチート能力はもらえません
・魔物退治用アイテムももらえません
・そもそも魔物退治はしません
・農業もしません
・でも魔法が当たり前にある世界で、魔物も魔王もいます
そこで主人公はなにをするのか。
改善手法を使った問題解決です。
主人公は現世にて「問題解決のエキスパート」であり、QC手法、IE手法、品質工学、ワークデザイン法、発想法など、問題解決技術に習熟しており、また優れた発想力を持つ人間です。ただそれを正統に評価されていないという鬱屈が溜まっていました。
そんな彼が飛ばされた異世界で、己の才覚ひとつで異世界を渡って行く。そういうお話をギャグを中心に描きます。簡単に言えば。
「人の死なない邪道ファンタジーな、異世界でカイゼンをするギャグ物語」
ということになります。
最強無敗の少年は影を従え全てを制す
ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。
産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。
カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。
しかし彼の力は生まれながらにして最強。
そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。
大ッ嫌いな英雄様達に告ぐ
鮭とば
ファンタジー
剣があって、魔法があって、けれども機械はない世界。妖魔族、俗に言う魔族と人間族の、原因は最早誰にもわからない、終わらない小競り合いに、いつからあらわれたのかは皆わからないが、一旦の終止符をねじ込んだ聖女様と、それを守る5人の英雄様。
それが約50年前。
聖女様はそれから2回代替わりをし、数年前に3回目の代替わりをしたばかりで、英雄様は数え切れないぐらい替わってる。
英雄の座は常に5つで、基本的にどこから英雄を選ぶかは決まってる。
俺は、なんとしても、聖女様のすぐ隣に居たい。
でも…英雄は5人もいらないな。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
