31 / 34
番外編 手つなぎおじさんその2
しおりを挟む手つなぎおじさんこと、黒木大膳はもともと外交官勤めであった。
なんだかその職務にあきて気分転換で、会社をたちあげた。
なんでかしれないが、大膳の気まぐれで創立した会社は、大成功した。テレビにもでるようになったが、妻と息子との関係は冷え切っていた。
随分と妻とは話していない。
大膳が妻の久恵に出会ったのは、中学生のころだ。
我ながら学生時代の大膳は女性からもてた。しかし付き合った女性からは、「朴念仁」といわれてふられた。
勉学や読書ばかりしていた大膳は、女性の扱いに慣れていなかった。
女性との距離を詰めれない大膳に対して、妻の久恵は熱烈に大膳に愛を伝え続けて、恋人同士になることになった。
妻は大膳のことを愛するあまりに、大膳のすべてを知りたがった。
好きなもの同士ならば当たり前の行為だが、大膳の妻は毎日そんな話ばかりだ。
大膳が出張でもしようものなら、浮気でもしようとしているのかと、大膳を責め立てる。
大膳はそんな妻との会話に疲れて、あまり家に帰らないようになった。
息子は家を出て、一人暮らしを始めている。
仕事は楽しい。だがなんだかむなしい。そんな思いを抱えながら、黒木は電車に乗っていると、あの子に出会ったのだ。
電車に乗るあの子は平凡で、だがなぜかいつも痴漢に会っていた。そのときのあの子の顔は、困ったような顔で「あの手が当たっていますよ」と、痴漢をしている男に言っていた。
痴漢はろくに抵抗しないあの子にたいして、どんどん大胆に痴漢するようになっていく。
痴漢されているあの子の物悲しげな顔を見ていたら、黒木は自分の精神が高揚していくのを感じた。
ようはムラっと、来たのだ。
働きづめで、まったく男としての興奮なんぞ忘れ切っていたのに。
己がまさか同性でそういう気持ちになるとは思わず、黒木は己自身に驚いていた。
仕事以外色のない退屈な世界。その世界に色が付いた気がした。
だが別に黒木は浮気しようなどとは思わなかった。ただ少し色鮮やかな光景を眺めているような気でいた。我ながら最低なことだが。
黒木は人を使って、あの子の素性を調べさせた。
あの子の名前は佐々木忍というらしい。
あの子の姿を思い浮かべては、いけないことをした。
別に黒木は忍に触れる気はなかった。
ある日、魔が差した。
妻の誕生日に、妻は黒木からの電話にでなかったのだ。
自業自得だと思った。
黒木はいつも妻の誕生日だって、仕事をしていたからだ。今更妻を責めることはできないだろう。
正直妻の関心が、黒木から離れてくれて、ほっともしていた。
ぼんやり忍のいる電車に乗っていた。
忍は花束をもって、嬉しそうにその花束を見ていた。だからなのか、寂しくなって、その忍の反対側の手を、黒木は気が付いたら握っていた。
目を見開いて驚いた忍の顔と、暖かな忍の手に、黒木は年甲斐もなく胸をときめかせていた。
自分のあれを触った手で、忍の手に触れることに異様に興奮を覚えた。
それから黒木はいつも、忍の手を握るようになった。
忍の手をにぎると、その興奮と、心が落ち着くような気がした。痴漢されている忍の手を握って、抵抗を封じることも、ただいに興奮した。邪だが。
一人歩く黒木は昔のことを思い出していた。
自身の腕を見ると、忍の彼氏と名乗った男が掴んだ絞め痕が残っている。黒木は苦笑いを浮かべると、その腕に触れた。
凄まじい締め付けだった。
あの男は普通の男と思えない。忍が大丈夫か、黒木はと心配する。
黒木はそろそろ現実に戻るときかもしれないと思う。
妻とも話し合わなければならないだろうと、ぼんやり考えながら、家路についた。
1
あなたにおすすめの小説
【完結】愛されたかった僕の人生
Kanade
BL
✯オメガバース
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。
今日も《夫》は帰らない。
《夫》には僕以外の『番』がいる。
ねぇ、どうしてなの?
一目惚れだって言ったじゃない。
愛してるって言ってくれたじゃないか。
ねぇ、僕はもう要らないの…?
独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。
鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる
結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。
冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。
憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。
誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。
鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる