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プロローグ?

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その日ジャントルは空腹で喘いでいた。
三日何も食べていない。砂漠のど真ん中で盗賊に会い、荷物も水もすべて取られてしまった。
もう死ぬしかない。
どうしても生きたいと、一歩一歩歩いていた。
激しい灼熱の地獄。
汗で体が干上がりそうだ。水が欲しい。激しいのどの渇きに、遠くに湖がある幻覚が見えてくる。
ああ、そこに湖が。
ジャントルは手を伸ばし、そのまま熱い砂の上に倒れこんだ。

「あの大丈夫ですか?」

間の抜けた声。
ジャントルは顔を上げると、そこには少年の姿があった。東洋人なのか、黒い髪と黒い瞳のんっぺりとした顔立ちの少年が、ジャントルを見下ろしている。

「み、水をくれ」
ひりつく喉で、なんとかジャントルはそれだけを言う。
「よかったら、家の中にどうぞ。ここ砂漠のど真ん中で、暑いですし」
「は?」
ジャントルは目を見開く。
少年の後ろにはいつのまにか、家のドアだけが浮いていた。砂漠のど真ん中だぞここは?ついに死の間際に幻覚を乱したのかと、ジャントルは焦る。

少年は平然とした顔で、たたずむドアを開けて、ジャントルを中に招こうとしている。

「立てませんか?」
心配そうな少年の顔。
「だ、大丈夫だ」
生きれるならばなんでもいいと、ジャントルは少年に招かれるまま、ドアの中へと一歩踏み入る。

ドアの中に入ると、そこは楽園だった。
涼しい風に、潤う澄んだ空気に、木々が揺れる音。
確かに砂漠のど真ん中だったのに。
唖然とするジャントル。
もうそこは別空間だ。
ここは?
唖然とするジャントルに、少年は微笑む。

「初めまして、僕の名前は西田俊彦といいます。あなたは?」

自分の名前を聞かれたが、それどころではないと、ジャントルはつばを飲み込む。
「俺はジャントル。旅の商人だ。お前は、なんだ?ここは何なんだ?俺たちは砂漠のど真ん中にいたはずだろう?」

「ここは、俺の家です。何でか知らないけど、色んな空間をさまよっている家なんです」
そう西田と名乗る少年は、ジャントルに言ったのだった。

「あそこに見えるのが、俺の家です」
少年西田が指さしたそこには、美しい自然の中に一軒の白い色の家が建っていた。

森の中に立つ一軒家の庭には湖が見えた。その湖の中心には、異常にでかい大木がそびえたっていた。

「な、なんだあれは?」
ジャントルは唖然として、その異常なでかい木を指さす。あのでかさは空を貫通しているように見える。

西田は首をかしげて、ジャントルの指さす方を見た。
「ああ、あの木ですか?
家の庭にはでかい木の世界樹があって、でかい木の周りには命の湖が広がっています。あそこの湖で傷をつけると、治りますよ。けどあそこにはでかい狼の健太郎がいて、湖を守っているから、あまり近づかないようにしています」

そうわけわからないことを、西田少年は呟いたのだった。
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