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松井すき焼き

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番外編 手つなぎおじさんその2

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 手つなぎおじさんこと、黒木大膳はもともと外交官勤めであった。
なんだかその職務にあきて気分転換で、会社をたちあげた。

なんでかしれないが、大膳の気まぐれで創立した会社は、大成功した。テレビにもでるようになったが、妻と息子との関係は冷え切っていた。

随分と妻とは話していない。

大膳が妻の久恵に出会ったのは、中学生のころだ。
我ながら学生時代の大膳は女性からもてた。しかし付き合った女性からは、「朴念仁」といわれてふられた。
勉学や読書ばかりしていた大膳は、女性の扱いに慣れていなかった。

女性との距離を詰めれない大膳に対して、妻の久恵は熱烈に大膳に愛を伝え続けて、恋人同士になることになった。

妻は大膳のことを愛するあまりに、大膳のすべてを知りたがった。
好きなもの同士ならば当たり前の行為だが、大膳の妻は毎日そんな話ばかりだ。

大膳が出張でもしようものなら、浮気でもしようとしているのかと、大膳を責め立てる。
大膳はそんな妻との会話に疲れて、あまり家に帰らないようになった。

息子は家を出て、一人暮らしを始めている。

仕事は楽しい。だがなんだかむなしい。そんな思いを抱えながら、黒木は電車に乗っていると、あの子に出会ったのだ。

電車に乗るあの子は平凡で、だがなぜかいつも痴漢に会っていた。そのときのあの子の顔は、困ったような顔で「あの手が当たっていますよ」と、痴漢をしている男に言っていた。

痴漢はろくに抵抗しないあの子にたいして、どんどん大胆に痴漢するようになっていく。
痴漢されているあの子の物悲しげな顔を見ていたら、黒木は自分の精神が高揚していくのを感じた。
ようはムラっと、来たのだ。
働きづめで、まったく男としての興奮なんぞ忘れ切っていたのに。
己がまさか同性でそういう気持ちになるとは思わず、黒木は己自身に驚いていた。
仕事以外色のない退屈な世界。その世界に色が付いた気がした。

だが別に黒木は浮気しようなどとは思わなかった。ただ少し色鮮やかな光景を眺めているような気でいた。我ながら最低なことだが。

黒木は人を使って、あの子の素性を調べさせた。
あの子の名前は佐々木忍というらしい。
あの子の姿を思い浮かべては、いけないことをした。

別に黒木は忍に触れる気はなかった。

ある日、魔が差した。

妻の誕生日に、妻は黒木からの電話にでなかったのだ。
自業自得だと思った。
黒木はいつも妻の誕生日だって、仕事をしていたからだ。今更妻を責めることはできないだろう。
正直妻の関心が、黒木から離れてくれて、ほっともしていた。

ぼんやり忍のいる電車に乗っていた。

忍は花束をもって、嬉しそうにその花束を見ていた。だからなのか、寂しくなって、その忍の反対側の手を、黒木は気が付いたら握っていた。

目を見開いて驚いた忍の顔と、暖かな忍の手に、黒木は年甲斐もなく胸をときめかせていた。
自分のあれを触った手で、忍の手に触れることに異様に興奮を覚えた。

それから黒木はいつも、忍の手を握るようになった。
忍の手をにぎると、その興奮と、心が落ち着くような気がした。痴漢されている忍の手を握って、抵抗を封じることも、ただいに興奮した。邪だが。


一人歩く黒木は昔のことを思い出していた。

自身の腕を見ると、忍の彼氏と名乗った男が掴んだ絞め痕が残っている。黒木は苦笑いを浮かべると、その腕に触れた。
凄まじい締め付けだった。
あの男は普通の男と思えない。忍が大丈夫か、黒木はと心配する。

黒木はそろそろ現実に戻るときかもしれないと思う。
妻とも話し合わなければならないだろうと、ぼんやり考えながら、家路についた。
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